練乳をかけるなら、今日みたいな日に、貴女に。
はんぺんた
練乳をかけるなら、今日みたいな日に、貴女に。
冬の夜の静けさが好きだ。
冷たい空気に触れると、それまで煮詰まっていた頭の中がスッキリと冴え渡るような感覚がする。ベランダに出ると、空気が澄んでいるせいか、遠くの工場の明かりが煌めいて幻想的に見えた。
タバコに火をつけ、ゆっくりと吸い込む。口の中に煙が充満し、甘みと香りが広がるのをじっくり堪能する。
三ヶ月ぶりのタバコはうまい。禁煙はまたしても失敗だ。
だけど仕方ない。新作のネーム作業がまったく進まないのだから。
好きで始めた漫画家という仕事だが、ネーム作業だけは昔から苦手なのだ。
ため息と共に煙を吐き出す。煙で輪っかを作ろうと何度か試すが、それもうまくいかなかった。
タバコの火を消すと途端に寒さで身震いしたので、すぐさま部屋に引き返す。冷えた身体を温めたくてコーヒーを淹れにキッチンへ向かうと、テーブルの上に置いたままにしていた手紙が目に入った。
今どき珍しく編集部あてに郵送で届いたファンレターだ。
昼間、編集の山中さんと打ち合わせ中に渡されたが、目の前で読むのが恥ずかしくてそのままにしておいたものだ。
このまえ完結させた『白色スイートラブ』の感想だろうか。山中さんから『白ラブ』は好評で雑誌のアンケート結果もかなり良い、と聞かされている。
SNSでも話題になっていたらしいが、あいにく私は何ひとつとしてSNSの類をやっていないのでいまいちピンとこなかった。最終巻の発売に併せてサイン会を開きたいとの申し出を受けたが、あまり人前に出たくないので丁重に断った。
なのに今日またこのファンレターを渡しながら「先生には熱心なファンが大勢ついています! ぜひサイン会のこと考え直してください」と再びお願いされたのだ。
どうしてもサイン会を開きたいらしい。人見知りだから人前に出たくない、という理由は受け入れてもらえそうにない。
色々と力を入れてもらえるのはありがたいが、山中さんはどうにも熱血すぎる。
また自然とため息がでてしまう。
ポットにお湯を沸かして、コーヒーを淹れる。立ち上る湯気と香ばしい匂い。ひとくち飲むと、ほろ苦さと爽やかな酸味が広がり、心がホッと落ち着いていく。
封筒を開けると、とても綺麗な字で『シラ・タキコ先生へ』と書かれているのが目に入った。
自分は字が汚いので、綺麗な字を書くことができるというだけで素敵だなと感じてしまう。
『シラ・タキコ先生へ
はじめまして。藤島と申します。「白色スイートラブ」の完結おめでとうございます!
少し前に「いちごにかける」を勧められて読んでから、すっかり大ファンになってしまい、先生のこれまでの作品を一気に集めてしまいました。
「白ラブ」で初めて百合に触れましたがとても素敵ですね。
とくに、AとBの二人が放課後に共同で漫画を描いているシーンの感情描写がとても丁寧で読んでいる間中、ずっとドキドキしていました。
自分にも似たような経験があり、親友に恋をした当時の気持ちを鮮明に思い出しました。私の場合は失恋に終わりましたが、今でも彼女のことが好きで忘れられないでいます。
「白ラブ」に出てくるキャラたちの恋の行方が幸せなものになって本当に良かったです。でも、CがDに向ける仄暗いドロドロした嫉妬の感情なども大好きでしたが(笑)
最終巻の発売も楽しみです!
