第20話 騎馬試合 その一
その年1489年の冬、イタリア全土はミラノのトーナメント(騎馬試合)の話題で持ち切りになった。5年に一度ミラノでは、中世さながらの騎馬槍試合が盛大に挙行されるのであった。この試合には諸侯や貴族ばかりでなく、イタリア全土の「我こそは」と腕に覚えのある者はことごとく参加し、この大会の優勝者に贈られる神聖な旗を手にすることは、イタリア全土の全ての若者の夢であった。
イタリア中が一か月も前から「誰が優勝するか」という話題で持ち切りになった。
やがて人々の予想は、数人の若者に絞られていった。そして、その中にフランチェスコの名前も含まれていた。
イザベラは、もう居ても立ってもいられない気持ちで、誰かトーナメントの話題をしないかと、毎日そればかりを気にしていた。
ご飯も喉につかえ、夜も全然眠れなかった。
そして、誰か他の若者の名前が出ると、イザベラは悔しさと不安で胸がいっぱいになった。イザベラは絶えず心の中で神様にフランチェスコの勝利を祈り続けた。そのことを考えただけでも、ひとりでに涙が出てきた。
或る日、年取った侍女が思いつめた表情で言った。
「姫様、お怒りにならないで下さいませ。フランチェスコ・ゴンザーガ様の御身の上を思って申し上げるのでございますから。」
つづく
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