第41話


「ニル、お願い」

 上空にいるニルとすれ違い様に、アイリスは申し訳無い声で言った。


 これが私、アイリス・ニルヴァーナが出来る最善。


「勿論だよ」


 ニルは笑みを浮かべ、大きく息を吐いた。


 ここからは、僕の仕事だ。

 ニルは何かを溜める様に大きく息を吸う。


 ――――


 全ての事象を崩し、全ての理を断て。


 我が名は、グレイニル・アルカード。


 世界を終焉へと導いた者なり――。


 ――――


 ニルが詠唱の様に告げる。

 彼の周りには黒い魔法陣が浮かび上がり、彼を軸に黒い魔法陣は回転していた。


「これは――」

 数百メートル先の上空にいるアイリスは、緊張した顔つきでその光景を見ていた。


 可笑しい。

 今のニルからは魔力を感じないのだ。

 さっきまで感じていたはずの魔力さえも感じない。

 不可思議な光景だった。


 しかし、これから世界を揺るがす何かが起きる。

 自然とそんな気がしていた。


 そして、ニルは手を合わせる様に、掌を合わせる。


『――終創』


 無音の世界で響く、ニルの声。


 すると、湖の中心、研究所の中心に黒い小さな渦が発生する。

 それは次第に大きくなっていき、研究所、電磁砲さえも包み込んだ。


 瞬間。

 凝縮される様に。

 それらは一瞬にして、消滅した。


 跡形も無く。

 研究所があったことすら、誰も理解出来ないほど。


 消滅の影響か、湖の水は研究所部分を覆い、水位が減少する。


 恐る恐るアイリスは研究所があった上空へと近づいた。


 電磁砲に充填されていた魔力すらも感じない。

 あの魔力はいったいどこへ行ったのか。

 いや、それすらも消滅させたのか。

 アイリスはその光景に言葉を失っていた。



 これが世界を終焉させた力。

 覇王、グレイニル・アルカードの力。


 巨大魔法砲台・電磁砲はニルにより滅ぼされたのだ。


「アイリス」

 消えた景色を眺めた後、ニルはアイリスに声を掛けた。

「うん」

 寄り添う様にニルの隣にいるアイリス。

 まるで、かつての自分たちだった。

「――帰ろっか」

 その表情は安堵に満ちた表情だった。

「ええ」

 

 そして、ニルたちはベルセルクへと戻って行った。

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