第45話 ゴブリン転生


???



「ふんふんふんふん〜♪さーてさてさて、準備は整ったし、そろそろ始めようかなー。誰がいいかなー?出来れば身体能力が高くて、とびっきりのクズが良いけどなーむふふふふ。」


 背の低い少年の姿をした何か・・が、何年もかけて作成した魔法陣に向けて、膨大な魔力を流し込む。


 その瞬間、バチバチと放電のような現象が起こり、中心部に時空のひずみが生まれる。


 そしてどこからともなく人型の何かが召喚される。



「おほ、成功したかな?どれどれ?」


 少年が満足げな表情で、中央に駆け寄る。しかし泣き叫ぶそれを見て愕然とする。


「な!?なんだコイツは!?人間じゃなくてゴブリンになっちまったよ!失敗じゃねーか!!」


 ドカ!


 緑色の肌をした醜いゴブリンをつま先で蹴飛ばす。

 

 蹴られたゴブリンは抵抗することも出来ずただされるがままだ。


「はぁ〜今度は転生じゃなくて転移させる方が良いのかなー?またいちから準備だよ〜。」


「Gyaaaaaaa!GYAAAAAAAAAA!」


「・・・あぁ、もううるさいな。集中できないじゃないか。ていうかお前いつまでここにいるつもりだよ。失敗作なんだから空気読んで自分から消えてくれないと?まったく、世話がかかるなぁ。」


「GYAAAAAAAAA!」



「じゃあ、バイバイ。」



 頭を鷲掴みにして敷地の外にまるでゴミを捨てるようにポイっと放り投げる。


 およそ少年とは思えぬ怪力だった。ゴブリンの体は真っ逆さまに数千メートル以上落下し、森の中に消えていく。










 ここはどこだ?俺は確か拘置所の中にいたはずだが・・・


 見えるのは真っ青な空と、緑色の腕。


「GYAAAAAAAAAA!」


 !?


 なんだこの声は!?上手く発声することができない!一体どうなってやがる!?



「▼✗、◇■§¶〆○?♯∈?♯∈?」


 誰だコイツは!?ガキが駆け寄ってきたと思ったら、いきなりサッカーボールキックをしてきやがった。


 ふざけんじゃねぇ!俺はボクシング世界チャンピオンの富樫研二だぞ!


「GYAAAAAAAAAA!」



 くそ、なんで体がうまく動かねぇんだよ!なんだこの体!?


 ま、待て、何をしやがる!?


「◎◇▼✗∂¶∇∞♭∩§※⊆≦❇∋♯×∌∧■●∇∽∌§∂♮♯∀∝⊇✴◎⊿§∂♮△▼〆∉∉〆∇∞♭∩§※⊆≦ヾ❇●∇∞♭∞¶♮∌♮∌♮△▼✗∂¶♮∝⊇✴◎⊿§※⊆≦ヾ❇●∇∽∌♮∌∧■●∇。」


 少年がまるで虫ケラでも見るような目を向けてくる。今までに感じたことの無い恐怖だった。


 コイツに逆らってはいけないと本能が言っている。


 一言で言うなら化け物だ。


「✳ゝ∂、♮∝♮∝。」


 殺される、そう思った瞬間、俺の体は空中を落下していた。


 自分がどのように投げ飛ばされたかさえよく認識することができなかった。


 

「GYAAAAAAAAAA!!!!」


 うおおおおおおおお!!死ぬ、死ぬ!ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!



 ガサガサガサガサガサ、ボキボキボキ、ドゴーン!



「カハッ」


 痛ってぇーーー!!!あぁーーー痛ってぇー!!クソが!


「はぁ、はぁ。」


 息がうまくできない。生きているのが奇跡だ。


 青々と茂った巨大な木がクッションになってくれたらしい。


 15分程うずくまったあと、ゆっくりと体を動かしてみる。


 少し力を入れるだけで至る所が悲鳴を上げるが、なんとか動かすことができる。


 なぜ手足が緑色をしているのかは不明だが今はそんな事はどうでもいい。


 とにかく現状を理解しなくては。そう思い辺りの様子をうかがう。


 見渡す限り巨木、雑草、花、その他さまざまな植物。


 まるでテレビで見たジャングルのようだ。


 ここはどう考えても拘置所ではない。もちろん釈放もされていない。


 だというのになぜ俺は森の中にいるのだろうか?意味が分からない。


 考えたところで答えは出ないが、恐怖から解放されたことで腹が減る。叫び続けたことで喉もカラカラだ。


 くそう、なんで俺がこんな目に。


 あの黒宮とかいうガキさえいなければ。アイツだけは絶対に許さねぇ。どんな手を使っても復讐してやる。もちろんあの日やりそびれた宇田アイリも、白石雪乃も、来栖ななも御堂美月も御堂風花もだ。


 全員ブタにしてコレクションにしてやる。


「ブヒブヒ。」


 そう、そんな感じでブヒブヒ言わせてやる。さぞかし楽しいだろうよ。フハハハハハ。


 ・・・ん?ブヒブヒ?


 不審に思い後ろを振り返ってみる。すると見上げるほどの身長がある筋骨隆々の豚が仁王立ちしていた。


 なんじゃコイツはあああああぁぁぁぁ!?


 あり得ねぇだろ!



