第6話


 二日後。

 隆哉は自身の通う大学にいた。


 家にいても、美乃里のことばかり考える。

 別のことを考えないと、頭がおかしくなりそうだった。

 しかし、大学にいても考えることは変わらない。


「おい、隆哉どうした?」

 教室で同じ学部の柏木京介(かしわぎきょうすけ)が、呆然とする隆哉に聞いた。

 長身のショートヘアーに整った顔立ち。女子からモテるイケメンだった。


「あ、なんだ柏木か。おはよう」

 俯いていた隆哉は顔を上げ、覇気無い声を返す。


 京介とは、大学一年からの友人。

 共通の趣味は無いが、自然と話す仲になった。


「反応うす」

 唖然とした顔で京介は驚いた。

「そう?」

 そんなつもりは無かった。

 と言うより、お前のことは何も考えていない。


「その様子だと、彼女と別れたのか?」

「・・・・・・察しが良いな、お前」

 人を見る目があると言うか、洞察力があると言うか。

 相変わらず、わからない男だ。


「だろ。で、別れたのか?」

「いや。――これから、別れるさ」


 そう。

 僕と美乃里はこれから別れるのだ。


 ――不本意ながら。


「にしては、割り切れていない顔しているな」

「まあな」

 割り切れるはずが無いだろう。納得なんてしていない。

 だけど、納得せざる負えない現実と自身の無力さがあった。


 まあ、何でも持っているお前には、わからんよな――柏木。


「とりあえず、隆哉」

「何だよ、柏木」

 改まった様に真剣そうな顔をするなよ。

 普段は余裕そうな表情しているのに。


「良い女は忘れられないから気を付けろ」

 強調する様に京介はゆっくりと頷いた。

「――わかっているよ」

 お前なんかに言われなくても。隆哉は不機嫌そうに言った。


 別れたとしても。

 僕らはこれからも彼女を思い出し、思い続けるだろう。

 それほど、僕は美乃里を思い、愛していた。



 午後二時頃。

 構内の廊下を歩いていると、佳織から連絡があった。


【美乃里が目を覚ました。事故のことは説明しました】

 美乃里の返事は、佳織のメールには書いていなかった。


「書けないよな。さすがに」

 想像はつく。そんなこと、考えるだけで辛い。


 すると、追加でもう一通、佳織からメールが届く。


【今日、美乃里に会えませんか?】

 廊下で思わず、隆哉は立ち止まった。


 午後の授業が終わるのは、四時過ぎ。

 面会時間には十分間に合う。


【行きます】

 一言。すぐさま佳織にメールを送った。


 午後の授業は、何一つ頭に入らなかった。

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神さまは砂時計を廻さない 桜木 澪 @mio_sakuragi

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