第42話 開戦


「局長、セブンヒーローズが屋上に現れました!」


「なに!?」


 ザワザワザワ(黒宮レイだけじゃないのか?いつの間に仲間が?)


 後ろに控える報道陣や一般人もその姿を確認して驚きの声を上げる。


 真ん中に黒宮レイ、その両サイドに3名ずつ。数百人の警官を前に、全く臆することなく立っている。


「いいか、よく聞け警官ども!俺は黒宮レイだ。お前らにはこないだ更生するチャンスを与えた。しかし、事実が明るみになったあともお前らは隠蔽を続けた、そして、あろう事か俺達を犯罪者に仕立て上げた。」


「容疑者にぐ。妄想で犯罪行為をするのは今すぐやめなさい!君たちは既に包囲されている。大人しく投降しなさい。」


 警察が拡声器を使って説得を試みる。と同時に、無線でスナイパーに狙撃の準備をさせる。

 

「こんなことが現代に起こっていい訳がない。自分達で膿を出し切り正義の組織として再建しろ。それが出来ないなら・・・パン!」



 パンパンパンパンパンパン!!



 辺り一帯に乾いた銃声が響く。その数7発。700メートル以上離れた場所から7人のスナイパーが同時にライフルの引き金を引いたのだ。


 投降を呼びかけながら、その全てが殺す事を目的とした、ワンショット・ワンキル、つまり、頭を狙った一撃必殺だった。


 突然の出来事に、避難した生徒、野次馬、マスコミ、お茶の間、全員が息を呑んだ。


 そして誰もがセブンヒーローズの死を直感した。



 だが、不思議な事にいつまで経ってもその時は訪れなかった。それどころか痛がる素振そぶりを見せる者すらいない。


「「?」」


 ザワザワザワ


 パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!!!!


 再び銃声が響く。今度は先程よりも多い14発だ。銃撃戦では無いのにもかかわらず警察側からの一方的な攻撃。


 これによりセブンヒーローズの我慢は限界に達した。


「な、な、なぜ死んでいない!?おい!狙撃班!一体どうなってる!!??」


 現場で指揮を取る警備局長が慌てふためきながら無線を入れる。


「はっ!全員の頭と心臓に命中した模様ですが・・・」


「えぇい!このマヌケ共め!何がりすぐりのエリートだ!本当に命中してるんならあそこに立ってるわけが無いだろうが!?」


「はっ、いや、しかし・・・あ!」


「ん、なんだ?・・・!?」


 ザワザワザワ


 その時、現場が異様な雰囲気に包まれた。報道陣から嵐のようにフラッシュが焚かれ、リポーター達が殊更ことさら必死に実況を始めたのだ。


 見ると、黒宮レイ以外のセブンヒーローズの面々めんめんが、ヘルメットを脱いでいる。


 そして、その素顔を見て、局長のみならず日本中の時が止まった。なぜなら、彼らを知らない者はいないからだ。テレビをつければ、必ずと言っていいほど、あの中の誰かしらが出演している。


「ふっ俺の名前は赤羽仁あかばじんだ。」

「来栖ナナよ。イェイ!」

「し、白石雪乃でしゅ。あ///」

「モデルの宇田アイリ。」

「御堂財閥長女、御堂美月です。」

「同じく御堂財閥次女、御堂風花。」


 パシャ!パシャ!パシャ、パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ!!


 戦場から一転、まるで何かの記者発表会のようにカメラのシャッターが切られる。


 ザワザワザワ!


 現場は混乱し、エリート警官たちにも動揺が広がる。


「きょ、局長!ど、どうしますか!?」


「・・・トップアイドルに、トップモデル、それに御堂財閥の御令嬢だと・・・・。」


 という事は、彼らのバックには御堂家がいるかもしれない。というより、確実にいる。当主の御堂源三みどうげんぞうは、日本経済の命運を握る男だ。


 そんな大物を敵に回したくは無い。


「局長!」


「えぇい!うるさい!今対応を考えているだろうが!」


 冷や汗を拭いながら部下を怒鳴りつける。だが解決策は浮かんでこない。


 とその時、局長の携帯が鳴った。見ると、長官ではないか。

 

 慌てて通話をオンにする。


「はい!富樫長官でありますか?」


『撃て。』


「は?」


『いいから撃てと言ったのだ。』


「し、しかし御堂・・・」


『そんな事はどうでもいいのだよ。みすぼらしい晩年を過ごしたく無ければ、任務を完璧に遂行しろ。』


「は、は、りょ、了解致しました!おい、A班、B班、C班、一斉掃射開始!」


「「はっ!」」



 ズバババババババババババン!!

