第44話 総理大臣


 それから雪乃達6人を回収して、連れてこられたのは総理官邸だ。


 複数の防犯カメラはもちろんの事、ヘリポートに閣議室、地下シェルターなどさまざまな設備を完備しているらしい。


 あまり大きな声では言えないが、緊急脱出用の通路があるって都市伝説もあるそうだ。



 知らんけど。


 


 話を戻そう。


 どうやら今回の話し合いには、俺たち以外にも複数の人物が招かれていたらしい。


 官房長官、防衛大臣、外務大臣、総務大臣、国交大臣、財務大臣、経産大臣、法務大臣、国家公安委員長、自衛隊制服組トップ・統合幕僚長などなど。


 国の運営に関わるお偉いさんがズラリ。


 部屋の中は重苦しい雰囲気だ。


「オホン!」


 総理がわざとらしく咳払いをして会議の開始を告げる。


「これは非公式の集まりのため一切の記録はとらない。その点は安心してくれ。」


「どうも。」


 別にそんな事はどっちでもいいんだけどな。


「まず、君達のリーダーは君でいいのかね?」

「えぇ。」


「ふむ、では単刀直入に聞こう。君は何者なのだね?映像を見る限り不思議な力を使っているようだが?」


 もともと惑星ガービリオンに住んでいたクマムシです、とは言わない。もちろん転生した事も秘密だ。ただ既に人前でスキルを使用したため、全否定しても仕方がない。


 むしろここはある程度肯定して、日本政府を味方につけた方が良いだろう。


「そうですね。俺達は人間ですが魔法が使えます。」


 ザワザワザワ


 俺がすんなりと肯定した事で室内にどよめきが起こる。



「そ、そうか。そうではないかと思っていたのだが、、、いやいや、まさか本当にそんな人間がいるとは、、、それで、魔法の力を持ってして君達は何を望むのかね?国でも欲しいか?」


「は?」


 何言ってんだおっさん?


「何をそんなに驚くのかね?警察はもとより、おそらく自衛隊ですら、力でねじ伏せる事が出来るのだろう?」


 ・・・なるほど、要するにここにいるおっさん達はそれが怖いわけか。そんな事考えたこともなかったが、、、確かにミサイルを撃ち込まれようが、戦車から砲撃されようが、多分楽勝だ。


「あー、そうっすね、やろうと思えば片手間で日本を征服できますね。ていうか俺の使い魔であるリアンだけで十分っすね。」


 ぶっちゃこの中で2番目に強いしな。


「ウキャキャ!」


「「な!?」」


「だが、勘違いしてもらっては困る。俺達は国政なんかに興味は無い。今回警察を潰したのは、ここにいる宇田アイリが直接的な被害にあったからだ。そしてあろうことか俺達を犯罪者として指名手配しやがった。」


「つまり、何もされなければ何もしないと?」


「当たり前でしょう、そんな事。」


 俺達は善良な市民なんだから。国を乗っ取ったところで統治するのが面倒くさいだけだし、、、税金や外交がどうのこうの、人権がどうのこうのって、考えただけで頭がパンクしちゃうよ。


「ふむ、ではこういうのはどうだろう?警察の不正に関わったものは全員処分し君達に正式に謝罪しよう。その上で、内閣直属の組織として働いてみないかね?」


 ふむふむ、内閣直属の組織ね。聞こえはいいが要するに自分達のコントロール下に置こうというわけか。


 なかなか抜け目の無いおっさんだ。


「謝罪の件はそれで良いですが、働くとはどういう意味ですか?」


「ふむ、別に明確に決まっているわけではないが、そうだな、例えば警察と一緒に犯人を捕まえるとか、私のSPになって護衛をするとか、君達なら色々できるだろ?なに、毎日顔を出せと言っているわけではない。普段は学校へ行って芸能活動やアナウンサーとして働けばいい。」


 ・・・なるほどな、それなら別に悪くはない。


「現実的な面から考えても一般人のままでは力を振るった場合ただの暴力行為になってしまうだろう?それが、国の特別公務員となれば、任務中であれば違法性は阻却そきゃくされるわけだ。つまり、魔法を使っても逮捕されないし指名手配もされない。」


 確かにそうだ。ここは異世界のチギュウでは無いからな。普通一発でも人を殴ったら逮捕されてしまう。建物が壊れて費用を請求されるなんて事もあるかもしれない。そう考えればこの話に乗ればリスクヘッジにはなる。


「条件があります。」


「なんだね?」


「そこに所属はしてもいいですが、個別の任務を受けるかどうかは各自の判断ということで。それから、ある商売を認めてもらいたい。」


 それはダンジョンのVRモードを使った商売だ、国民にも少しだけあそこを開放し、本物の冒険を体験してもらいたい。


 そこで必要になるのが弓や剣といった武器だ。だが法律がこれの邪魔をする。身内だけでコソコソやるならまだしも、大衆に開放するとなると、法律は無視できない。


「なるほど。つまり、君の所有する敷地内は、法の届かないある種の聖域・・にしてほしいということか。」


「聖域というか、夢とロマンの地と言ってほしいですね。」


「フハハハハ。そうか、ダンジョンとやらが本当なら確かにロマンかもしれないな。・・・だが、法治国家の総理大臣として流石にそれは許可出来無い。代わりに、今国会で特別法を通すという事でどうだ?もちろんいろいろチェックはさせてもらうがな。」


 ふむ。


「それでいいっす。」


 なかなか話の分かるおっさんじゃないか。これは夢が広がるぞ。入場料や装備品を売ればがっぽり儲かるし、踏破者がいれば俺の部下にすることもできる。


 どちらにせよ、ほぼ原資0で日本最大級のエンターテインメント施設を作ることが出来る。笑いが止まらないよ。


「あ、そうだ特別公務員の報酬は最低でも月収1000万でお願いしますね。」


「「ホ、ホゲー!!」」


 





 こうして、お互いにWIN-WINの関係を結べたところで、この激動の1日は幕を閉じた。


 のちに黒の革命と呼ばれたこの事件により、警官800名以上が病院送りになり、装甲車や、護送車を含め車両60台以上が廃車となった。



 また不正に関わった警官1000名がクビなどの懲戒処分を受け、ことの発端となった警察庁長官や警視庁の副総監は逮捕されるに至った。


 もちろん犯人であるボクシング世界チャンピオン富樫研二も、取り巻きと一緒に逮捕され、豚箱送りになった。


 しかし、不幸にも勾留されてから数日後、拘置所内で不審な死を遂げたそうだ。


 それまでの栄光から一転、このニュースは世間には見向きもされず、スポーツ新聞の4面で小さく扱われるのみだった。


 

 一方の俺たちは、一躍時の人となり連日連夜さまざまなメディアで取り上げられた。


 マネージャーの松本ひなのの携帯にも24時間ノンストップで仕事の電話がきているらしい。


 いつの間にか俺のファンクラブなるものも発足されたようで、自称親衛隊がごまんといるとか。


 事務所が勝手に作った公式SNSは、開設1時間でフォロワーが900万人になり、今も破竹はちくの勢いで増えている。


 まぁ、ざっと、こんな感じだ。


 あ、そうそう、ちなみに警察によってぶっ壊された学校は国が建て替えてくれるらしい。


 しばらくの間休校になっちゃうけど、全国から募金も集まっているそうで、前よりも豪華になるだろう。


 オンライン授業もあるしバッチリOKだ!



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