第43話 破壊



「きょ、局長!」


「早く助けだせ、馬鹿野郎!」


 顔中ベチャベチャの警備局長が部下に喚き散らす。ようやく助け出された彼はエリートとしてのプライドをズタボロにされ、ある種の興奮状態にあった。


 このまま終わるわけにはいかない。


 たった2人のガキに壊滅状態にされたとあっては、警察の存在価値自体が問われる世紀の大スキャンダルになってしまう。


 すぐさま長官に電話を掛けると、ある部隊の救援を要請した。


 それは爆発物処理班。名前の通り爆発物を迅速に処理するのが彼らの仕事だ。


 だが、それは表向きの話。


 彼らが真に得意とするのは爆発処理(・・・・)、その道のプロフェッショナルだ。


 警察内部でも限られた者にしか知らされていない秘密部隊と言える。










 一旦教室まで戻った俺達は、7人でトランプをしながらスマホでテレビをチェックしていた。校長とオタク君はどうやら警察に回収されたようでもうここには居ない。


 どこのテレビ局も、全ての予定を変更して、中継、しくは、俺達の情報を特集している。


 特に宇田アイリと来栖ナナが魔法を行使した瞬間のVTRは、視聴者の食い付きがもの凄いらしく、スローモーションにして何度も流している。


 あぁ、それとリアンが便器として扱ったおっさんはどうやら警察庁の警備局長らしい。そのあまりの絵面えづらに、これまた大反響だ。


 敵に与えたダメージという意味で、もしかしたらMVPはリアンかもしれない。


「ゥキ〜///」


 2等身の子猿がテレビを見ながら自分の顔を覆う。どうしたんだ恥ずかしそうにして?


「ゥ〜。」


 あぁ、そうか。自分の放尿シーンをこんなにも放送されて、羞恥心が芽生えたのか。可愛い奴め。


 ふふふ。よしよし。


「キャキャキャ!」


「ところでこの後、警察はどうすると思う?」


「ん?」


 リアンの頭をナデナデしていると、赤羽が真剣な表情で尋ねてきた。


 イケメンってのはどんな表情でも絵になるもんだ。


「んーどうだろな。」


 ドーーーーーン!!!


「「!?」」


 と、その時、建物全体に轟音ごうおんとどろいた。


 巨大地震かと思うほど建物が揺れ、教室の床が大海原のように波を打つ。そしてフワリとした無重力を感じた直後、体が落下を始める。


「うおっ!」

「「キャー!」」


 床が崩落している。


 そう気付いた時には、瓦礫の山に体を激しく打ち付けていた。それだけではない、上から天井やら、鉄のはりやら、それまで校舎を構成していた物体が大量に降ってきたのだ。



 ・・・状況から察するに、どうやら警察が建物ごと爆破したらしい。


 1度ならず2度までもこんな暴挙に出てくるとは。沸々ふつふつと怒りがこみ上げる。


『全員無事か?』


『『うん!』』


 念の為安否確認をしてみたが、当然のように全員無傷のようだ。流石クマムシパウアーを授けただけの事はある。


 まぁ、今は無き惑星ガービリオンの最後の生き残りだからな。普通に考えて建物がぶっ壊れたぐらいで死ぬわけがない。




『取りあえず、脱出するか。』



 そう言うと〈真・身体強化Max〉を発動し、体の上の瓦礫をサクっとぶっ飛ばす。


 もちろん色白で華奢な雪乃もこのぐらい余裕だ。ケロッとした顔でスーツの汚れをポンポン払っている。



 ザワザワザワ(嘘だろ!生きてるぞ!)



『よし、じゃあ、最後通牒も無視されたし、もう手加減は終わりだ、俺とリアンは本部の方に行ってくるから、みんなも好きに暴れていいぞ。』


『『りょーかい!』』



 念話を切って軽く体をほぐすと〈飛行1〉でスッと空に飛び上がる。



「「おぉ〜!!」」

 

 これだけで、大衆からは待ってましたと言わんばかりの大歓声だ。



 そんな声を尻目に、俺は淡々とテレビカメラの前まで移動すると、高らかに宣言をする。


「これより俺は警察を潰す。まず最初は霞が関の建物だ。良識のある警官は今すぐ辞表を出して立ち去るがいい。どうせ今の組織は無くなるのだから何の不都合もないだろう。さもなくば間違い無く死ぬと、それだけ言っておこう。」


 ドヨドヨドヨ!


「私、リポーターの川島里香と申します。あなたはヒーローなのですか?それともテロリストなのですか?」


「ん?・・・そんな事は自分の目で確かめてくれ。じゃ、俺忙しいから。」


「あ、ちょっと、待って!それなら今度独占インタビューさせてください!」


「気が向いたらな。」


 それだけ言うとリポーターにくるりと背を向け、フワリと空に飛び上がる。そして霞が関に向けて出発する。


 背後には報道と警察のヘリコプターがストーカーのように付いてくる。


 本当なら引き離したいとこだが、いかんせん、俺の飛行レベルは低い。まだぶっちぎることはできない。


 

 まぁ、それでもエイミーの誘導のおかげもあって20分程の飛行で、目的地に到着した。



 俺が真っ直ぐやって来たのは、警視庁本部庁舎と警察庁の庁舎がまるで双子のように横並びになっている霞が関の鉄筋ジャングル。


 警察を題材にしたテレビドラマで、よく出てくるあの巨大な建物だ。



 日本の行政の中心地だというのに、周囲は厳戒態勢が敷かれ、通行人はおろか、車1台すら通っていない。



 いるのは数百名の警官だけだ。


 しかも、バカの一つ覚えのように一斉に銃撃してくる。




「はぁ。」


 

 先程、銃ごときではどれだけ連射しようと意味が無いと証明したばかりなのに、なぜ同じ事を繰り返すのだろうか?