それでは、これからも陰ながら応援しております。素晴らしい作品をありがとうございました。
藤島 志穂子』
最後に書かれていた『志穂子 』という名前を見てドキリとした。
ずっと忘れられない初恋の人と同じ名前だったからだ。
苗字が違うし、本人ではないだろう。いや、でも結婚して苗字が変わった可能性も十分ありえる。
などと、確率で言えば宝くじに当たるような「もしも」を想像して、一喜一憂してしまうくらいには、今でも初恋の彼女のことが忘れられないのだ。
中学を卒業してから会っていないのだから、かれこれ二十年以上も経つのに。
自分でもどうかと思うくらいにこじらせている。だって、過去の恋人たちもすべては彼女の面影を感じさせるタイプばかりだったから。
彼女は今頃どうしているだろう。ここ数年は思い返すことも少なくなっていたのに。
ファンレターの名前を見たことで、再び彼女のことが懐かしく、愛おしく思い起こされてしまった。
このファンレターをくれた『志穂子さん』はきっと同じ名前の別人だ。
だけど。
もしかしたら。
私は山中さんに電話するとサイン会の申し出を受けると伝えた。
*
残業を終えて帰宅すると、夜の八時を回っていた。玄関をあけてすぐ、カレーのいい匂いがキッチンから漂ってきたので、望 が夕ご飯を用意してくれたのだとわかった。
「お母さん、お帰り。カレー作っておいたよ」
遅くなってしまったから、夕飯は簡単なもので済まそうと思っていたのでとても助かる。
「ありがとう〜! 望のカレー大好きだから嬉しい!」
「ほら、早く手洗って座って。いま温め直すから」
出来た娘を持って幸せだな、と心から思う。
夫と別居して半年。いろいろと悲しい思いをさせただろうに、それをわたしに見せることもなく、逆に助けられてばかりいる。
「美味しい〜! おかわり!」
「こんな時間にそんなにおかわりしてると太るよ?」
「だって、望のカレーは本当に美味しいから」
「ふーん」
そっけない返事のわりに嬉しそうな表情でおかわりを盛ってくれる。
顔はわたしに似ていると言われることが多いが、中身は落ち着いていて、しっかりものでわたしとは正反対だ。
とくにこの半年は、頼りないわたしを支えようと頑張ってくれている。夫の不倫が原因で別居をしたせいで、わたしがひどく傷ついていると望は考えているのだろう。
だけど望はまだ中学ニ年生。わたしのことを気遣ってくれるのは嬉しいが、いましか出来ないことを楽しんでほしい。
それに、本当に悪いのはわたしなのだ。たしかに不倫は別居のきっかけだけど、原因はこちらにある。
夫のことを心から愛せていたら、きっと彼だって不倫はしなかったかもしれない。
隠そうとしても隠しきれなかった。
態度に滲み出てしまっていた。
表情に、瞳に。
上辺だけ取り繕った私の気持ちが。
「はい。ご飯は少なめ、ルー多めにしてるよ」
「ありがとう。隠し味で入ってる望の愛情が効いてて美味しいな〜」
「そんなの入ってないし。それよりこれ見て。シラ・タキコ先生のサイン会やるって告知でてたよ」
「えっ、本当に?! 見せて見せて!」
見せてくれたスマホ画面には、このまえ完結した「白色スイートラブ」の最終巻発売記念と題して、大ファンであるシラ・タキコ先生のサイン会を開催すると書かれていた。
場所は都内の書店だ。これなら一時間ほどで行ける。
「白ラブ」は少年少女たちの青春群像劇の漫画だ。複雑に交錯する人間関係と丁寧な感情描写に惹き込まれる。
もともと望から前作の「いちごにかける」を勧められて読んだことで先生のファンになったのだが「白ラブ」は雑誌連載を追いかけるほどのめり込んだ。
つい先日も最終話に感動しすぎて、初めてファンレターというものを書いて送ってしまったくらいだ。
とくにAとB、二人の女の子同士の恋愛にわたしは夢中になった。彼女たちの関係性やシチュエーションが、自分が中学生の頃の親友とのものに似ていたからだ。
遠坂優希。それが彼女の名前だ。中学を卒業してから会っていないし、連絡もとっていない、わたしの初恋の人。
あれから二十年以上も経つのに『好きだった』と過去形にすることはまだできない。
彼女のことを忘れたくて、夫と結婚した。愛されれば、彼の愛に包まれれば、彼を愛せるようになると思った。だけど、結局わすれられなくて夫を傷つけることになった。
だから、不倫をしてくれて安心した。彼を愛してくれる人が他に出来たことにホッとしたのだ。
表向きは夫の不倫が原因の別居。だから夫が悪く思われているし、実際、望はわたしを気遣ってくれる。
自分でも最低だと思う。でも、この気持ちは絶対に知られてはいけないと思っている。
ときどき正直な胸のうちを伝えて懺悔したくなるときもあるけれど。
だけど望をこれ以上、傷つけたくはない。夫のことは愛せなかったが、望は私と夫が心から望んで、生まれてきた大切な存在なのだから。
「サイン会、行く?」
望が珍しく上目遣いで聞いてくる。まだ電車に乗って一人で遠出するのは不安な年頃だから一緒に行ってほしいのだろう。
