GHOST RIDER.core
zakilathotep
第1話 夢なき青年のイントロ
「ハァ...ハァッ!」
吐きそうになりながら走る。もうどのくらい逃げただろうか。
「グッ...クソッ!!」
懸命に走る背後から吹き飛ばされた瓦礫が追い越してくる。いや、あれは何かの『肉片』だろうか...答え合わせもしたくない。
「畜生!どうして...どうしてこんなことに!!!」
必死に、ただ必死に。
―4月10日/午前7時00分 東京某所 住宅街―
7:00AMのアラームで目が覚めた。意識は覚醒しても目はまだ開かず、耳と手だけを頼りにアラームを止める。目を開けると19年間慣れ親しんだ自宅の自室が目に入り、そこでようやく自分が起きたことを自覚する。ベットから出て自室のドアを開け、階段を下りてリビングに向かうと、すでに父も母も起床していて朝食が食卓に並んでいた。
「おはよう!もうご飯できてるから」
「ぁぁ...ぉはょぅ」
「ったく、お前ももう19なんだから朝食ぐらい自分で作れたほうがいいんじゃないか?」
「あぁぁ、ハイハイそうですネ...」
駆堂新は西城大学の一年生である。つい先日入学式を迎えやっと一週間ちょっと。未来有望な新芽であった。
「何のために死ぬ気で勉強したと思ってんだよ。東京の大学行けて家から通えんならまだまだ甘えちゃうね俺は」
「将来困っても知らんぞ~まじで...」
「分かってるって。出来るようにはなるって、いつか」
いつかは知らんが。
「はぁ...それで?やりたいことは見つかりそう?そのために大学行くことにしたんでしょ」
「いやいや、まだ一週間ちょいだっての...ただまあ...ボチボチ、もうちょいいろいろ学べば、多分ね」
駆堂新には『夢』がない。
『趣味』はある。特撮が大好きだ。そこからバイクに乗るのも好きになったし、生涯にわたっての趣味になるであろう。ゲームも、マンガも、好きな作品なんていくらでもある。ただ...それは未来につながる『ナニカ』ではないのだ。ゆえに彼の心はどこか空虚であった。
「まあ急かすわけじゃあないが...出来るだけ早いほうがいいからな。全く...去年お前が急に受験辞めるとか言い出した時には本気でどうかしちまったんじゃないかとおもったんだぞ?」
「それは...悪かったと思ってるよ。ただ,,,なんのために目指せばいいかわかんなくなってさ」
「もういいのよ、それでも前に進もうとしたことに意味があるんだから。ただ私たちの不安もちょっとはわかってよね、って話」
「ああ、ありがt」
ピンポーーーーン!!!!
イイ感じの雰囲気を勝手なドアベルがブッ壊した。
「あら、誰かしら」
「俺が出てこようか」
「いや、いいよ父さん。大体誰か分かる」
何故だろう、誰が推すドアベルも同じ音のはずなのにこの無神経は。おそらく正体は間違いなく...
「東城...」
「あっ、新!おはよ―!」
こいつの名は『東城遥』、俺の幼馴染にして同級生、まあよくあるやつだ。なんだかんだ10数年の付き合いになるが、今でも彼の良き友人の一人である。
「お前の顔を朝から見てると胸やけがする」
「ひっど!そっちこそ朝からボサァッ、としたツラね。ちゃんと寝てんの?」
「いつも通りの真面目な顔だが?そっちが朝っぱらから元気過ぎんだよ」
「でも大学生活始まってたった数日よ?大体『ウキウキが止まんな~い!』って感じじゃないの?」
コイツはホントに、人の悩みも知らんと...
