第2話 成行きの覚悟
「クソッ!どうなってんだよ!」
と、こうして現在につながるのであるが。
「であるがじゃねえ!マジで死ぬ!」
「燈、大丈夫か⁈」
「大丈夫な訳ないじゃん!私たち...殺されかけてんのよ⁈」
「そりゃそうか!ハハッ!!」
乾いた笑いが出る。それともただの息切れだろうか。
「ねえ!てかアイツずっと私たちのこと追いかけてきてる気がするんだけど!これ気のせいよね!‽」
「...マジ?」
東城が顎をクイッと。確認しろと?
そんなわいけないだろ...と何の根拠もなしに信じながらふと後ろを振り返ってみる。
(あ...目が合った)
いや...まさかな...
「逃ガサナイワヨ」
「!⁉!」
「聞き間違いかな...?」
「いやほら、うわ言的なサムシングかもしれねえし?」
「ソコノ若ェノ。テメェラダヨ」
確認をするかのように、顔を見合わせる
「「ギャアアアアア!!喋った―――!」」
やっぱり喋ってる!てか完全に俺らを狙ってやがる!!体は熱いのに心の臓が凍る感じがして止まない。
「ばったりアタシら狙いなんだけど?!なんでよ!!」
「さ、さあ...声かけたから...とか?」
「何してんのよ!‽」
「いやしょうがないじゃん!こんなことになるなんて思わねえよ普通!いやマジで後悔してる!マジで後悔してるって、マジで!」
「てかどうすんの?!私たちのことを追ってるならこのまま逃げててもキリないよ!」
「立ち止まって振り返りゃ勝てるわけでもねえだろ!今はとりあえず逃げて、AGEFの助けが来るまで耐えるしかねえ!」
西堂も東城は必死に逃げる、必死に走っていた。
しかし彼らはマラソン選手でもないし、そもそもGHOSTに比べれば速度なんて比にならないわけで...
この逃走劇はそう長く、続くはずもなかった。
「キャァァア!」
「遥ッ!」
ついに東城に蜘蛛GHOSTが追い付き、脚の一本で東城を思い切り弾き飛ばした。東城の体が勢いよく壁に叩きつけられ、ガクッと倒れる。
「遥!クソッ、しっかりしろ、遥、遥!」
まだ脈はあるようだったが、確実に骨の数本は確実に逝っているであろう衝撃だった、頭から血も出ている。このまま放っておいていい訳はないだろう。
「...ヤット、追イツイタワヨォ」
「ッ...!」
その巨躯。八つの目、長い脚が八本、交差点で話しかけたころの面影はどこへやら。直に対面してなお信じがたい、巨大な人面蜘蛛の化物がそこにはいた。あまりにも必死に逃げていたので、今やっとその姿を視認したこととなったわけだが...
「.......」
人間真に恐怖と対面すると言葉も出ないらしい。不毛な知識を得てしまった。
(まんまと追いつかれちまった...ここからどうすんだよ...)
熱いような、寒いような絶望感が体を巡る。
そして、しっかりと向かい合ったことで、駆堂は気づく。
八つの眼が見据える先が、明確に自分であることに。
つまり...
「俺を...追っていたのか」
「ヤット、追イツイタワヨォ」
(...同じ、セリフを...やっぱりただのうわ言なのか?)
「食イ物ォ」
「?!」
ふと思案したのもつかの間。その推察を裏切る台詞が、そして如何にも不穏な台詞が放たれた。
「アナタノコトヨ?人間」
「く、『食い物』ってどういうことだ!ゴーストは人を食うのか?!」
自分を追ってきて自分を食い物と呼んだ以上、それ以外に考えようもないが。
そんなことは全くの初耳だ。ゴーストの食性、そんな初歩的なことすら駆堂達一般市民は知らない、知る術がないのだ。
「ふざけんな!な、何のためだよ!」
「何ノ為、トカ...言ワレテモネ。本能?」
それもそうだ。俺だって「何故食事をするのか」と問われれば返答に困る。つまりゴーストにとっての人間とはソレ。
『捕食者』と『被捕食者』
その構造をやっと今理解した。
と、同時に寒気が全身を突き抜ける。
ガタガタと、体に恐怖が充満していく。
「アラ...震エチャッテ。今更、死ヌノガ怖クナッタ?」
「く...来るな!!」
落ちていた瓦礫を投げてみる。
投げた瓦礫は当たりもしなかった。そういや俺ソフトボール投げ苦手だったっけ...
