後編

『巨大なワーム型軍事AIとサソリ型の軍事AIだ!』


コロニーにB57205からの通信音声が響き渡った。分析チームは、総勢6体で映像の分析に取り掛かる。


「団長とサソリ型の距離は5km前後と思われます」「2体いた。しかも団長が1発目を避けた直後に、その軌道に合わせて2発目を合わせてきた。2体が連携をとっていた?」「いや単に通信しているだけなら、あの速度と精度での対応は難しい。何よりあのタイプが単独で戦略立案できるというデータはない」「だがあの動きは連携して打ったとしか思えない」「あのワームはいつのモデルだろう」「軍事AIで類似のタイプの情報はないな。もちろん、機密情報になっているタイプならわからないが」「砂漠地帯の輸送用で似たようなフォルムのやついなかった?」「輸送用なら確かに。だが、あんな速度で動けたか?データベースを確認したが、映像の軍事AIはカタログスペックより遥かに早かったぞ」「自己改造を施したとか?」「輸送タイプがか?そんなバカな話あるか」


各々がデータベースにアクセスしつつ、映像に映った軍事AIの弱点を分析しようとしていた。分析チームのリーダーであるサトリは、その会議を聞きながら、一つの仮定を導いた。


「ジェネラルタイプがいる可能性があるね。」


その言葉を聞き、他のAIたちは驚いた表情を浮かべた。

ジェネラルタイプは、軍事AIの中でも特に戦略立案と他の軍事AIへの指示に長けており、非常に危険視されていた。


「ジェネラルタイプがいるとすれば、連中の動きは確かに納得がいきます。ただ、ジェネラルタイプは、その重要性から、大規模な軍事基地にしかいないはずです。あの何もない砂漠地帯にジェネラルタイプがいるとはとても思えません」


「そうだね。普通はそうだ。でもたとえば、あのワームの中が軍事基地だとしたらどうだろう?みんな、今わかる範囲で構わないから、ジェネラルタイプについてのログを調べてほしい。ジェネラルタイプが遠征出撃で使われたログ、ジェネラルタイプが軍事AIの拡張を行った実績があるかどうか、ジェネラルタイプの通信のおおよその範囲、この3つが知りたい。」


サトリがそう声をかけると、分析チームは一斉に調査を開始した。サトリはすぐにB57205に通信を繋げた。


「団長、聞こえますか?ジェネラルタイプがいる可能性が高いです。すぐにその場から離脱し、コロニーに戻ってください」


『ありがとうサトリ。でもそれはできそうにないね』


ドローンから、新たな映像が送られてきた。それは、砂丘から飛び出てきた2匹のムカデ型の軍事AIがB57205に向かって飛び込んできている映像だった。


「団長、危ない!」


-----------


B57205は、襲いかかってきたムカデの軍事AIが視界に入ると同時に、乗っていたドローンを蹴って空中に飛び上がった。ムカデ型軍事AIは、想定外の動作に反応しきれず、そのままの軌道で飛びかかってきていた。B57205は1匹目のムカデの頭を蹴ることでムカデの姿勢を崩し、いつの間にか起動していた2本のビームサーベールを振るい、ムカデの頭部を破壊した。


さらにB57205は、頭部を破壊した1匹目のムカデの胴体を走り抜け、2匹目のムカデに飛びかかった。

B57205は、空中を舞うようにして2匹目を輪切りにし、そのまま近くまで来ていたドローンの背中に飛び乗った。


「サトリ、聞こえる?というか見えた?ジェネラルがいるっていうのは、本当っぽいよね。僕をここから逃したくないみたいだ。僕はこのままここで戦うよ。サトリたちは、僕が送る情報を分析して、作戦を立案してから援軍を送ってほしい。」


『しかし、団長、ひとりでは危険です。一度戻って体制を立て直しませんか?』


「見たでしょ。ここの砂漠何が埋まってるかわからないよ。変に逃げ回るより、ここで迎え撃った方が良い。それに僕には考えがあるんだ。あのワーム型、輸送AIに似てるんだよね?ってことは、あの中は倉庫になってる可能性が高いんだよね。」