「いやまあそりゃ楽しいけどさ...まあ大丈夫だって」
「ん~、そう?じゃいいけどさ」
「で?」
「?」
「いや『?』じゃなくてさ、何の用だよ」
「え?用事も何も、今日から一緒に通学するって言ったじゃない」
「は⁉いや全く憶えがないが!」
「いやいやしたって!」
「いつ!?てかなぜ一週間たった今更⁉」
「え~?いつだっけなぁ~...」
長考
「まあいいじゃん」
「おぼえてないんだな?」
「何、ヤなわけ?」
「いやまあ別にいいけどさ」
「ィヨーシ!そんじゃさっさと支度してきなさい!」
「ハイハイわかったよ!ただ朝飯は食わせてくれ」
「あいよ~、下で待ってるから。40秒で支度しな」
「出来るか!」
東城はこう言う奴だ。無鉄砲でテキトーで、まあよく言えば天真爛漫ってやつなんだろうな。19歳の女性にふさわしい称号かどうかはおいといて...
てなわけで俺は爆速で朝食と着替えを済ませ、登校の準備完了。その間ずっと東城が秒数をカウントしてたのがウザかった。
「じゃ、行ってきます」
「いってらっしゃーい!」
よく見知った市街地を東城と二人で歩く、その途中。目に移りこむ非日常。
崩れた家、折り重なる電柱、そして進入禁止を示すカラーコーン...
俺らのよく見知った、いや正確に言えば見知っていた町のど真ん中。先日の事件の被害が、まだ色濃く残っていた。
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今から数年前、突然人食いの化け物が現れた。高い身体能力と特殊な能力を持ち、人間を捕食する超常生物。出現時に発される青い光が幽霊のように見えることから、人々はソレらを
『GHOST』
と呼んだ。
現状は日本でしか活動を確認されていない存在であるが、現在までで既に両手では数えきれないほど事件が発生し、甚大な被害を受けている。
それを受けて日本政府は、対GHOSTを目的とした特殊部隊を編成。
その名も
対ゴースト殲滅部隊『AGEF(Anti Ghost Extermination Force)』
彼らはGHOST駆除を目的とした専門組織であり、現状GHOSTへの対処はこの組織が一手に引き受けている。世間じゃ『対ゴ』だとか何とかと呼ばれている。
彼らが事件に対処し始めてから、GHOST出現による被害こそなくならないものの、その規模は明らかに縮小した。世間からの支持もおおむね良いものである。
しかしあんな化け物に『どう対処しているのか』...それは誰も知らない。らしい。
まあともかく、市民はGHOSTの脅威にさらされながらも、AGEFによる平和維持によって薄氷の平和を享受していた。
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「酷いね...ここら辺こないだ工事終わったばかりじゃなかったっけ」
「たしか集合住宅とか...コンビニもあったか?なくなると意外と分からんもんだな」
「....GHOSTって何なんだろうね。急に出てきて、街を壊して...何のために...」
「さあな、巷じゃ某国の陰謀だとかなんだとか」
「ゲェ~!オカルトじゃーん⁉何、そういうの信じる系?」
「ンなわけあるかい、冗談半分の与太話だよ」
「ハァ...結局なんも分かんないんだよね...」
ふと、東城の顔を見る。彼女の顔から普段稀にも見ぬ物悲しさが見えたような気がした。
「...どうか、したのか?」
「向かいの佐藤さん、知ってる?」
「ああ、親父さんが外資系の」
「海外、行くって」
「マジ⁉一家全員か⁉」
「そう、海外は今出てないでしょ?GHOST。転職先ももう決めたってさ」
「...そうか」
佐藤さんは東城の家の向かいに住んでいる一家で、東城家とも一家ぐるみの付き合いがかなり長かったはずだ。GHOSTによる被害の増加は国民の海外流出を招いている。これもきっと...特別なことではないのだ。
「...どうなっちゃうの?これから...」
「さあな、少なくともウチは引っ越す予定はねえよ」
「怖くないの?」
「そりゃ怖いさ、GHOSTが怖いよ。でも変わるのはもっと怖い。俺はまぁ...なんだかんだこの街が好きだよ」
ただ行動するのが億劫なだけなのかもしれない。それは自分にしかわからないけれど、今この世界にはこの街で生きることを望む俺がいた。
さて、陰気に歩くこと数分、俺たちは西城大学に到着した。住宅地のド真ん中に位置するこの大学、広大な敷地の中には一般市民も使える公園や食堂、ジムまである。『地域密着型』というやつだろうか、まあ市民からの評判はいいようだ。
「と・こ・ろ・で・さ...あんた今度の日曜空いてる?」
「突然も突然だな...会話の流れどうした?」
「暗いことばっか言ってどうすんのってことよ、で?どうなん?」
「あ~...まあ多分大丈夫だけど、なんで?」
「渋谷行かない?気になるお店あんのよ」
「いやまあいいけど...俺要る?」
「え、アンタ来ないなら誰が荷物持てばいいのよ」
「お前だよ!ユアセルフ!要はそれ荷物持ちじゃねえか!」
「アハハッ、冗談冗談!じゃあ日曜、正午にハチ公前ね~!」
そういって東城は足早に去っていった...