「もちろん! えっと、先に書店に電話で予約しないとダメみたいだね。お母さんと望の分、二冊予約しておくね」
「やった! ありがとう!」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。久々に望の子供らしい可愛い表情を見られて安堵する。
「これで次からカレーの隠し味に望の愛情が入るかな?」
「そんなの最初から入ってるし。ほら、お皿洗うから早く食べて!」
照れたようにそっぽを向いてスマホをいじりだす。
思春期の女の子は難しいけど可愛い。望の愛情がたっぷり入ったカレーライスを食べながら、わたしはいまの幸せを噛み締めた。
*
キスってどんな感じなんだろう。どれくらいドキドキするものなんだろう。
親友の志穂子と共同で描き始めたBL漫画で見せ場となるキスシーンを描いているが、いまいち盛り上がりに欠ける気がする。
異世界に転生した主人公と敵である半獣の将軍が戦いを終えた後で、実は両想いだったことがわかる告白からのキスシーン。
湖の畔で二人きり、鎧を脱いだ半裸姿の攻めと受け。
設定としては最高なはずなのに、どうしてもドキドキ感が足りない気がする。
志穂子も同じように感じているのか、さっきからネームを読みながら「うーん」と唸ってばかりいる。
「……うまく言えないけど物足りないよね」
「うん。なんかもっとさ、キュンキュンする感じがほしいよね」
今まで、漫画でならキスシーンはたくさん見てきた。だけど、私は実際にキスをした経験がない。おそらく志穂子もないはずだ。
だからだろうか。いまいちキスシーンが盛り上がらないのは。
「あ〜、ダメだ! こういう時は息抜きが必要でしょ! 先におやつ食べちゃおうよ」
志穂子のお母さんがおやつに持ってきてくれた、美味しそうな苺の山。
皿に盛られた苺を摘むと、志穂子は嬉しそうに練乳をかけてかじりついた。
「うん。それじゃ、いただきます」
私も志穂子に習って、練乳をかけて食べる。家では苺はそのまま食べるか、砂糖を混ぜた牛乳に入れて潰して食べることしかしたことがなかったから、初めての美味しさにびっくりした。
「苺と練乳ってすごく合うね。美味しい……」
「これ大好きなの! 苺だけだと酸っぱいけど、練乳かけると甘いのが酸っぱいのを包んじゃってすごく美味しくなるの」
なんか私たちみたいだ、と思う。酸っぱい苺は私で、甘い練乳は志穂子。
昔から私は人見知りで、暗くて、愛想もなくて友だちを作るのが苦手だった。
小学生の頃はまだ友だちがいたが、中学に上がってからは仲の良い友だちなんて出来なかった。
一年生のときは休み時間も一人で本を読んで過ごした。青白い顔と肩の辺りで切り揃えられた髪型のせいで、幽霊みたいだと陰口を言われたこともある。
二年生になってもそれは変わらないだろうと思っていたけど、志穂子と出会った。
彼女の隣の席だったことと自分の名前が『優希』だったこと、この二つの幸運に私はいまでも感謝している。
志穂子は私と違ってその優しさと人懐っこさで友だちも多いし、皆から好かれていた。
二年生になって初めて教室に入ったときから彼女の周りには友だちが集まって賑やかだった。
正直に言うと、第一印象は「うるさいな」と思った。不機嫌そうな表情で隣の席に座った私に対して、志穂子はいったいどんな印象を持っただろうか。今となっては恥ずかしくて聞けないけども。
普通だったらそんな奴、触らぬ神に祟りなし、と思われることだろう。だけど志穂子は怯むことなく、太陽みたいな笑顔を向けて声をかけてくれた。
「おはよう! わたし、結城志穂子 っていうの。えっと、名前なんていうの?」
「と、遠坂優希……」
私が名乗ったとき、志穂子の瞳がキラキラと輝いて見えたあの瞬間のことを今でもハッキリ覚えている。
「優希ちゃんって名前なの?! すごい! わたし、苗字が結城だから、結婚したら『
すごい、すごい! と、お下げ髪を揺らしながら無邪気に笑いかけてくる。
周りにいた友だちからは「なに言ってんの」と笑われていたけれど、私は嬉しかった。
きっとこの時から、彼女の練乳みたいに真っ白な純粋さと優しさに包まれていたのだろう。
それからも志穂子がたくさん話しかけてくれたおかげで、いつの間にか他のクラスメイトたちとも打ち解けることができた。
見た目も性格もまったく違う二人だったが、志穂子と私は不思議と気が合った。一緒にいると楽しくて時間が過ぎるのがあっという間に感じた。
お互いBL漫画が好きだったので特にその話で盛り上がることが多かった。私がこっそり描いていたBL漫画を思い切って見せてみたら、びっくりするくらい褒めてくれた。自分が描いたものを楽しんでもらえる喜びをはじめて知った。
志穂子とも感動を分かち合いたかった私は、自分たちが最高に萌えるBL漫画を共同で描こうと誘った。
放課後にどちらかの家に集まって、漫画を描く日々。友だちが家に遊びに来ることなど小学校低学年のとき以来なので、母親は大いに喜んだ。志穂子が家に来ると柄にもなくお菓子や紅茶を出してくれた。
