第28話  マントヴァの雪 その一

窓の外は、雪が静かに降っていた。そして、部屋の中は不思議な明るさに満ちていた。

イザベラは静かに窓辺に歩み寄ると外を見た。 マントヴァのすべてが純白の雪に覆われていた。 この青色い光・・・イザベラには、雪の降る音が聞こえる様な気がした。

その時、扉が開いてフランチェスコが入って来た。

「何を見ているんですか?」

イザベラは微笑みながら

「雪を見ていたんです。マントヴァの山野に降り積もる雪を。

そして、考えたんです。」

イザベラは口をつぐんだ。

「一体、何を考えたんですか?」

「お笑いにならないで下さいね。 私、考えたんです。

 『彼女が一歩足を踏み入れた時からマントヴァの運命が変わった』

そう言われる人になりたいな、って。」

思い切ってそう言うと、イザベラはうつむいた。

「素晴らしいことです。 私は貴女が、この国に新しい光をもたらす人だと信じています。」

イザベラは、思わず涙ぐんだ。そして、フランチェスコの目を見つめて言った。

「殿、私は考えました。

マントヴァは小さな国です。この国が超一流になれるとしたら、それは芸術や文化です。私はマントヴァを、ヨーロッパの芸術や文化の中心にしたいと思います。」

フランチェスコは大きく目を見開き、身を乗り出して真剣な面持ちで聞いていた。


イザベラの部屋は塔の二階で、窓からは湖と聖ジョルジョ橋がよく見えた。

15歳のイザベラはこの部屋を「ストゥディオーロ」と呼ぶことにした(これは歴史的瞬間である)。

               つづく

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