第41話 学校に立てこもる


 普段通り学校に登校し、普段通り1時間目の授業を受けていると、急に外の様子が騒がしくなった。


 ヘリコプターの音にパトカーのサイレン。それがひっきりなしに続いた。


 目的地はうちの学校らしく、グラウンドにフル装備のお巡りさんがいっぱい集まっている。


 それがまたカッコいいもんだから、生徒たちは野次馬根性やじうまこんじょう丸出しで、もはや授業どころでは無くなった。


 教室の窓から身を乗り出しキャッキャ騒いでいる奴もいる。


 まったく、呑気のんきなもんだ。チミ達のクラスメイトがこれから捕まるかもしれないっていうのに。


 タッタッタッタッ!ガラガラガラ!!


「黒宮レイはいるか!?」


 校長と教頭が血相を変えて教室に駆け込んで来た。表情からしてただ事ではない。やはり警察の目的は俺らしい。


 意外と見つかるのが早かったな。



「はい、どうかしましたか?」


 自分から墓穴ぼけつは掘りたくないため、あくまでも、おとぼけモードで返事をしてみる。


「どうかしましたか?じゃないだろ!?警察がお前を引き渡せと言ってきてるんだ!一体何をしでかしてくれたんだ!?今全国に生中継されてるんだぞ!」



 ザワザワザワ!


 教頭の言葉を受けて、クラスメイト達が携帯を取り出しテレビを映す。


「おぉぉ!マジだ!!やべーぞ、学校が映ってる!」


「ホントだ!富樫をぶっ倒したのって黒宮だったのかよ!未成年なのに顔と名前出てんぞ!!」


 ガヤガヤガヤ!


 どれどれ?俺も確認しとかないとな。んーと、うん、うん、なかなか大々的にやってるな。俺を逮捕するために一体何人の警察官を動員してんだか。


 暇人かよ。


「おい、グラウンドにいる警官、全員エリート公安だってよ!スパイだぜスパイ!しかも特殊部隊のSATもいるらしいぞ。」


「マジかよ!ちょーかっけぇー!!」


 ザワザワザワ!


 クラスメイト達の興奮は冷めるどころかどんどんヒートアップしていく。もはやお祭り騒ぎだ。


「えぇい!お前たちは黙っていなさい!今は緊急事態なんだぞ!!」


 教頭が緊張感の無い生徒達を叱責する。そして俺に振り向くと鬼の形相ぎょうそうでこう言った。


 とにかく今すぐ出頭しなさいと。



 だが俺としてはそんなことを言われても困るわけで、従うつもりは全くない。


「校長、今すぐ全校生徒を学校の敷地外に避難させて下さい。」


 ハッキリ言ってパーティーの邪魔だからね。


「貴方はどうするの?」


「・・・それを聞くのは野暮ってもんですよ。」



「・・・分かったわ。教頭先生、今から放送室に行って全校生徒に避難指示を出しなさい。このクラスの皆も速やかに外に出るように。いいですね?これは校長命令です!」


「「・・・は、はい。」」


 普段は優しい校長がピシャリと言い放ったことにより、それまで浮かれていた生徒たちもドタバタと避難を始める。


 数人が慌て出すと、我先われさきにと逃げ出すのは日本人ならではの習性か。


 そうして最後まで教室に残ったのは、校長、俺、雪乃、赤羽、ナナ、そして何故かオタク君だった。


「皆何をしているのですか?早く行きなさい。」


「俺は行きません。」

「私も。」

「私もですぅ。」


 赤羽たちがニヤッと笑いながら残留を宣言する。それを見て校長が何かに気付く。


「・・・貴方達もしかして・・・いや、分かったわ。ではそこの貴方、大田拓海おおたたくみ君だったかしら?ボケっとしてないで急ぎなさい!」


 しかし、そう言われても、オタク君はその場を動こうとしなかった。というか様子がおかしい。顔面蒼白状態だ。


「・・・ぼ、僕ちゃんのせいだ。こんなつもりじゃ無かったんだ。・・・こんなつもりじゃ。」


「ん?なんか言ったか?」


「・・・グスン。ぼ、僕ちゃんが警察に情報提供したのは、ただのストレス解消だったんだ。黒宮氏が雪乃たんやナナみんと仲良くしてたから、地獄に落ちろと思って。そしたらこんな大事おおごとに。」