なにより嬉しかったのは、友だちが来てるからといって、その日は母が恋人に対して家に来るのを断っていたことだ。
優しいおじさんではあったが、私はその人が嫌だった。
幼い頃から父親がいなかったから、母とずっと二人で暮らしていたのに、ある日とつぜん家に来て、私から母を奪ったから。
あのおじさんが来るようになってから、母に対しても私を見てくれないことに苛立って反発をしていた。
でもこの頃は理解している。
あのおじさんがお金を出してくれないと、私たち親子は生活できないのだ。だから母に反発することはほとんどなくなった。
でも私との会話が減っていたから、人懐こくて朗らかな志穂子が来てくれると母は楽しそうだった。
志穂子は私だけじゃなく、母のこともその優しさで救ってくれていると思う。
パクパクと練乳をかけた苺を美味しそうに食べる志穂子を見ていたら、ふと彼女の唇も甘そうだなと思った。
ほんのり濡れた唇は、つやつやしてて練乳みたいに甘くて美味しそうに見えた。
キスしたら味わえるだろうか。志穂子の甘さを。
「優希ちゃん、どうしたの?」
声をかけられて我に返った。
練乳チューブを握りしめていたせいで、苺にかけていた練乳が指から手首まで垂れていた。
下に垂らして絨毯を汚さないように、ペロリと舐める。指先まで舐め終わると、志穂子がウエットティッシュを差し出してくれた。
「あ、ありがとう。ちょっとキスシーンのこと考えてたらぼーっとしちゃった」
さっきまで考えていたことは、絶対に言えない。志穂子に、キスしたいと思ったなんて。
この気持ちがなんなのか。
私はまだわからない。
*
優希ちゃんはすごい。
最初はなぜか不機嫌そうな表情だったし、無口だし、少しこわい人なのかと思っていたけど、話してみたら全然ちがった。
優希ちゃんは、さりげない気遣いのできる優しい人だ。それに頭もいいし、落ち着いてて大人っぽいし、色白で美人だし、なにより漫画を描くのがすごくうまい。
だから、優希ちゃんから一緒にBL漫画を描こうと言われてとても嬉しかった。
わたしがストーリーを考えて、優希ちゃんが絵を描く。自分が考えたキャラクターが絵になったときは本当に感動して、思わず優希ちゃんに抱きついてしまったくらいだ。
華奢な見た目なのに、抱きついたらすごく柔らかくて、いい匂いがしてわたしはドキドキしてしまった。
今日も放課後にわたしの部屋で作業をしているけど、二人きりだと抱きついた時のことを思い出してちょっと緊張する。
そのせいかわからないけど、漫画の作業にいまいち集中できなかった。
ママがおやつにと持ってきてくれた苺を気分転換に食べる。大好きな練乳をたっぷりかけて食べると口いっぱいに甘さとほんの少し酸っぱさが広がった。
夢中になって食べてたら、優希ちゃんがわたしのことをじっと眺めていた。食いしん坊だと思われたかな、とちょっと恥ずかしくなったけど、なんだか様子が変だ。
よく見たら練乳チューブを握りしめたままで、練乳が指先から手首までたらたらと垂れていた。
「優希ちゃん、どうしたの?」
わたしが声をかけると、練乳が垂れていることに気づいたのか、手首から指先まで舌で少しずつ舐めはじめた。
赤い舌先を少しだしてペロリペロリと舐めていく。指先を口の中に入れて、チュッと小さい音を立てて練乳を舐めとる。
その姿に、わたしは今まで感じたことがないくらいドキドキしてしまった。
恥ずかしそうに舐めていく優希ちゃんを見ていたら、身体がなんだか熱くなった。
わたしのことも舐めてほしい。
練乳をかけた指先を優希ちゃんの舌で舐めて、吸って、優しく抱き締めて、指先だけじゃなく、いろんなところを優希ちゃんの舌で……。
そこまで考えてハッとする。
だって、これじゃ、まるで。
*
卒業式ではやはり泣かなかった。
志穂子とは別々の高校だけど、まだまだ一緒に漫画を描いていく予定だし、悲しくはなかった。
仲良くなったクラスメイトたちと別れることに少し寂しさは感じたけれど。
卒業式が終わっても教室に戻ったほとんどのクラスメイトたちは帰らずにいた。卒業アルバムにメッセージを書きあいながら別れを惜しむ。
私も友人たちに絵を描いてほしいとねだられたりして、なかなか帰ることができなかった。
やっと頼まれた分を描き終えて、周りを見渡すと志穂子の姿がないことに気づく。
トイレだろうか。しばらく待っても戻ってこなかったので、心配になって探しに教室を出ると、ちょうど廊下の向こうから歩いてくるのが見えた。
気のせいか、なんだか少し元気がないように感じたが、私を見つけるといつもの表情に戻って駆け寄ってきた。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「ううん。それより、どこ行ってたの?」
何気なく聞いてみただけなのに、志穂子の瞳が揺れて、あきらかに動揺しているのがわかった。
「えっと……なんかね、校舎裏に呼び出されて……笠原くんに告白されちゃった」
