第22話 騎馬試合 その三
トーナメントを2日後に控えた夜、母はイザベラに言った。
「私、ミラノに行ってこようと思うの。貴女は来ない方がいいわ。もしも貴女が見てるってお知りになったら、フランチェスコ様は平常心を失われるでしょう。」
イザベラは、何も言えずに母の顔を見つめた。
翌朝早くイザベラは母を見送りに出た。
空気は澄んで冷たく、あたりは霧が立ち込めていた。
馬車に乗る前に母はイザベラの目を見て言った。
「気を強く持つのよ。」
イザベラは涙ぐんでうなづいた。
「ほらほら。」
母はハンカチを取り出すと、イザベラの涙を拭った。
「さあ、笑って。明るい所にだけ幸せがやって来るのよ。」
イザベラは笑って見せたが、後から後から涙がにじんできた。
「イザベラ、どこまでも神様を信じなさい。
神様は必ずお守り下さるわ。」
馬車はやがて霧の向こうに去って行った。
イザベラは自分の部屋に戻ると、目を閉じ、手を合わせてひたすら祈り続けた。涙がとめどなくこぼれた。胸が絞めつけられる様に痛んだ。
イザベラは戸棚からリュートを取り出すと、静かに弾き始めた。
そして、それに合わせて歌ったが、いつもと違って声がかすれ、続かなかった。
イザベラはリュートをかき鳴らした。
しかし、気がつくといつしか指は止まっていた。
つづく
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