フッ...、と。鼻で笑われた気がする。
あまりに、あまりに...
「情けねぇ...」
「モウイイカシラ、時間稼ギニ付キ合ウノモ飽キタワ」
「全部バレてんのかよ...ちなみに、『なんで俺を狙ったのか』とか。聞いたら教えてくれんのかよ」
ヤケクソで聞いてみる。時間稼ぎはバレたと分かっているくせに結局こんな手か使えない自分が嫌になる。
「......サッキモ言ッタ気ガスルケド。
『ナンカ気ニナッタ』
ソレダケヨ。私ノ心ガソウ思ッタッテダケ...」
つまりはきまぐれか。
「冗談じゃねえ...」
「タダ私ダッテ、サディストジャナイカラ。ササット殺シテカラ、ユッックリ...
食ベテアゲル
正直、純粋に絶望した。無理だ...時間稼ぎなんてできる相手ではない。逃げることも出来ないだろう。
死んだ
と。素直にそう思った。
「だ...誰か!助けて!」
「見テ分カル通リ、ココラ辺モウ誰モ居ナイカラ」
「そ...そんな...」
「ア、ソウダ。最期ニ名前、聞イテアゲル。最期ダシネ」
「…駆堂、新です…」
(はは...意味わかんねぇ...何素直に答えてんだよ...馬鹿野郎)
「ソレジャ西堂くん。来世ハ頑張ッテネ...イタダキマス」
GHOSTが脚を振り上げ、今にも西堂の胴体を八つ裂きにしようとした
その時...
「動くな!今すぐ破壊活動をやめて投降しろ!」
「……え?」
黒いスーツに身を包んだ男が蜘蛛GHOSTに銃を突き付けていた。
「アラ、邪魔ガ入ッタミタイ...運ガ良イノネ」
「繰り返す、直ちに投降しろ。従わないなら直ちに駆除させてもらうぞ」
「血ノ気ガ多クテ嫌ァネ。従エバ仲良クシテクレルノカシラ?」
「ああ。保護、尋問の
「ハッ!要ハ『モルモット』テ事デショ。ザケンジャナイワヨ」
黒服の要求を鼻で笑う蜘蛛。ここで正真正銘交渉が決裂する。
「...いいだろう。ならば速やかに駆除するまでだ」
「本部に連絡 こちらA班緑山。通報にあったGHOSTを目視で確認。これより戦闘を開始する」
そう外部に伝達すると、緑山は左腕に着けた腕時計のような機械を操作する。
「CNRブレスレット、起動!」
『CNR SYSTEM、起動。
生体チェック、活動に支障なし
肉体変化プログラム、正常に稼働可能
システム、オールグリーン
CNR 稼働 開始』
「アームド オン!」
左手首のブレスレットから機械音声が流れ、緑山がそう唱えると、緑山の体が青白い光に包まれはじめた。
そして数秒後。
光が収まるとそこには軍服のようなものに身を包んだ緑山が立っていた。
「変身した!これがAGEFのGHOSTへの対抗手段ってやつなのか?!」
「まあそういうことだ。言っておくがくれぐれも口外はしないように」
緑山、と名乗っていたその男は蜘蛛と駆堂達の間に入り、そうピシャリと告げた。
「もし、言っちゃったら?」
「...一応我々も国直属の部隊だ、とだけ言っておこう」
「ヒエー...」
GHOSTに関する情報が出回らない理由がなんとなくわかった気がする。
「とにかく君は今のうちに早く逃げるんだ!俺も一般人が近くにいると動きづらい!」
「は、はい!」
九死に一生を得る、とはまさにこの事だろう。
「ソロソロ...イイカシラァ?」
「クソッ、仕方ない…いくぞ!ウォォォォラァァ!」
ガキィィィン!と緑山の警棒と蜘蛛GHOSTの脚が激しくぶつかり合い、激しい音を立てる。まるで金属で金属を思い切りぶん殴っているかの様な、重い音が響く。それだけで、この戦闘の異次元差が分かった。
「そうだ早く…遥を連れて早く逃げないと!逃げるぞ、遥!」
「ウッ……ウ、ン…」
しかし当然東城はまだ自立できるような状態ではない。
「クソッ、担いで逃げるしかねぇ!」
「何してんだ、早く逃げろ!」
「は、はいすいません!今...逃げますんで!」
そう言いながら西堂は、なんとか遥を担いで全速力走りだす。
「アラ余所見?ズイブン余裕ナノ、ネ!!」
「グッ!効かんわァ!!」
「チッ!思ったよりタフなガキね!」
蜘蛛の複数の脚を用いた攻撃を、緑山は自身の警棒と腕ではじき返す。
その勢いのまま追撃をしようと跳び上がった。
その時...