心臓がドクンと跳ねた。
あまりの衝撃にめまいがした。
笠原……? たしか他の子たちが、カッコイイとかよく話題にしていた記憶がある。
「笠原って、隣のクラスの? え、なんで? 仲良かったっけ? 一緒に話してるの見たことないけど」
「えっと、小学校のときは六年間同じクラスだったの。ずっと好きだったって……。びっくりしちゃうよね」
俯きながら、恥ずかしそうにつぶやく志穂子を見るのがつらい。
そんな前から好きだったとか関係ないし。
志穂子の好きな食べ物も好きな漫画も好きな場所も好きな色も好きな花も何ひとつ知らないくせに。
ちなみに好きなカップリングは人外攻めの筋肉受けだ。だから、笠原のようなヒョロっとした優男はお呼びではない。
一体、志穂子のなにを知って好きだと言っているのか。どうせ、顔とか見た目だけの判断に決まってる。
だって、志穂子はすごく可愛らしい。テレビに出てくるアイドルなんて霞むくらいに可愛らしいと私は思っている。身体も小さいから小動物みたいで守ってあげたくなるし、抱き締めてなでたくなる衝動をおさえるのが難しい。
でも、志穂子の本当に素敵なところは見た目の可愛さではない。
包み込むような優しさや純粋さに私がどれほど救われてきたことか。この内面の素晴らしさを笠原が本当に理解している訳がない。
「なんて返事したの?」
震えそうになる声をどうにか抑えて聞いてみる。
大丈夫。志穂子は笠原のことをなんとも思っていないはず。
だって、親友の私にいままで一度も恋愛相談なんてしたことがないんだから。
「いきなりだったから、少し考えさせてって言った」
ひとまず胸をなでおろす。だけど『考えさせて』って、なにを考えるというのか。さっさと断ればいいのに。
「ねえ、どうすればいいかな。優希ちゃんはどう思う?」
顔をあげると、今にも泣きそうな、でも笑顔にもなりそうな、なにかを我慢しているような、そんな表情を浮かべて聞いてくる。
志穂子の感情が読み取れない。
「そんなの志穂子が決めることでしょ」
志穂子の意思ではっきり断ってほしかった。そんなよく知りもしない奴のことなんかで悩まないでほしい。
私のほうが志穂子を理解しているし、私の方がずっと、志穂子のことを。
ずっと。
「……うん、そうだよね。わたし、笠原くんと付き合ってみる」
「……………………えっ」
志穂子はいまなんと言った?
ツキアッテミル、ってなんだ?
脳の処理が止まったかのように、意味を理解するのに時間がかかった。
「……付き合うって冗談でしょ? なんで? 笠原のこと、好きなの? ちがうよね」
「えっと、好きかって聞かれたらまだわかんないんだけど、笠原くん良い人だし。……付き合っていけば好きになるかもだし」
「なにそれ。付き合うって意味わかってるの? 友だちじゃないんだよ? キスとか、それ以上のこともするんだよ!」
「ちゃんとわかってるよ。そういう経験も漫画に活かせるかもしれないね」
まるで自分に言い聞かせるみたいに頷きながら、そんなひどいことを言う。
漫画に活かす?
冗談じゃない。
そんな経験が活かされる漫画なんて絶対に描きたくない。これから先、志穂子から彼とキスしたとか、えっちしたとか聞かされるなんて耐えられない。
いや、もし笠原と別れたとしても、また他の恋人ができたら、そんな報告を受けるという拷問を味わわなければならないのか。
無理だ。
思考がグシャグシャになる。
景色が変わる。
世界が灰色に染められるみたいに。
気づいたら、そばに志穂子はおらず私は独りで歩いてた。
涙が次から次へと流れて、流れて、流れても悲しみはヘドロのように溜まっていき、流される気配はない。
こうなって私はようやく理解した。自分ではどうしようもないくらい志穂子に恋してるということを。
*
「お待たせいたしました。サイン会を開始いたします。最終巻を手元にご用意して順番にお進みください」
今日は楽しみにしていたシラ・タキコ先生のサイン会当日だ。都内にある大型書店に電車を乗り継いで、望と二人でやってきた。
サイン会というものに初めて参加したけれど、みんなほぼ無言でなんだか粛々とした雰囲気なので驚いた。
列が静かに進んでいき、先頭が見えてきたが衝立があるせいで先生の姿はまだ見えない。
あんなに素晴らしい漫画を描く先生は、一体どんな方なんだろう、というワクワク感と憧れによる緊張で胸がいっぱいになる。
「望〜! どうしよう、もうすぐだよ。緊張してきちゃったよ〜。先生になんて話しかけよう?」
「応援してます、とかでいいんじゃない?」
舞い上がってるわたしとは対照的に冷静な望を見ているとどちらが子供かわからないなと思う。
「次の方、どうぞ中へお進みください」
係の人に促されて、前にいた望が衝立の中に入っていく。クールな表情をしていたが、望は先生の作品の大ファンだ。
中ではどんなやり取りをしているだろう。気になって耳を澄ましていると「えっ?!」と驚いたような女性の声が聞こえた。
先生の声だろうか?
