第6話 聖ジョルジョ祭 その二
「お祭りはどうなるのかしら。」
空はなべ墨色に雲が垂れ込め、大粒の雨が音を立てて降っていた。プラタナスの木々が大きく揺れているのを見ると、風もかなりある様だ。
しかし、一方、お祭りの準備は着々と進んでいた。沢山の人々がびしょ濡れになりながら、あちこちで小屋やテントを建てているのだ。風に翻るテントを力ずくで抑えつけている人や、材料が届かないのか手持無沙汰に雨の中でしゃがんでいる人もいる。もう出来上がっているテントも幾つかあった。木々には色とりどりの無数の造花が飾りつけられ、ちぎれそうなほど激しく風に翻っていた。
その時、母が入って来た。
「イザベラ、早くこの服を着て。
今日のために作ったの。 本当に、もう間に合わないかと思ったわ。」
「まあ、なんて素敵なんでしょう。」
純白のレースの服を見て、イザベラは思わずため息を漏らした。
「お母様、有難う。」
「さあ、早く着て見せてちょうだい。」
イザベラは侍女たちに手伝ってもらって着終えると、母の前に立った。
母は何も言わずに相好を崩した。
「叔母様をお待たせしてはいけないから、早く来てね。」
母はそう言って出て行った。イザベラは急いで顔を洗い、歯を磨き、侍女に髪を結ってもらうと、鞠の様に階段を駈け下りて階下の食堂に走って行った。
その途端、食堂のテーブルに就いていた叔母も妹や弟も息を飲んだ。
純白のレースの服に身を包んだイザベラは、目の覚める様な美しさであった。
色は雪の様に白く、大きな瞳は黒水晶の様に澄み渡り、豊かな髪は深い栗色をたたえていた。
聡明さと気品、そして、幼さ、無邪気さ、人の好さが入り混じった表情は、忘れ難い印象を残した。
イザベラは、あまり皆が眺めるので、顔を挙げることが出来なかった。
妹のベアトリーチェは14歳、弟のアルフォンソは13歳。
幼い弟たち、フェランテとイポリートはまだ寝ているらしかった。
父の姿が見えないが、野外劇場の設営に行っているのであろう。
朝食の間もイザベラは窓の外を見つめ続けた。
つづく
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