第24話  騎馬試合 その五

いつか日は西に傾き、部屋の中は茜色に染まった。もう、トーナメントは終了したことであろう。既にフランチェスコの運命は決まってしまったのだと思うと、イザベラは身を投げ出して泣き崩れた。

夜になってもイザベラはぼんやりとしていた。夕食を運んで来た侍女が見ると、イザベラはベッドに腰を掛けてリュートを構えてはいるが、物思いに沈んで、その姿は力が無く、とても声をかけることは出来なかった。

明日はいよいよ母が帰って来るのだと思うと、イザベラは新たな恐怖に胸が絞めつけられた。


とうとう夜が明けた。今日全てがわかるのだと思うと、イザベラは後から後から涙が湧いてきた。リュートを弾いてもすぐに涙がこぼれた。それでもイザベラは、リュートを放すことが出来なかった。

夕方が近づくにつれイザベラの恐怖は増していった。もうすぐ母が帰って来る。イザベラは身を震わせる思いで待った。

6時  7時

イザベラは時計の針ばかりを見つめていた。

しかし、母はいつまでたっても帰って来なかった。

イザベラは不安で胸が張り裂けそうになった。こんなに遅いのは、きっと何か悪いことが起こったに違いない。イザベラは顔を覆って泣き出した。何時間も泣き続けた後、イザベラは膝まづいて静かに祈った。

その時、扉が激しく叩かれ

「姫様、姫様、お妃様のお帰りでございます。」

と、侍女の声がした。イザベラは無我夢中で飛んで行った。階段を駈け下り、正面玄関へ走って行くと、母とぶつかりそうになった。

「イザベラ、大変なことが起こったの。」

イザベラの顔から一気に血の気が引き、草の葉の様な色になった。

「そうじゃないの。安心して。フランチェスコ様は見事優勝なさいました。」

イザベラの目からどっと涙が溢れ出て、立っていることが出来なかった。

「大変なことが起こったのは、、その後なのよ。」

イザベラは、何事が起ったのか、とまた真っ青になった。

「あの神聖な優勝旗をミラノ公が差し出されると、フランチェスコ様は急にうつむかれたの。 目を閉じられて、そのお顔は蒼白でした。

フランチェスコ様がいつまでもそうなさっているから、会場に集まった人々は皆、何事が起ったのかとざわめき出したわ。その時、フランチェスコ様は急に顔を挙げられ、よく透る大きなお声で

『この旗を、フェラーラの公女イザベラ姫に捧げます。』

とおっしゃったのです。

一瞬会場は水を打った様になり、次の瞬間、割れる様な拍手と歓声で包まれたの。」

                つづく


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