第40話
「その方角は――ベルセルクか?」
ニルは透過眼を発動し、その先の景色を確認する。
その景色は僕が知る王都ベルセルクだった。
「そうさ・・・・・・。この一撃でベルセルクは半壊する」
鎖錠天理より拘束され床に転がる老人は、ニルにそう告げた。
「半壊――」
眉間にしわを寄せ、ニルはその意味を創造する。
半壊。
単純な話、二撃打てば、全壊するのだ。
――1つの国が。
集束する魔力。
充填までもう少し時間を要する様に見えた。
「なら、話は早いな――」
ワントーン低い声でニルは告げると、大きく飛翔した。
無論、破壊する。
充填前に破壊する。
巨大魔導砲台・電磁砲(レールガン)を――。
電磁砲よりも高い位置へと。
魔法都市エニシスが一望出来る高さまで。
「多重結界(アドバンスド)」
ニルが右手を地面へ向けると、右手前に小さな緑の魔法陣が何層も出現する。
気がつけば、筒の様な見た目になり、魔法陣は四十層にもなっていた。
目を見開き、緑の魔法陣を何層も発動すると、電磁砲は分厚い緑の障壁に包まれた。
これで電磁砲の法撃は外へと流出することは無くなった。
次にすべきことは――。
ニルは緊張している様に小さく息を吐いた。
「――転移魔法」
研究所の中にいる人間を湖の陸際まで転移させる。
一瞬にして、五十人を移動させるその魔法。
今のニルなら、この距離ならば百人の転移が可能だった。
「透過眼」
研究所内の魔力を隅々探索する。
やはり、人の気配は感じない。
この研究所に残っているのは、ニルたち三人だけだった。
――これでこの研究所ごと破壊出来る。
「アイリス」
伝達魔法で数十メートル下にいるアイリスへと伝える。
「えっ? あ、はい」
動揺した様に周囲を見渡すと、アイリスは驚いた様にニルのいる空を見上げた。
「カノンを連れてここから離れられる?」
「・・・・・・え、ええ」
アイリスは頼りない返事をする。
離れる方法はある。
しかし、カノンを拘束するこの拘束具たちをどうするか。
カノンの元へ歩み寄り、拘束具をまじまじと見つめて考えていた。
この魔法陣と拘束具を破壊した場合、彼女にどんな危険が及ぶか。
アイリスには、見当がつかなかった。
「――今行くよ」
察した様にニルはそう告げると、一瞬でアイリスの前へと現れる。
それが飛翔による移動なのか、転移なのか。
アイリスにはわからなかった。
「おそらく、このケーブルを切ったら、魔力が逆流する恐れがあるね」
カノンの前で考え込むアイリスに、ニルは少し困った顔で告げた。
「魔力が逆流?」
逆流とはいったいどう言うことなのか。
「ああ。電磁砲側の高濃度の魔力が一気にカノンへと戻って行く」
「そうなったら、カノンはどうなるの?」
答えは薄々わかっていた。
しかし、聞かずにはいられない。
「身体がその魔力に耐えられず、崩壊する」
「――っ」
そのなった場合、一瞬で彼女の身体は吹き飛んでしまう。
吹き飛ぶカノン。
脳裏に過るその光景。
言葉にならない悲しみが込み上げた。
そんなことはさせない。
そのために私は来たと言うのに。
なのに、私にはどうすることも出来ない。
「アイリス」
そう言うとニルはアイリスへ向け、右手を差し出した。
「・・・・・・?」
涙目のアイリスは呆然と首を傾げる。
「君の力を貸してほしい」
「私の――?」
「カノンを救うには、君の天創の力が必要なんだよ」
「――わかった」
アイリスは自身の右手でニルの右手に触れた。
瞬間。
アイリスが持っていた光属性の魔力がニルの右手へと宿った。
「ちょっと借りるよ――」
右手に宿る光属性の魔力。
左手には、闇属性の魔力。
ニルは笑みを浮かべると、別々の属性を宿した両手を拘束具へとかざした。
「無能(ゼロ・アビリティ)」
告げると、灰色の魔法陣がニルの前に出現する。
灰色の魔法陣と共鳴する様に。
カノンを縛っていた拘束具は一瞬で風化した。
そして、黄色の魔法陣は存在意義を無くした様にゆっくりと消滅する。
「今のは――」
アイリスは驚愕の表情で硬直する。
風化。
その光景は無力化の様にも見えた。
「拘束具を無力化したんだよ。二つの魔力でね」
ニルは安堵した様に笑みを浮かべる。
拘束具から解放されたカノン。
自重に逆らうこと無く、静かにその場に倒れる。
「カノン!」
倒れた彼女を慌てて抱え、アイリスはカノンの意識を確認する。
「・・・・・・アイリス?」
起こされた様に瞼をゆっくりと開き、カノンは小さく首を傾げた。
「うん。大丈夫? 痛くない?」
「ん・・・・・・、疲れた」
少し悩んだ顔でカノンはそう言うと微笑んだ。
おっとりとした雰囲気。
いつもと変わらない彼女の雰囲気。
カノンに大きな怪我が無くて良かった。
アイリスは微笑むカノンの前で、緊張の糸が切れた様に大きく息を吐いた。
「無事で良かった」
「あ、ニルくんだ・・・・・・」
寝ぼけた顔でニルを見つめ、笑みを浮かべる。
「どうも。――それじゃあ、アイリス」
カノンに笑みを向けると、ニルは再び上空へと戻った。
「ええ」
覇気のある声で返事をすると、アイリスは頷いた。
カノンが無事なのがわかった。
これからの私が成すべきことは、カノンとこの場を離れること。
息を吐くと、アイリスの背中に白い翼が生える。
「――え、アイリス?」
その光景にカノンは呆然としていた。
無理も無い。
アイリスがこの力を手にしたのは、彼女が連れ去れた後である。
両手でカノンを担ぎ、アイリスは大空へと飛翔した。
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