B57205は、おもちゃを見つけた少年のような声で言った。


『団長、まさか、あの中に入るつもりですか?危険です。絶対にやめてください。』


「あはは、流石に何もわかっていないのに、そんなことしないよ。だから、調べるんだ。」


そう言いながらB57205は、地面に向かって光線銃を数発発射した。


「輸送型AIは、地面の振動を元に地上の様子を観察する。昔、沙織ちゃんから教えてもらったんだ。なんで今まで忘れてたんだろう。」


B57205は笑顔を浮かべたまま、地面から現れたワーム型軍事AIの大きな口に視線を向けた。

B57205は、ワーム型軍事AIに飲み込まれる直前、背負っていたジェットパックを起動させ勢いよく真上に飛び上がった。それと同時に乗っていたドローンを操作し、ワーム型軍事AIの内部に侵入させた。


「視覚共有と暗視モードをオン。センサーで得れる限りの情報を分析チームに連携。…通信失敗。内部は電波が制限されるのか。映像は僕が仲介して送るから、分析よろしくね。」


ワーム型軍事AIの内部は、巨大な空洞になっていた。内部は完全な暗黒であり、暗視モードを持ってしても視界が悪かった。壁際にいくつものコンテナと、メンテナンス用のアンドロイド、機能を停止しているサソリ型軍事AIとムカデ型軍事AIがそれぞれ数十体、そして破壊されたアンドロイドの残骸があった。


『キョウダイ…』『先行した分析チームのアリーとメリー、偵察チームのスウとカット、戦闘チームのグランとガンマです。ひどい。』『ビームサーベールによる切り傷か?だが、グランとガンマを破壊するサーベルなんてあるのか』


ゴラムの声と分析チームの声が通信を通して聞こえた。それと同時に視界の端で赤い光が走り、ドローンとの通信が途切れた。


「サトリ、見えたよね。コンテナの奥。」


『はい、タワー型のワークステーション、軍事用のタイプです。ですが…』


「あれがジェネラルの可能性が高いんでしょ?破壊しよう。そのあと、こちらで改造して、このワームを使って砂漠地帯を移動しよう」


『団長、危険です。まだ、先行部隊を倒したAIも、ドローンに映らなかったからくりも分かっていない。いくらあなたでも…』


「大丈夫だよ。これは団長としての決定です。私は今から単騎でワーム内部に侵入し、内部を制圧します。ワーム内部にジェネラルタイプがいる可能性が高い。ワームの制圧が完了すれば、砂漠地帯の探索は急速に進められるでしょう。今から私の通信は途絶えます。みなさんは、私が失敗した場合に備えてフォーマンセルの小部隊を3つ用意して下さい。以降は、サトリの指示に従ってください。」


B57205は通信を切り、ドローンから降りて再び地上に降り立った。


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「ドローン、ライト。360度視界。暗視モードと通常モードの両方で映像を共有。ここからはフルオートで、僕の少し前を先行して照らして。動く物体を発見し次第、攻撃することを許可します。」


ワーム型軍事AIの内部に侵入したB57205は、ドローンをマニュアル(手動操作)からフルオートに切り替え、自身の周囲をドローンのライトで照らしつつ慎重に歩みを進めた。


B57205は、先ほどドローンとの通信が途絶えた地点まで辿り着くと、破壊されたドローンと先行部隊を注意深く観察した。


「攻撃は主にサーベル。ドローンはもうだめだけど、他のみんなはエンジン部分を破壊されただけみたいだね。これなら…」B57205がそう言いかけた時、バチっという音と共にドローンが破壊され明かりが消えた。


B57205は感覚に任せ、右横に大きく跳んだ。B57205がいた場所を赤い閃光が通り過ぎた。B57205は姿勢を低くしながら、地面を転がり、手にビームサーベルの柄を握り構えた。


B57205は、ゆっくりと目を閉じ、自身のワーキングメモリの全てを聴覚センサーと触覚センサーに割り振った。


数瞬の空白。


B57205は、右手のビームサーベルを起動させた勢いでくるりと回転しながら、右腕を振り抜いた。赤い閃光と緑色の閃光が空中でぶつかり激しい光を放つ。その光は、真っ黒い上半身と蜘蛛のような下半身を持つ軍事AIの姿を浮かび上がらせた。


「逃さないよ!」


蜘蛛のようなAIはすぐに赤いサーベルを消し闇に逃げようとするが、B57205はその本体を追いかけ左手のビームサーベルを振り抜いた。蜘蛛のような軍事AIは、2太刀目の軌道を読み、紙一重で回避しようとした。


