【推理論】
文屋治
推理論
吾々、人間と云う生き物は黒色火薬やニトログリセリン等の爆薬と酷似していると言える。成り方次第で天使にも悪魔にも成り得て
光を表に着飾り、闇を内に抱え持った者共で溢れ返り、怖気を震わされるほど繊細に、緻密に構成されている一つの箱庭、社会の中で私達は生きて行かなければなりません。そして、其の社会の中では、
一見しただけでは分かりません。ですが、
ここで、読者の皆様には先ほど私が述べた矛について思い出して頂きたい。そう、其の矛の名は推理であります。此の推理と云う名の矛も亦、法と云う名の盾と同様に肉眼にて見ることは敵いません。ですが、扱うに当たって必要な知恵や技量は比較的容易であると言える筈であります。此れは、あくまでも私個人の身勝手な見解なのではありますが、推理とは本来、
先ず、手始めに、其の男の面に着眼してみることと致しましょう。顎や頬に髭が剃り残されていると云うことから丁寧に髭剃りを行っていない。つまり、『時間に余裕のない生活を送っている』、若しくは『自分の事に関して無関心である』、亦は、『がさつな性格である』と云う様に推し量ることができるのです。更に、其の男の身に纏う皴の残ったスーツが以上の推し量りに拍車を掛けてくれましょう。
次に、其の男の腕に付けられた腕時計に着眼してみることと致しましょう。男はこちら側から見て左の手首…つまり、男にとっては右手首に腕時計を着けています。ここで、読者の皆様、腕時計を御手元にご用意して頂きたい。若し、手近に其れがなければ想像してみて頂きたい。読者の皆様は今、左か右、どちらか一方の手に腕時計を持っております。そして、其の腕時計を普段の様に手首に掛け、各々の手加減でベルトをきちんと締め着けております。さぁ、どうでしょう、今腕時計は読者の皆様から見てどちらの手首に巻き着いておりますでしょうか。私の勝手な推し量りではありますが、大概の方々は今、利き手とは反対の手首に巻きついている筈です。どうでしょう、私の推し量りは見事的中致しましたでしょうか。考えてみれば至極当然のことなのではありますが、利き手でなければ腕時計を手首に巻き付けると云う行為を行う事はとてもではありませんが難しいのであります。亦、他にも筆を持って文字を書く等の様な作業を行う際、作業の邪魔になるからと云う理由もございます。
最後に、其の男の服装へと着眼してみることと致しましょう。其の男の胸元のシャツのボタンはちぎれた様に外れており、服の所々には
以上の
さて、長々と論じてしまいましたが読者の皆様が本作を通して知って頂きたかった事実はたった一つであります。推理を…強いては己が身を守る術を知り、其れに僅かでも構いません、片鱗の如き興味を抱いて頂きたかったのです。そして、若し、私の願いが叶い、読者の皆様に推理に対する興味が湧かれましたら是非、其れを今一度、見詰め直してみて頂きたい。周りの人間や環境をよく観察し、些細な変化を少しでも多くくみ取り、柔軟、
【推理論】 文屋治 @258654
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