どうしたんだろう、と心配になっていると衝立の中から望が顔を覗かせて「お母さん、ちょっと」と呼んでくる。
一体なにがあったのかわからないけど、勝手に入ってもいいのだろうか?
ためらいがちに「おじゃまします」と言いながら衝立の中に入ると困惑したような表情の望と机の向こうに座る女性の姿が目に入った。
ドクンと心臓が跳ね上がる。
あまりの驚きに言葉を失う。
「志穂子……?」
懐かしい声で名前を呼ばれる。
化粧をして、記憶の中の姿より、ずっと綺麗な大人の女性になっているけど。
今でも忘れられなかったその人が目の前にいる。
「優希ちゃん……」
名前を呼ぶと、彼女はあの頃みたいな美しく儚げな笑顔を見せた。
*
サイン会には大勢のファンの方たちが来てくれた。人見知りだから、うまく対応できるか心配だったが杞憂でしかなかった。
温かい言葉や応援の言葉、たくさんの熱意を感じることができてサイン会を開いて本当に良かったと思う。
「白ラブ」がこんなにもたくさんの人に受け入れられ、楽しんでもらえたことが嬉しい。
とくに作品の中で人気のあるキャラクターのAとB、二人の少女は中学時代の私と志穂子をモデルに描いたから感慨深いものがある。
あのファンレターをくれた『志穂子さん』も今日、来てくれているだろうか。
「次の方、どうぞ中へお進みください」
編集の山中さんが声をかけると入ってきたのは志穂子だった。
「えっ?!」
思わず声が出てしまった。椅子から飛び上がりそうになり、膝を机にガツンとぶつける。
夢だろうか?
だって、あの頃のまま、なにも変わらない志穂子が目の前にいるのだから。
でも、膝が痛みを訴えているから現実だ。いや、志穂子のことを考えすぎて、ついに幻覚が見え始めた?
でも、いくら目をこすってみても志穂子は消えなかった。
「先生? こちらにサインを……」
急に挙動不審な動きをしだした私のことを山中さんが不思議そうな顔で見る。
深呼吸してから、その志穂子の姿をした少女に声をかける。
「……えっと、お名前は? なんてお書きしましょうか」
「あ、はい! 望です」
違った。
志穂子ではなかった。
当たり前だ。だって二十年以上も経ってるのに、中学の頃の姿のままなんてありえない。
「ごめんなさいね。さっきはびっくりしちゃって。昔の友だちにあなたがそっくりだったから」
よくよく見たら、口元にあったホクロもないし、瞳の色も声も違う。
でも、他人の空似というにはあまりにも似すぎているけど。
「それってもしかしたらうちの母かもしれません。私、母にそっくりだってよく言われるので」
「えっ? お母さん?」
「はい。後ろにいるんでちょっと待ってください」
そういうと少女は衝立の向こうに顔を出して「お母さん、ちょっと」と声をかけた。
少しして「おじゃまします」と言う聞き覚えのある声。おずおずと入ってきた女性はまさしく。
「志穂子……?」
驚きに目を見開いた、懐かしい顔。
口元のホクロも瞳の色も記憶の中の志穂子のままだ。
あの頃よりも大人になって、グッと色っぽく綺麗になっているけど。
「優希ちゃん……」
名前を呼ばれるだけで、心が喜びに震えてしまう。
何度、夢に見たことだろう。気持ちが溢れて涙が出そうだ。
「久しぶり……。その、なんていうか。娘さん、志穂子にそっくりだね」
「う、うん。望って言うの。えっと、優希ちゃんがシラ・タキコ先生だったなんて、びっくり……。あっ、白ラブ完結おめでとう!」
ぎこちないやり取り。夢に描いた再会場面とは、ほど遠い。
だけど、私が大好きだった太陽みたいな笑顔をみせてお祝いの言葉をくれた。
「ありがとう。まさか志穂子が読んでくれてたなんて。望ちゃんもありがとう」
私たちのやり取りを興味深そうに眺めていた望ちゃんも同じような笑顔を向けてくれる。
「この子のおかげで優希ちゃんの作品の大ファンになったから! ファンレターも初めて書いたし」
「あの手紙、やっぱり志穂子だったんだ……! すごく嬉しかったよ」
宝くじに当たるような奇跡が起きたのだ。いや、奇跡というより運命かもしれない、と私が感動に浸っていると横から大きめの咳払いをされて水を差される。
「先生。すみませんが、まだ後ろにお待ちの方々がいらっしゃいますので、そろそろ……」
山中さんに言われて、まだ二人にサインしていなかったことに気づく。
望ちゃんの本にサインをして渡すと「ありがとうございました」と言いながらお辞儀をしてくれる。
きちんとした子だな、と感じる。
志穂子と旦那さんに愛情を持って育てられているのがわかる。きっと幸せな家庭なのだろう。
志穂子がいま、幸せに暮らしているなら良かったと思える。
