第42話


 王都ベルセルク。

 ベルセルク学園。


 カノンの救出から翌週。

 その頃には、カノンの体調も良くなっていた。


「ねえ、ニル」

 学園の廊下でアイリスは隣にいたニルへと話しかける。


 翌日、王都にも情報が入る。

 王都新聞にはこう書いてあった。


 ――――


『覇王、グレイニル・アルカードの再来』


 グレイニル・アルカードの名乗る男が、魔法都市エニシスを襲撃。

 魔法騎士団の第一部隊を全滅させ、騎士団長、オシリス・エニシスを討伐。

 エニシス随一の研究施設を消滅させた。

 

 終創の再来。

 これが世界の終焉の一歩か――。


 ――――


 最後の一文が、アイリスの記憶に残った。


 世界の終焉の一歩。

 ――その逆である。


 彼はこの王都を電磁砲の法撃から守るために、研究所を消滅させたのだ。

 その事実を知る者は、アイリスとカノンのみだった。


 事件と言うべきこの情報は、各国に知れ渡っているだろう。


「ん?」

 アイリスの言葉にニルは呆けた顔を返す。


 本当にこの少年が、その事件の当事者なのか。

 客観的にそれを理解出来る者はいないだろう。

 ニルの表情に、アイリスは思った。


「そのー、カノンのことありがとう」

 だとしても、ニルがカノンを助けた事実は変わらない。

 アイリスは感謝を述べ、深々と頭を下げた。


「・・・・・・どうしたの、そんな畏まって」

 ニルは怪しむ様に後退る。


 先週もニルはアイリスに何度もお礼を言われた。

 これで五度目だろう。


「――改めてよ」


「あ、そうなの」

 感謝されているのだから、深入りする必要は無いだろう。


「それでニル」


「どうしたの?」


「これからどうするの?」


「どうするって?」


「その・・・・・・、アルカードの」

 アルカードの存在がばれてしまったことに。


「ああ、それか。それは心配無いよ」

 戸惑い無く淡々とした口調でニルは告げる。


「え?」


「だって、僕はニル・ドラゴニスだもの」


 ニル・ドラゴニスであり、グレイニル・アルカード。

 アルカードであり、アルカードで無い存在。


「それも――そうね」

 安堵した様にアイリスは笑みを向けた。

 ニルはカノンを助けるために、アルカードとして振る舞ったのだ。


「そうだよ。まあ、これからもよろしくね――アイリス」


 アイリスとして――。

 クリスとして――。


 ニルは懐かしそうな顔で右手を差し出した・

「うん。よろしく、ニル」

 そして、二人は握手をする。


 僕らの出会いは、偶然か、必然か、運命か。


 終創と天創。

 世界を変えたその力たち。

 その行く末を――。


 ――僕は見届けようと思う。

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終天のニルヴァーナ ~千年前、世界を滅ぼした覇王は、現世では世界を守ります~ 桜木 澪 @mio_sakuragi

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