第25話  婚礼 その一

数日後、マントヴァから正式な使者が優勝旗を携えて来た。

そして、エルコレ一世、エレオノーラ公妃と会見し、婚礼の日取りを1490年2月11日と決定した。

あと僅かな月日しか残されていないので、フェラーラでは婚礼の支度に上を下への大騒ぎとなった。

ヴェネツィアから取り寄せた黄金は、長持の装飾に使われた。

見事な彫刻を施した銀の個人祭壇、つづれ織りの壁掛け、典雅な馬車、黄金を貼った壮麗な船などが、婚礼のために新調された。

結婚式に花嫁が帯びるベルトは、名人フラ・ロッコの手により金銀で造られた。


しかし、イザベラはその間、全く違うことに専念していた。

あれ以来、あの4人の従弟たちが姿を見せないのだ。それまでは毎日、図書館かお城の廊下か中庭か何処かで出会ったのに、4人とも全くイザベラの前に現れなくなった。

イザベラは、一人一人に小さな壁掛けを作ってあげようと思った。イザベラは、母に教えてもらいながら、クリーム色の布に一針一針刺繍していった。慣れないので何度も指を針で刺したが、それでも一心に花かごの絵を刺繍し続けた。薔薇の花、百合の花、ひな菊・・・イザベラは一針一針心を込めて刺繍した。

「姫様、もうお休みになりませんと、御身体に障りますよ。」

侍女が言った。机の上の燭台の光が部屋中に柔らかく広がり、侍女を照らしていた。蝋燭の火のゆらめきとともに侍女の影も揺れた。

「有難う。でも、もう少しだけやりたいの。構わずに先に休んでちょうだい。」

侍女は静かに出て行った。イザベラは燭台を引き寄せ、空が白むまで続けた。

やっと4枚刺繍出来たのは、婚礼の日の2日前であった。母に手伝ってもらって木の枠をはめ、ふさ飾りを付けると、小さな可愛らしい壁飾りになった。

イザベラは、それを弟のアルフォンソに届けてもらった。

                           つづく

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