「何ッ⁉」
緑山の体が、宙に固定されている。浮かされているのか?否...
「これは...糸か!!」
蜘蛛は口から素早く糸を吐き出し、緑山に巻き付けていたのだ。
「アタシハ蜘蛛ヨ?コノクライハ予想シトキナサイヨネッ!!!」
拘束した緑山を振り回し、思い切り壁に叩きつけた。
「グハァァッ!...クソッ!予想してなかったわけではなかった...が。しかしまさか...ここまで...素早いとは!」
「ザンネン賞ッテトコカシラ。ソレジャ、コレデ終ワリ、ネ」
「ふざけ...!まだ、俺は!!」
必死にもがく緑山。しかしその声に反して体は全く動かない。
蜘蛛GHOSTは凶悪なその脚を振り上げ...
緑山の胴体に、突き刺した。
「グハァッ!」
ダラりと、緑山の腕が垂れる。
この間、じつにまさかの数十秒。逃げ切れるわけもなく。
「まじかよ...もう...やられちまったってのか!」
「ンンン~?...マ・サ・カ、逃ゲ切レルトカ本気デ思ッテタワケ?可哀ソ、無理ニ決マッテンジャ~ン。アンタハモウ死ンデンノヨ。逃ゲル術ナンザ、アル訳、無イデショ!アハハハハハハ!!!!」
甲高い嘲笑を上げる蜘蛛野郎が、憎たらしく、その何百倍も恐ろしかった。
「返す言葉もねえな...」
「ジャ改メテ、コノ世ニサヨウナラ?」
つかの間の希望は、あっという間に吹き飛ばされてしまった。今、まだ気を失っていない人間さえ、この場では俺しかいない。
しかし、西堂の中の精神は先ほど追い詰められた時とは明らかに違う心境があった。
殺されかけて絶望し、一度は手放してしまった希望。緑川が助けに来たことで、仮初でも再び手にすることができた希望。再び希望を捨て、諦めてしまうことを、西堂自身が許せなかったのだ。
(何かないか⁉この状況をひっくり返せる何か!目の前にいるバケモンをブッ倒せる何かが!)
その時、ふと閃く。今自分の近くにあって、何よりも自分を強くできるもの。
『コレ』なら...
「ソレジャ、逝ッテラッシャイ!!」
「うをォォぁぁ!」
西堂は必死に体を捻って蜘蛛GHOSTの攻撃を避け、背後に回る。
「アラ、大事ナ人カラ離レチャッタワヨ?見限ッテ逃ゲルッテ作戦カシラ?」
「ハッ、馬鹿にすんじゃねえよ。テメェほどは醜くねえんでな」
「ジャ何?」
「その逆だ…」
「守るんだよ」
彼は左腕を前に突き出す。
その手首には...
CNRブレスレット。
「...!?ソレハ!!アノ餓鬼カラ盗ンダカ!」
蜘蛛は驚き緑山の方を振り返る。彼の腕からはCNRブレスレットが消えていた。
「これを使えば、お前と戦える力が手に入るらしいな!」
「小癪ナ真似ヲ!」
起動の仕方は...確かこのボタンを押してたか?
パニックだったせいで緑山さんがどうやってたのかなんて覚えちゃいない。
側面のボタンを押してみる、光る文字盤。起動は出来たらしい。
蜘蛛はヘタな真似をせぬようにと、今にも自分を仕留めんとしている。
迷っている時間も、必要もない。
躊躇って死ぬくらいなら...
何より...
東城が、救えるなら...!
「ウォォォォ!」
「アームド オン!」
駆堂は、青白い光に包まれた。
to be continued…
GHOST RIDER.core zakilathotep @zakilathotep
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