第23話 騎馬試合 その四
それでもイザベラはリュートを弾き続けた。
いろいろな曲を弾いてみたが、古いフランスの歌が一番心が和む様で、そればかりを弾き続けた。
夜になっても部屋から一歩も出ず、リュートばかりを弾いていた。
神様にお祈りしなければいけないと思ったが、今はそのことを考えるだけでも恐ろしかった。
イザベラは窓からぼんやりと星空を見上げながら、母は今頃どのあたりを旅しているのであろう、と思った。
何度目かに目を覚ました時、夜は白々と明けかかっていた。
イザベラはベッドから起き出して服に着替えると、膝まづいて神様に祈りを捧げた。数時間後にトーナメントが始まるのだ。
母はもうミラノに着いたことであろう。
イザベラは目を閉じて一心に祈った。
体中が微かに震え、涙は出なかった。
日が高く昇るにつれ、イザベラは胸が熱い鉛でいっぱいになる様な耐え難い苦しみを覚えた。
イザベラは枕元の小机からリュートを取り上げるとかき鳴らした。
不意にイザベラはリュートの上に突っ伏し、身も世もなく泣き出した。
そして暫く泣くと、また身を起こしてリュートを激しくかき鳴らした。
今、どの様な運命がミラノで展開しているのか。
イザベラは、その思いから逃れたい一心で、憑かれた様にリュートを弾き続けた。
胸が灼ける様に熱かった。
何時間経ったことであろう。それでもイザベラはリュートをやめなかった。
「あっ」
突然、リュートの弦が一本切れた。
イザベラは胸騒ぎがして、リュートを投げ出すと膝まづいて必死で祈った。
つづく
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