志穂子の本にもサインを書く。これを書き終わったら、もうサヨナラだ。
世界のどこかで作品を読んでくれているのだ、と思いながらこれから私はずっと生きていくのだろう。
……そんなのはいやだ。
また昔みたいに友だちとしてで良いから繋がっていたい。
本を渡すときにかすかに触れた志穂子の指先。
だけど繋がることはなく、そのまま離れていく。
去り際に志穂子が名残惜しそうに振り返るが、山中さんに促されて次の人が入ってきてしまう。
私は追いかけたい気持ちを堪えながらサイン会をひたすらこなすしかなかった。
*
クリスマスの名残だろうか。夕方になると住宅街でも、家の軒下や玄関などにイルミネーションがキラキラと光って綺麗だ。
もう二月だというのに、昨日の夜に降って積もった雪のせいでクリスマスっぽい雰囲気がより一層高まって見える。
人通りもなく、静かな銀世界。
サクサクと雪を踏みしめる音だけが耳に響く。
右手に花束と左手にケーキの入った箱を持っているから、転ばないように慎重に歩みをすすめる。
志穂子がくれたファンレターに書いてあった住所をたよりにここまで来てしまった。
志穂子本人が書いたと思わなかったから、最初に読んだときは気にしなかったけれど。
あの手紙には大切なことが書かれていた。
『似たような状況で親友に恋をした』『私の場合は失恋に終わった』そして『今でも彼女のことが好きで忘れられない』と。
どうしても会って確かめたかった。
その相手は私なのか。
失恋したとはどういうことなのか。
そして今でも私と同じ気持ちなのか。
確かめずにはいられなかった。
目的のアパートに着くと、一段一段ゆっくりと階段を登る。
部屋番号を確認しつつ、ゆっくりと奥へ進む。
志穂子が暮らすはずの二〇三号室の表札は『結城』になっていた。
手紙では『藤島』だったはずなのに。
まさか。
まさか、まさか。
心臓の鼓動が騒ぎ出す。旦那さんと別れたのだろうか。
だとしたら。
今も私と同じ気持ちなのだとしたら。
志穂子と結ばれることができる。
彼女を抱きしめることができる。
何度も夢で抱きしめて、何度も想像した志穂子のぬくもり。
ドアの前で深呼吸を繰り返す。
呼び鈴を鳴らすと「はーい」と出てきたのは望ちゃんだった。
ギクリとした。冷や汗が急に吹き出して背中を流れ落ちる。笑顔はこわばっていないだろうか。
「えっ、シラ・タキコ先生?!」
「あっ、こんばんは。……お母さんいますか?」
「はい。少しお待ちください」
部屋の奥へ行き「お母さん、すごいお客様だよ! 早く!」と呼ぶ声が玄関まで響く。
「すごい? 誰だろ?」とのんびりした口調で志穂子が奥からやってくる。
「優希ちゃんっ?! びっくりした〜! えっ、どうしたの? あ、ごめんね、こんな格好で」
メガネとダボッとした部屋着姿で現れた志穂子は突然の訪問に驚いたようにしながら、恥ずかしそうに髪の毛を撫でて整えている。
「いきなりごめんね。その……近くに用事があって。もらった手紙に書いてあった志穂子の住所、この辺だったなと思って。えーと、この前のサイン会のお礼もしたかったし。これどうぞ」
しどろもどろになりながら、花束とケーキの入った箱を押し付けるように手渡す。
「わざわざありがとう。優希ちゃん、良かったらあがっていって」
「ごめん。急用ができたから、もう帰らないといけないの。それじゃ、望ちゃんによろしくね。バイバイ」
涙が溢れそうな瞳を見られないように。
目を伏せてさよならをして、逃げるようにドアを閉めた。そのまま早歩きで階段を降りていく。
志穂子には望ちゃんがいる。
もしも、志穂子と恋人同士になれたとしたら、私は望ちゃんから母親を奪うことになるだろう。
それだけは絶対にしたくない。両親が離婚してきっと傷ついているはずなのに、そんな子供から母親を奪うなんてできるはずがない。
自分が幼い頃に味わった寂しさは今でも心に残っているから。
友だちとしてそばにいたいけど、きっと私はそれだけじゃ我慢できなくなるだろう。だから、もう、離れたほうがいいのだ。
中学の卒業式のあと、あの日みたいに私の目からは涙が止まらなかった。この悲しみが薄まるのは、またきっと長い時間がかかるだろう。
志穂子のことを思い出さないように、あの日の練乳の甘さを忘れられるように、ずっとタバコとブラックコーヒーの苦味でごまかしてきたけれど。
たまに通り過ぎる人が、涙でグシャグシャになってる私に気づくと珍しそうに振り返る。
「待って!」
後ろから走ってくる足音とともに呼び止める声が聞こえた。
なんで追いかけてきたのか。
私は泣き顔を見られたくなくて、必死に逃げようとするが雪に足が滑ってうまく走れない。
