第7話 故郷に向かう列車 7

 列車は前方から一等、二等、三等席となっており、マル達がいるのは三等車両の上だ。だから先頭まではかなりの距離がある。しかしシンはマルを背負ったまま、器用にぴょんぴょんと跳ぶように先頭に向かって行く。シンの背中にしがみついている間も、天空霊の声はずっと、マルの全身を包み込むように響き渡っていた。

「ニセの龍を操る奴は人間だな!? 驕れる人間ども、なんと生意気な! 人間の分際で龍と同じ力を持とうとは! ええい、鉄の龍を操る者は眠るがいい! そうすれば崖下に落ちて木っ端みじんじゃぁぁぁ!」

 雲の間からにゅうっと伸びた真っ黒な太い腕が、列車の前方の車両に吸い込まれて行く。

「天空霊はあそこに乗っている運転士に魔法をかけて眠らせようとしてるんだ!」

「お前、天空霊と話が出来るのか、そんなら言ってやれよ! ここにはアジェンナ国の王子と詩人が乗ってんだって! 俺らここで死ぬわけにいかねえんだよ!」

 マルは友の背中にしがみついたまま天を仰ぎ、雲の隙間から見える天空霊の金色に鋭く光る目をじっと見ながら叫んだ。

「天空霊! どうか怒りを鎮めて下さい! あなたがこの列車が嫌いな事は分かりました! でもこれには友達が乗ってます! 若い人達も乗っています! みんなあなたが統べるこの土地の子供達です! どうか殺さないで! どうかどうか! 怒りを鎮めて下さい!」

「おや!?」

 天空霊の目がぐいっとさらに大きく見開かれた。

「お前はスンバ村のマルではないか! お前はかつてイボだらけの足でヨタヨタ泥の中をはいずり回っていたくせに、今は生意気にもニセ物の龍に乗ってわしの体を切り裂き楽しんでおるとは!」

「それは誤解です! そんな事は、決して、決してございません!」

「ええい、黙れ! 裏切者の子供よ!」

 天空霊の言葉を聞くなり、マルはシンの耳に向かって叫んだ。

「だめだ! 天空霊は聞いてくれない!」

「そんなら残る方法は一つしかねえ! こいつを動かしてる運転手に列車を止めるように言うんだ!」

 シンが、列車を動かす燃料である石炭を積んだ車両の上をざくざくと踏みしめる。煙突から真っ黒な煙を吐いている鉄の龍の頭がすぐ前方に見える。恐らくあの煙も天空霊を怒らせている原因の一つだ。本物の龍ならあんな風に乱暴に空気を汚したりはしない。

「よし、マレン、お前はここで待ってろ!」

 シンは石炭燃料の上にしゃがみ込んでマルを下ろした。そしてもう一つ前の車両の上に飛び乗ると、その位置から頭を下ろして列車の中を覗き込んだ。

「おうい、聞こえるかーー!! 今すぐこれを止めろー!! 止めるんだー!!」

 マルは、シンが列車の上から転げる落ちてしまうのではないかと気が気でなかった。

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