東城の遊びに付き合う、というのは結構メジャーなイベントで、面倒臭いがもう慣れっこだ。それにまあ...正直、特に予定もなし。駆堂も満更ではなかったのだった。
「てか結局荷物持ちなのは事実なのでは?」
―4月12日/午後1時30分 渋谷 ハチ公前広場―
そして当日、俺はやはり両腕に大量の紙袋を抱えているのだった。
「...なあ、まだどっか行くのか?もう疲れたんだが」
「ええ?早くない?ちゃんと運動してんの?」
「お前は何も持ってないからな!まじで買ったもん全部俺に持たせやがって!」
「いいじゃんか~!怒んなよwんじゃあ、そこでアイス買いましょ。奢ったがるからさ」
「いや...それより荷物持ってほしいんだが...」
「アイスいらないの?」
「いや食うよ?勿論」
「がめついねぇ全く...じゃ、早くいこ!早く!早く!」
「はいはい、わぁったわぁったって」
2人がアイスクリーム屋に向かおうとスクランブル交差点に向かったその時、奇妙な光景を目にした。
横断歩道の最前列、普段は人一人が通る隙間もないような場所に、ポッカリと空間が空いているのだ。
「どうしたんだろ、誰か倒れてんのかね」
「物騒すぎるわ!ちょっと見てくる。これ持っとけ」
「あ、コラ!折角押し付けたのに!」
折角じゃねえよ、と思いながら西堂は人の群れをかき分けながら空間の内部が見える場所へ。するとそこには、膝を抱えうずくまっている女性の姿が。東城の予想も当たらずとも遠からずである。
(アイツの予想も当たることあるんだな)
おそらくただの体調不良。ふと周りを見渡すと、この光景を見た人々はみな女性に声話かけようか迷っている様子だ。まあだいたいみんな西堂と同じ予想なのだろう。
一人が思いついたように人込みを抜け駅のほうに向かう。
(なるほど、駅前の交番に警官を呼びに行ったか)
放っておくことも出来る。あの人が警察なりを呼べば、俺が何かするまでもなくこの騒動は穏やかに解決するのかもしれない。だが...
「大丈夫ですか?どこか具合でも?」
それでも、駆堂は声をかけずにはいられないのだ。好奇心も半分だが、それ以上に困っていそうな人が目の前にいれば声をかけずにはいられない。それもまた駆堂の
だからこそ、俺は今その時の行動を、死ぬほど後悔している。
「.............ゥ、ア」
絵図くような声、顔はまだ見えぬ。
「え?すいません聞き取れなくて...」
西堂が女性の言葉を聞きなおそうとした
その時...
グルッ!!
と捻じ振り返る首。その奇怪な風貌が明らかになる。
血走った目...
牙だらけの歯...
そして...
「青い...光⁉」
4月12日/午後1時32分 渋谷 スクランブル交差点にて、GHOSTが発生。ここまでが俺の記憶。もしかしたら走馬灯、になるのかもしれない。
to be continued...
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