第21話  騎馬試合 その二

「姫様、お怒りにならないで下さいませ。フランチェスコ・ゴンザーガ様の御身の上を思って申し上げるのでございますから。」

イザベラは、声が出なかった。

「あのトーナメントは、恐ろしいものでございます。私はこの年まで何度も見て参りましたが、あの試合中に亡くなられたり、大怪我をなさった御方がどれほど居られたことでございましょう。それも、弱い御方より、寧ろ優勝候補に挙がる様な、当代随一と謳われる様な御方ほど犠牲になって居られます。

姫様、どうかフランチェスコ様をお引き止め下さいませ。姫様が不幸になられるのではないかと思うと、私はもう心配で心配で。」

侍女はそう言って泣き出した。イザベラは全身の震えが止まらなかった。

イザベラは母の所へ飛んで行った。

「お母様、大変です。フランチェスコ様をお止めしなくては。」

「急にどうしたの。」

イザベラは今侍女から聞いたばかりの話を伝えた。母は一点を見つめたまま黙っていた。

「でも、お母様、フランチェスコ様はお聞き下さいますでしょうか?」

母はなおも黙り続けた。

「お母様、私は心配です。 でも、もしもお聞き届けいただけないのなら、却ってフランチェスコ様の御心を乱して・・・」

イザベラは泣き出した。

「貴女の言うとおりだわ。フランチェスコ様は、絶対におやめにならないでしょう。 私たちは、ただ神様に祈りましょう。」

母は静かに言った。イザベラは肩を震わせて泣き続けた。

                      つづく


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