 ズバババババババババババン!!


 拳銃では無く、連射可能なドイツ製の短機関銃サブマシンガンの銃声が全ての騒音をかき消す。


 校舎の窓ガラスは割れ、外壁には無数の穴が秒速で刻み込まれる。


 もちろんセブンヒーローズにもだ。


 しかし、、、


「・・・な!?なぜ奴らは立っているのだ?一体どうなってる!?おい!D班、E班、F班、校舎を制圧しろ!」


 ザワザワザワ!









「おい、誰から行く?」


 銃弾など全く痛くはないが、警察の横暴さ加減に俺の怒りは頂点に達していた。だが先陣は切らない。なぜなら、俺がやると一瞬で全てが終わってしまうからだ。


「じゃあウチが行ってもいい?」


 俺の意をみ取ったように宇田アイリが、声を上げる。


 うむ、事件の被害者である彼女ならばちょうど良いかもしれない。というかピッタリだ。


「あぁ、派手にやっていいぞ。ただし一般人には気を付けろ。」


「うん!!」


 満足げにうなずくと、彼女は〈飛行1〉でゆっくりと空に浮遊する。そして前進する。


「「・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」


 これだけで天地がひっくり返る程の衝撃だろう。だが俺の与えたスキルはこんなもんでは無い。


「〈サンダーボルト〉!」


 そう、彼女に与えたのは雷魔法。いくら武装していようとも、いくら防弾チョッキを着ていようとも、生身の人間が耐えられるものではない。


「「うああああああぁぁぁぁ!!」」


 一瞬にして数十人の警官が地面に倒れる。ヘルメットの下は真っ黒焦げだろう。


 助かった奴らも蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。


「おいおいおい、まだ始まったばかりだぞ?」


 エリート部隊が聞いて呆れるぜ。



「私に任せて!」


 今度は来栖ナナが元気よく飛び出し、〈蟻地獄〉を使用する。


 これはレベル6の土魔法だ。名前の通り地面が沈み、警官や車両を飲み込んでいく。


 一瞬でも足を踏み入れた者は、走り回ったところでもう遅い。


 むしろ、もがけばもがくほどその深みにハマっていく。だが本人達にはそれが分からないのだろう。


 ものの数秒で、地面に首まで埋まった警官が量産されていく。


 まるで、生首状態だ。






「ウキーーー!」


「あ、こらリアン!どこ行くんだ?」


 阿鼻叫喚の地獄絵図を上からの眺めていると、影に入っていたリアンが突如、外に飛び出した。


 そしてダッシュで下まで降りると、生首警官の前で、お兄さんパンツをズルリと下げた。


 どうやら尿意をもよおしたらしい。



「・・・ってそれはトイレじゃないぞ!警官の顔だぞ?」



「ウキ?」


 いやいや、そんな純粋な瞳で「え?違うの?」みたいに言われても。


 まぁでもよく考えれば腐敗警官も便所も同じようなもんか。


 チョロチョロチョロチョロ


「うぷ、や、やめろ、あーぺっ私はきょくちょう、、うぺ、」



 ジョボジョボジョボジョー


「うああああぁぁぁぁ〜〜」



「あーかわいそうに。」


 今どんな気持ちなのかな?大声なんか出しちゃって、だいの大人のくせして恥ずかしくないのかな。


「ウキャキャ。」


 リアンがスッキリした顔で戻ってきた。


「おーよしよし。グッジョブだったぞ。ご褒美に今度新しいお兄さんパンツ買ってやるからな。」


「ウーー!」


 いやぁ〜ホントに、ざまぁ味噌カツ定食ですわ。


 あの指揮官っぽい警官、もう人間として生きていけないんじゃないか?


 ご愁傷様です。






 さて、それはそうと、こっちはまだ2人しか攻撃してないわけだが、、、ほとんど片付いちまったな。どうしようか?



「まだやるか?全て白状して正式に謝罪するなら、そこにくたばってる奴らを助けてやってもいいぞ?なんせ俺達は善良な市民だからな。」


「「・・・。」」


「今から1時間だけ待ってやろう。次、舐めたマネしやがったら文字通り警察が滅ぶと思え。これは最後通牒だ。」

「ウキャキャキャ!」


「「・・・ゴクリ。(なんなんだあの猿は?)」」


 よし、脅しはこんなもんか。取りあえず皆でトランプでもしよう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る