第16話  マントヴァの秋祭り その一

夏が過ぎ秋が来ると、フェラーラはまた落ち着きを失った。

隣国のマントヴァで秋の収穫のお祭りが盛大に行われるのだ。お祭り好きのフェラーラの人々は、毎年大挙して川船でマントヴァの秋祭りにくり出して行くのだった。

お祭りの日が近づくにつれ、もう、みんなじっとしていなかった。

そんな中で、4人の従弟たちは特に落ち着きを失った。


イザベラは相変わらず、毎日の様にエステンセ図書館の「ラテンの部屋」へ行き、満ちたりた心でヴィルギリウスに読みふけっていた。

秋祭りの前日もイザベラは「ラテンの部屋」の窓際のテーブルでヴィルギリウスを読んでいた。

その時、ジョヴァンニが入って来た。

ジョヴァンニは儀式の時だけ着る様な一番良い服に身を包んでいるので、イザベラは目を見張った。ジョヴァンニはいつになく愛想よく会釈し、顔を真っ赤にして、目の横に青筋を立てながら笑って見せた。

暫くして扉が開く音がしたので振り返ると、ステファノが立っていた。

驚いたことにステファノも一番良い服を着ていた。イザベラが会釈をしてもステファノは眉一つ動かさず、こわばった顔のまま部屋へ入って来た。

そして、大股で一直線にこちらにやって来ると、イザベラにぶつかるほどすれすれの所を通って行った。

数分後、今度はエンリーコとルチオが揃って、彼らも一番良い服に身を包んで現れた。イザベラが振り返って、感心した様に微笑んで見せると、彼らは急に相好を崩し、二人でふざけながらジョヴァンニたちの所へ行った。

イザベラは心から、この従弟たちは命と同じくらい大切な、かけがえの無い宝だと思った。


その夜、イザベラは上機嫌で母にそのことを話した。

母は黙って奥深い目つきで聞いていたが、やがて静かに言った。

「あのね、イザベラ、アルフォンソから大変なことを聞いたの。

あの4人が明日、マントヴァの秋祭りで見回りをするんですって。お祭りの会場を4つに分けてそれぞれ分担を決めてね。

フランチェスコ様が現れないか、見張るつもりらしいの。

決して貴女に会わせない、と言っているんですって。」


イザベラはうなだれて自分の部屋へ行った。

窓から星空を見上げながら、イザベラは物思いに沈んだ。

今にして思えば、従兄たちが今日、一番良い服を着てやって来たのは、彼らの切なる訴えだった様な気がした。

それを思うと、イザベラは涙がにじんできた。

とても明日マントヴァに行くことは許されない様な気がした。

                         つづく

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