第8話 聖ジョルジョ祭 その四
「ねえ、毎年スキファノイア宮殿の近くに氷水のお店が並ぶの。何と言っても、私、あれが一番楽しみよ。」
叔母はそう言って、スキファノイア宮殿の方角へ向かって歩き出した。
フランチェスコが現れるに違いない野外劇場に、イザベラは早く行きたくてたまらなかったが、今日は叔母はお客様なので、わがままを言ってはいけないと思っておとなしくついて行った。
「ねえ、あの戦争の時、妹さんはナポリにいたのでしょ?」
「はい、ベアトリーチェは10歳までナポリにいました。
私が3歳の時、母は私と2歳のベアトリーチェと1歳のアルフォンソを連れて、ナポリへお里帰りしたんです。」
「ああ、そうね。 エレオノーラ様は、ナポリの王女でいらしたんですものね。
その時じゃなかったの?エレオノーラ様の弟君のアルフォンソ様が貴女を見て
『なんて可愛い子なんだろう。姪でなかったらお嫁さんにするのに。』
っておっしゃったのは。」
イザベラは、うつむいて微笑んだ。
「その時ナポリの祖父が、私かベアトリーチェのどちらかをナポリに置いて帰る様にと母に言ったんです。人質的な意味もあったので、母は反対しましたが、あまり祖父に頼まれたので、とうとうベアトリーチェを預けて帰ったそうです。
ベアトリーチェは、それから8年間ナポリにいました。
ベアトリーチェが黒い服を好んで着るのも、あの8年間が影を落としている様な気がして・・・自分は親から見捨てられた、と。」
そう言ってイザベラは、一瞬、悲しげな表情を浮かべた。
しかし、すぐにまたイザベラは、叔母をもてなしたい一心でお喋りに興じた。そうしながらもイザベラは、目だけは注意深くあたりを見ることを怠らなかった。すれ違う人や、道の両側の出店の中の人々の顔を、イザベラは一つ一つ見ていった。
つづく
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