馬鹿舌

タルト上のフルーツはつやつやと光沢を放ち

それはまるでプラスチック製のレプリカのようですらあった


フォークで一口大に切り分けると

こつ、と底の硬い生地きじでフォークの先端せんたんが止まった


何度か刺し、やっとのことで本体から一口大ひとくちだいに切り離す


皿とタルトの間に、フォークをそっとすべり込ませる

一口ひとくちサイズをフォーク上に乗せた状態で、優しく口の中まで運んだ

フォークの首元までをくちびるで包み込み、ゆっくりと離して吸引する要領ようりょう口内こうないおさめる


少しだけ、フォークにクリームが残った


いったんは咀嚼そしゃくすることにし、口内のそれをしゃくしゃくと味わう


イチゴのさわやかな酸味、クリームの甘味

さくさくとした生地きじの感触

それらがまざりあって、口内こうないを満たしていく


美味おいしい」


こってり料理で調教された僕の味覚では

細部まで描写することはできない


何を食べても、ただ美味おいしいとしか言うことはできない


タルトを作るまでの過程なんて知らない

パティシエの血のにじむような努力も

イチゴ農家の自然との闘いも

品種改良の工夫も

販売店の品質管理の苦労も

何も知らずにただ「美味おいしい」としか言うことはできない


数秒でつくり上げられていく、ジャンクフードを食べた時と同じように

今日も陳腐ちんぷな食レポをレビューしていく

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