 〈物理耐性Max〉の俺達にとって、銃弾など蚊が止まるのと大して変わらないのだ。


 閃光弾や手榴弾だって同じだ。



「う、うあああああああああぁぁぁ〜、く、来るな〜〜!!!」


 こちらはまだ何もしていないのにパニックに陥った隊員が、腰を抜かしながら引き金を引き続ける。


 それが味方にも当たるもんだから、現場は混乱を極めた。


 もう1度言おう、俺はまだ何もしていない。


 ただゆっくりと建物に向かって歩いていただけだ。それだけで優秀な警察諸君は自滅していった。


 ショータイムはこれからだというのに。


「さてと、それじゃあ新スキルでも試してみましょうかね。」


 逸る気持ちを抑え、ゆっくりと壁に手を当てる。今回はエクストラスキル〈破壊〉の実験だ。


 魔力を練りスキルを発動する。


 すると、まるで蜘蛛の巣のように、巨大庁舎にヒビが入り、それがメキメキと伸びていく。妨害をするものは何もない。


 名前の通り、術者が破壊しようと思った物を還付無きまでに破壊し尽くす。無機物だろうが有機物だろうが鉄筋コンクリートだろうがダイヤモンドだろうが関係ない。問答無用でありとあらゆる物を破壊する。


 バキバキバキバキ!


 警察のシンボルとも言うべき建物が崩壊を始める。


 ここまでくれば、俺すらもう止める事はできないだろう。


 ジ・エンドだ。目には目を、歯には歯を!これがお前たちがしでかしたことだ。


 警察にはなぜ人を逮捕する権限がある?なぜ銃の携帯が許可されている?


 その理由はいくらでもあれど、少なくとも私利私欲のためでは無い。


 バキバキバキバキバキ


 ドガーン!!!


 一部が崩壊した建物は、バランスを失い、自重じじゅうによってさらなる崩壊を始める。


 粉塵ふんじんがまい、空からはガラスの雨が降りそそぐ。


 もちろんそれだけでは無い、紙の資料、椅子、コピー機、テレビ、金庫、などなど、全てが凶器となり、辺り一帯に降り注ぐ。



「「うああああ〜〜〜!!!」」


「騒いでるとこ悪いけど、まだ終わってないぞ?」


 全く同じ要領で、隣にそびえ立っている警察庁の庁舎をぶち壊す。今度は両手でやってみたら先程よりもサクっといった。


 経済的な損失は余裕で数百億レベルだろうけど、そんな事は知ったこっちゃない。


 汚職警官達をクビにして、浮いた人件費でなんとかしろって話だ。


「さて、、、」


 任務完了だな。


 警察共は動きが止まってしまったみたいだし、どうしようか。


 取りあえず、学校に戻ろうか。


「ウキャキャ!」

「ん?」


 なんだ?おお?あれは自衛隊の、、、何て言うの?上にプロペラが2枚ついてて、長細いやつ、ヘリコプターの一種かな。


 俺に用だろうか?


 風圧がすごいな、前髪が吹っ飛びそうだ。

 

 人の迷惑も考えず、ブンブンブンと爆音を鳴らしながらヘリコプターはゆっくりと道路に着陸する。



 様子を見ていると、ハッチが開き何人か人が降りてきた。


 むむむ?


 どこかで見たことがあるおっさんがいるなと思ったら、よく見れば時の総理大臣、九条零士くじょうれいじではないか。


 そのハッキリとした物言いで国民からの人気も高い政治家だ。得意分野は外交で、確か就任3年目にも関わらず支持率が60%以上だとか。


 こりゃまた大物がおいでなすったもんだ。


「豊川学園高校1年の黒宮レイで間違いないかね?」


 ロマンスグレーのおっさんが俺の前に歩み出ると、ダンディなボイスで尋ねてくる。


「あぁ。なんか用っすか?」


「1度ゆっくり話がしたいんだがどうだろうか?君達が何に対して怒っているのかはこちらでも大方調査が済んでいる。」


「別にいいっすけど、油断させて騙し討ちをするつもりなら止めといた方がいいっすよ?」


「はっはっはっは、忠告感謝する。だが1人で警官数百人を潰してしまうような相手に、そんな事はせんよ。私はそこまで愚かではないからな。」


 総理大臣が、大人の余裕を演出しようとわざと明るく振る舞う。だが俺はおっさんのひたいに光る汗を見逃さなかった。


 間違い無く俺という存在にビビっている。別にこの人に対して恨みはないんだが、、、、今後の交渉を有利に進めるためにも少し牽制けんせいしておこうか。


「ふーん、それならいいっすけど、あなたの部下にも徹底させてくださいよ?私は知りませんでした、部下が勝手にやりましたは通用しませんからね?」


「キャキャキャキャ!」


 リアンが俺の言葉に同調し小さな牙を見せる。


「ふ、ふむ、よかろう。」


 おっさんの顔も若干引きつっているし、まぁこのぐらいでいいだろう。


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