第45話 軍艦ヤシャク 2
ある日、大学での「カサンの詩」の講義の際、教授が学生達に告げた。
「今年度の『帝国統一学生詩大会』の課題は『軍艦ヤシャク』である。本校文学部の諸君は全員提出すること。そして諸君は特別に詩を作るために軍艦ヤシャクを見学する事が許されている。期限内に学生証を持って見学に行きなさい」
授業の後、マルはハミに尋ねた。
「軍艦って一般公開されてないって先生が言ってたね。それを見る事が出来るって、何だかすごい話だね」
「そうよ。今回の課題は特別なの。もし優勝すれば詩は新聞に載るし、賞金ももらえて作者はスターになるのよ」
ハミのマルを覗き込んだ顔は上気し、どことなくウキウキしていた。
「あなたならきっと優勝出来るわ!」
「ええ! まさか!」
マルは笑った。ハミがなぜそんな事を言うのか分からない。文学サークルには今でも時折顔を出しているけど、自分の詩はまるで褒められないのだ。しかし、賞金は今、マルにとって喉から手が出る程欲しいものだった。マルはトアンで生活するようになってから、自分が相当の浪費家である事に気が付いた。かつてスンバ村にいた頃は、珍しい形の石や川を流れて来た古い靴や壺の破片など気に入った物を何でも手当たり次第小屋に持ち帰り、眺めて楽しんだものだ。しかしここでは石一つ、花一つ持って帰るにもお金がいる。留学生に支給される奨学金は、学費と下宿代を支払い、休日に本屋に行き、花屋に行き、雑貨屋にいくうちに瞬く間に消えた。カサン人の男ならみな恋人にするようにハミにレストランで食事をおごる事も出来ない。それどころか時にハミにお金を借りる始末であった。
マルはハミに尋ねた。
「ヤシャクっていうのはカサンの神話に出て来る戦いの女神だよね。でも軍艦ってどういうものか、実はよく知らないんだ。本で読んだことがあるだけで。いろいろ想像してるんだけど」
「軍艦は国と私達の生活の守り神のようなものよ。そしてヤシャクはカサン帝国史上最大、いいえ、それどころか世界にも類を見ない大きさだそうよ。軍艦は軍事機密でもあるから限られた人しか見る事が出来ないわ。でもそれを私達は間近で見る事が出来るのよ! 今度の休みに一緒に行ってみましょう」
軍艦ヤシャクが停泊しているのはヒサリ先生の故郷のナサの軍港である。マルは喜んで承知した。マルにとって、ナサは何度でも行きたい場所だった。
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