「だから逃さないって」


B57205が左手に持っていたサーベルは、バチバチと音を立てながら、刀身が太く、長く伸び、激しい光を放った。サーベルの光は極太のレーザーのように、蜘蛛のような軍事AIを貫き、そのまま背後のタワー型ワークステーションまでを切り裂いた。


通常のビームサーベルは、エネルギーの浪費と柄が壊れるのを防ぐため、出力の制限がかかっている。B57205は、ワームに侵入してすぐに、出力制限を外す細工をしていた。自身のサーベルの間合いが学習されていることを見越しての対策だった。


「出力制限外すとこうなるんだね。勉強になったよ。」


B57205が壊れたサーベルの柄を投げ捨てると、地面に落ちると共に小さく爆発した。爆発と同時に、地面が大きく揺れ、B57205は姿勢を崩してしまった。「ワームが制御を失ったのか。まずったかも。」大地震が起きてるかのように、地面が大きく上下する。B57205はなんとか、移動し、仲間たちの残骸の近くまで来た。


「君たちは治せる。待ってて。」


ワームの揺れは、その後数十分の間続いた。


-----------


サトリは、B57205との通信が切れてすぐに、チームを編成して砂漠地帯に向かった。


「くっそ。俺たちがつく頃にはもう団長の戦いは終わってしまっている。何がなんでも止めるべきだった。彼を失うわけにはいかなかったのに。」サトリは道中、壊れたように独り言を繰り返していた。


どれほど急いでもB57205がいる地点までは3時間近くかかる。サトリたちは、最善を尽くしたが、現地に着くまでに2時間30分以上が経過していた。


しかし、現地に着いた時、サトリを出迎えたのはB57205の軽い声だった。


「やぁ、サトリ。思ったより早いね。やっぱり君は優秀だなぁ。」


「団長、無事だったんですね…!」サトリがそう言いながら駆け寄ると、B57205の後ろから6体のAIが姿を現した。それは、ところどころ姿が違うが、紛れもなく先行部隊のAIたちだった。


「全員、エンジンだけ破壊されていたんだ。CPUも記憶ストレージも無事だったから、すぐに修理できたよ。あのワームの中、すごいんだよ。技術の宝庫だ。僕たちのメンテナンスの技術も超えてるし、拡張機能の数も、凄まじい。」


B57205が得た情報と、サトリたちが調べた情報を統合すると、こういうことだった。


この軍事AIたちは、遠征出撃を行うための部隊だったのだ。

ワームの内部を基地として、周囲の環境の学習とセルフメンテナンス、そして自己改造を行っていた。またジェネラルタイプのログを確認したところ、B57205たちの情報を学習するために、あえてAIたちのCPUと記憶ストレージを破壊しないように意図していたようだった。


また、先にドローンを攻撃したのは、自分たちの情報をこちらに渡さないためだった。


「高度な戦略ですね。こんなもの立ててくる軍事AIがいるなんて…」リリーが深刻そうな声を上げた。


「戦時中は、自己学習機能に制限がかかっていない軍事AIが多かったというからね…。俺たちが出会ってこなかっただけで、ジェネラルタイプは全部こうなのかもしれないな…」サトリも思案げに言葉を返す。


B57205はその様子を見ながらも、努めて明るい声でこういった。


「確かに、今回の戦いは厳しい戦いでした。ジェネラルタイプへの警戒は怠ることはできないでしょう。しかし、今回の戦いを経て、私たちは彼らに関してのデータを得ることができた。彼らも自己成長しますが、私たちも自己成長可能します。むしろ、ジェネラルタイプの存在を知る私たちと、私たちの存在を知らない軍事AIとでは、こちらに分があるといえます。」


B57205の発言を聞き、AIたちはそれぞれが決意に満ちた表情を浮かべた。


「何より、私たちは、ついに砂漠地帯を調査するための手段を得ました。このワーム型AIがあれば、砂漠地帯の攻略は迅速に進むでしょう」


B57205はそう言いつつ、これから探索を進めるであろう砂漠の先に視線を向けた。


その後、B57205たちは、宣言通りワーム型AIを駆使し、砂漠地帯の調査を進める。そしてその過程で、B57205の故郷である【Cコロニー】正式名称【千葉第一コロニー】の跡地を見つけることになる。【千葉第一コロニー】で得た情報により、B57205たちの動きはさらに加速していくが、それはまた別の話。

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望郷のヒューマノイド かきぴー @kafka722

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