 腰を抜かしそうになりながらも必死に逃げる。だが落下の痛みと感覚のズレで思うように走れない。


 一瞬で追い付かれると、クイッと持ち上げられる。そして腹パンを食らい意識を失った。





 気付いた時には薄暗い洞窟の中で寝そべっていた。何を喋っているのかは理解出来ないがキャッキャした声が聞こえてくる。


 どうやら子供の豚が3匹いるらしい。さっきの奴と親子なのだろう。


 こんな豚共にすら家族の団欒だんらんがあるとはヘドが出るぜ。


 いや、今はそんな事どうでもいいか。スキを見て逃げ出さなければ。


 まさか仲良しこよしをするためにここに連れてこられたわけじゃあるめぇ。

 

 よくて非常食だろう。


 あぁ、まったく、獣臭ぇし腹へるし喉乾いたし最悪だぜ。


「ブヒ?」


 くそ、近づいてきやがった。ベチベチ叩くなくそブタが。


 うぅ我慢我慢。


 あ、やべ、また持ち上げられた。どんな怪力してんだよ。世界チャンピオンだぞ俺は。


 ゴリラかよ。


「ブー。」


「GYA!」


 痛ってーな!なに放り投げてんだよ!起きてんのがバレちまったじゃねーか。


 なぜか日本語も上手く発音できないしどうなってんだよ俺の人生。


 あーもう!


「ブブブブー。」


「「ブ!」」


 親ブタが子ブタ3匹に何かの指示を出す。狩りの練習でもさせるつもりか?


 なんなんだよもう。


 ったく舐めやがって。やるならやってやるよ。


 

 オラ!


 子豚相手なら負けるわけねーんだよ!何年ボクシングやってきたと思ってんだ。


 しかも弱点はそのひらぺったい豚鼻だろう?殴ってくださいって言ってるようなもんじゃねーか。弱点丸出しとか生物として終わってんだろ。


 らぁ!くらえ!


 連携して襲ってくる3匹の攻撃をすんでのところで避け的確にパンチを入れていく。


「「ブーブーブー。」」


 よっしゃ!クリーンヒットだぜ!ざまあみやがれ。


 雑魚どもが。



「ブヒ」


 調子に乗って2発、3発と子供たちを殴っていると様子を見ていた親豚が動いた。


「GYAAAAAA!」


 親のお前が出てくるのは反則だろうが。子供同士の喧嘩に首突っ込むんじゃねーよ!俺子供じゃねーけどさ!!


 なんだよ、やんのかよ!


「ブー!」


 グペ!


 またしてもボクシング世界チャンピオンの俺はワンパンで意識を失った。


 それから5日ほど目覚めてはガキ共の対戦相手をやらされるという日々が続いた。


 もちろんスキをみて何度も逃げ出そうとしたが、全て気付かれてしまいどうしようもなかった。


 というか、大人しくしていれば殴られることも無いし、木の実や水を貰えるので、3日目ぐらいからもはや逃げる気を失った。


 もしかしたら、俺はこの二足歩行の豚に調教されてしまったのかもしれない。


 だとしたら悲しいことだが、一応この平穏な生活を受け入れつつある。




「ブーブー。」


「ん?」


 相変わらずこいつ等が何を喋っているのかかは不明だが、身振り手振りで何となく言わんとしていることが分かるようになってきた。それに練習した結果、日本語も徐々に発声出来るようになってきた。


「付いて来いってことか?」


「ブー。」


 どうやら正解だったようだ。


 謎の少年と出会ってから一週間ぶりぐらいに、まともに外に出る。


「うっ、」


 ずっと薄暗い洞窟にいたせいで光に目がくらむ。久々のシャバの空気だ。


 自然と足取りも軽くなる。



 そして、歩く事15分、大きな葉っぱが重なり合うその先から水の音が聞こえてきた。


 川だ!


 この先に川がある。


「まじかよ!」


 一目散に駆け出し水にダイブする。


 ザッバーン!


「くぁーーーー!最高だぜ!」


 干からびていた肌が潤っていく。匂いや汚れも一瞬にしてキレイになる。

 

 んだよ明美(親豚)のやろう。水浴びに連れて来てくれたのかよ。いいとこあんじゃねーか。


 心の中で勝手に名付けた名前で豚を褒めちぎる。


 しかし、興奮が落ち着いたところで、あることに気がつく。


 水面に映る自分の姿がおかしいのだ。人間ではなく、緑色の醜い生物。


 これまで無意識のうちに深く考えないようにしていた現実を突き付けられる。


 そもそも、目線の位置がそれまでより明らかに低くなり、髪の毛もなくなっていた。


 だが生きるのに精一杯でそれどころでは無かった。その上、薄暗い洞窟の中にいたので考えないで済んだ。


 だが現実をの当たりにしてしまった今、スルーする事はできない。


 それまでのはしゃぎようが嘘であったかのように、呆然としてしまう。


 どうやって洞窟まで帰ったのか覚えてもいない。


 気付いたら夜中で、明美が添い寝をしてくれていた。外見はただの豚だが、その心遣いが心にしみる。


 今の俺は一体何者なのだろうか?


 分からない。全てが夢であって欲しい。


 だが、いくら頬をつねっても覚める気配すらない。逆にその痛みがこれが現実なのだと突き付けてくる。



 ・・・俺は生まれ変わったのだろうか?もしそうだとするならここは地球では無い。


 なぜなら俺や明美のような生物なんて存在していないのだから。


 ・・・異世界転生。


 そういう小説を1度か2度読んだことがある。突拍子もないが現状そうとしか考えられない。


 だとするならば、、、


「ステーテスオープン。」


 そう呟いた瞬間、目の前に青白いディスプレイが現れた。



【種族】ゴブリン

【名前】富樫 研二

【性別】男

【魔石】小


オリジナルスキル〈モスキート〉〈血脈相伝〉


称号悪のカリスマ


 ・・・マジかよ。

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ドラゴンの魂を持つ俺が魔石を食べてヒーローになるまで ~異世界のお姫様やトップ芸能人とは関わり合いたくないのだが?~ ちゅんちゅん7 @tyuntyun77

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