第27話  婚礼 その三

「さあ、行きましょう。」

フランチェスコは言った。 

15歳の花嫁イザベラは涙を拭くと

「はい。」

と言った。 花婿フランチェスコに迎えられたイザベラは、フェラーラから送って来てくれた父母や弟妹に今、別れを告げたのである。

イザベラは馬に乗った。フランチェスコとウルビーノ公爵グイドバルドも馬に乗り、イザベラを真ん中に門の前に三人並んだ。

いよいよ今からマントヴァの国に入るのだ。

イザベラは手綱を握りしめ、真剣な面持ちで待った。

花婿フランチェスコも緊張し、身を固くしていた。

「それでは。」

グイドバルドの声と同時に、三人は揃って馬を進めた。

その後に、フランス、ナポリ、ミラノ、ヴェネツィア、フィレンツェ、ジェノヴァ、ピサ、その他あらゆるイタリア中の国々の沢山の大使たちが騎馬で従った。どの馬も美しく飾り立てられていた。

突然、大地を揺るがす様な歓声が沸き起こった。 沿道には、今まで見たことも無い沢山の人々が、なだれ溢れていた。一目イザベラの姿を見ようと、人々は恐ろしい勢いで道まで押し寄せた。地の底から湧き上がる様な熱狂的歓呼は町中に反響し、イザベラは気が遠くなった。

花嫁衣装に身を包んだ15歳の侯妃のこの世ならぬ美しさに、マントヴァの人々は魂を奪われた。

プラデラ門の前には、白い式服を着た聖歌隊の子供たちが並び、賛美歌でイザベラを出迎えた。

アルベルティ設計のサンタンドレア教会の広場、聖ヤコポ橋、公園の門、そしてお城の跳ね橋の前では、歓迎の野外劇や音楽会の準備が今、大詰めを迎えていた。

そして、七つの惑星と九階層の天使たちの彫刻が飾られ、お城の広い階段の下では天使の羽根を付けた金髪の少年たちが、今日のために作曲された結婚祝歌を合唱して歓迎の意を表した。

イザベラはそこで、フランチェスコの妹エリザベッタに迎え入れられた。

「国家の間」では、すぐに盛大な祝宴が始まった。

しかし、フランチェスコの喜びは、それでは治まらなかった。彼は広場でも盛大な祝宴を催し、誰であれ広場に来た全ての人に御馳走し、もてなしたのである。

広場の噴水からは葡萄酒が湧き出ていた。

フランチェスコは、マントヴァの全ての国民と、この耐え難い喜びを分かち合いたかったのだ。

お祝いは、カーニバル最終日まで続いた。騎馬試合や舞踏会、松明の行列が目まぐるしく続き、広場では連日連夜新たな祝宴が盛大に催された。

そして、お城や教会や町や動物、その他あらゆるものをかたどった名人芸の素晴しいお菓子が、喜びに沸く町中の人々に配られた。

                       つづく


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