そんな私の背中に体当たりするように志穂子が抱きついてきた。
「優希ちゃん! 待ってよ! あの時みたいにいきなりいなくならないでよ!」
「うぅ……っ、離してっ」
振りほどこうとしても、小さな身体のどこにそんな力があるのかと思うほど強く抱きしめられて離れない。
「離さない! もう間違えたくない! ちゃんとお互い思ってること話そうよ!」
「間違え……?」
「覚えてる? 中学の卒業式のあと、わたしが笠原くんと付き合ってみるって言ったこと。あれ、優希ちゃんに止めてほしくてわざと言ったの」
「ええっ?!」
驚きすぎて泣き顔を見られたくなかったことも忘れて振り返る。
志穂子の顔も涙で濡れていた。
まさかあのときの言葉は、私に止めてほしいからだったなんて。そんなの子供だった私にわかるはずがない。
「なのに優希ちゃん、すごく怒って帰っちゃうし。それから連絡しても返事くれなくなるし……」
「だって、志穂子が他の人と付き合って変わっていくのを知りたくなかったから! 止めてほしかったなんてわからないよ!」
「うん。だから、ちゃんと言うね。わたしは、あの頃からずっと優希ちゃんのことが好きだよ。優希ちゃんのこと、忘れたくて他の人と結婚したけど。結局、忘れられなくて離婚して、彼も望も傷つけた」
「そんな……」
私を忘れたくて他の人と結婚したなんて。志穂子は馬鹿だ。そんなの皆を傷つけるし、志穂子自身も傷つくのに。
でも、そんなにも私を想ってくれていたというのか。
「優希ちゃんは? 優希ちゃんの気持ちもちゃんと教えて」
「私もずっと……志穂子が好き! だけど、望ちゃんからお母さんを奪うことはしたくない!」
子供みたいにイヤイヤと首を降って泣きじゃくる。そんな私の頬を両手で優しく挟んで真正面から見つめてくる。
「……ありがとう、望のことを考えてくれて。わたしも望を傷つけたくない。だから、約束しよう」
「約束?」
「望が大人になって独り立ちしたら、そのときは恋人になってくれますか?」
「え……? 大人になったら?」
「うん。約束があれば、お互いに強くいられるでしょ。それともそんなに待てない?」
「待てるよ!」
「じゃあ、ゆびきり」
私たちは小指を絡めあい、未来の約束を交わす。
今はまだ友だちのままで。
*
ピンポーンというチャイムのあと「はーい」と言う声とともにドアが開く。
「優希さん! お久しぶりです」
「望ちゃん、大人っぽくなったね。一年あわないだけで、こんなに素敵になっちゃうなんて」
「褒めすぎですよ。でも、ありがとうございます」
子供の成長には本当に驚かされる。一年前はまだ幼さが残る顔つきだったのに、いまでは化粧をしてこんなに大人っぽくなっているのだから。
化粧のせいか、昔ほど志穂子に似ているとは感じなくなった。
「あれ? 優希ちゃん、来てくれたの?」
奥からやってきた志穂子は逆にノーメイクで子供のように可愛らしい。
「望ちゃんの就職祝いと引っ越し祝いを兼ねて、みんなで美味しいもの食べに行こうと思って」
「あ〜、ごめんなさい! 私、これから友だちが引っ越し先まで車で送ってくれるって言うから、もう出ちゃうんです」
「そうなの? じゃあ、これで友だちとご飯食べて」
「えっ、ありがとうございます! さすが人気漫画家先生! これで焼き肉パーティーしちゃおっと」
食事の席でだそうと思っていたお祝い金を渡すとわかりやすいくらい大喜びしている。こういうところは、やはり志穂子に似ている。
「ま〜、この子ったら。一人暮らしだからって浮かれすぎないでよ」
「はいはい。あ、友だちがもうそこで待ってるみたいだから行くね。優希さん、お母さんのことよろしく!」
「えっ」
慌ただしく靴を履いて駆けていく後ろ姿を見守る。
「今のって、どういう意味だろ? 望ちゃん、なんか気づいてるのかな」
「わかんないけど、とりあえず、えっとこれからよろしくお願いします」
「は、はい」
握手して、お互い照れくさそうに微笑む。
ドアを閉めるとき、左手に持つビニール袋がガサガサと音を立てる。
「あれ? 優希ちゃんの持ってるのってもしかして」
「苺と練乳買ってきた。志穂子、大好きだったでしょ」
「うん、大好き」
そう言って、昔と変わらない大好きな笑顔を向けてくれる。
もう友だちじゃない。
想いを我慢しなくていい。
志穂子とならハッピーエンドのその先も幸せな日々を描けるだろう。
愛おしい気持ちを指に乗せて、頬を撫でる。
練乳をかけるなら、今日みたいな日に、貴女に。
練乳をかけるなら、今日みたいな日に、貴女に。 はんぺんた @hanpenta
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