 なんだ、やっぱコイツがリークしていたのか。どおりで早く見つかっちまったわけだ。


 地獄に落ちろって、めちゃくちゃ故意じゃねーか。


「でも、クラスメイトを売るつもりは無くて、自己完結のつもりだったんでござる。すまない黒宮氏。許してほしいでござる。」

 

 よく分からないが、彼は彼なりに責任を感じているようだ。別に普通の事しかしてないと思うけどな。


「なんだそんな事か、別にいいぞ。それより早く避難した方が良い。」


 邪魔だからな。

 

「・・・黒宮氏、僕ちゃんは君の事を勘違いしていたのかもしれない。グスン。キッカケを作ってしまった自分も残るでござる。それにどんな状況でも雪乃たんとナナみんを守るのが真のオタクでござる。」


 ・・・うーん、なんかこいつって基本的にズレてんだよな。なんで犯人でもないのに立てこもろうとしてんだよ。どんな美学だよ。


 まあいいけどさ。

 

 あとは校長だけだな。どうすんだ?とばかりに視線を送る。


「私も残りますよ。生徒を置いて校長が逃げ出すわけには行きませんから。警察とのパイプ役ぐらいにはなれるでしょう。」


 ふむ、教師の鏡だね。みんなに爪の垢をせんじて飲ましてやりたい。








「えー動きがあった模様です。校舎から生徒達が出てきました!!」


 張り込み用のマンションから校門の前に移動したリポーターの川島里香かわしまりかが、興奮気味にまくしたてる。



「1人1人、警察のチェックを受けて運動場の隅に整列しています。容疑者では無く、全校生徒が出てきたという事は、交渉が決裂したと言うことでしょうか?依然として詳しい情報はまだ・・・・」


 とその時、ベテランカメラマン山口の目が、あるモノを捉えた。


「おい!あそこ!!」


 そのあまりの迫力に、周りにいた別の報道陣も何事かと関心を向ける。


「3階の教室に複数の人影が見えるぞ!」


「「なに!?」」


 ザワザワザワ


「ほ、本当だ!誰かいるぞ!なせ避難していないんだ!?」


 ザワザワザワ


「えー、逃げ遅れたのでしょうか?それとも容疑者が人質を取って立てこもっているのでしょうか?校舎3階の教室に複数の人影が確認できます。・・・・あ、今捜査関係者から最新情報が入ってまいりました。えー・・・え!?」


 川島里香がパッと手渡されたメモ用紙を見ながら驚きの声を上げる。


「えー、校舎の中に校長と、容疑者を含む数人の生徒が残っている模様です。そして、その中には、この学校に通うトップアイドル、赤羽仁さん、来栖ナナさん、白石雪乃さんが含まれているようです。えーもう1度繰り返します……………」








「雪乃たん、ナナみん。大丈夫!僕ちゃんが守ってあげるからね!」


「・・・あ、ありがと。」


 もう、ヤメてくれ。笑っちまうからドヤ顔すんな。ていうか一体何から守るつもりなんだよ。何も知らないお前の立場からしたら、犯人の俺から守るべきだろう。


 偏差値は高いくせに、今の状況をなんだと思ってるんだ。


「あなた、これからどうするつもりなのかしら?いや、正確にはあなた達・・・・と言った方がいいかしら?」


 校長が意味ありげに後半部分を強調して言う。彼女はおそらく赤羽達の正体に気付いている。


「そうですね、ちょうど他の仲間が到着したみたいなんで迎えに行ってきます。雪乃、一緒に来てくれ。」


「う、うん///」


 光魔法のインビジブルカーテンが使える雪乃に声をかける。べ、別に深い意味は無いぞ。


「残りの4人はこれでもして遊んでてくれ。」


 アイテムバックからケースに入ったトランプを取り出し、机の上に置いておく。



 あ、そうだ、その前に教室のカーテンを閉めとかないとな。


「じゃ、行ってくるわ。」



 念話によると風花さんと宇田アイリが正門付近に、美月さんが真反対まはんたいの裏門にいるらしいので、俺と雪乃で手分けして迎えに行く。


 もちろん透明になっても足跡までは消せないので空を飛んでいく。


 グラウンドにはざっと2、300人ぐらいだろうか。銃を持った武装警官が小隊ごとに待機している。


 今上空から攻撃をすればイチコロだが、、、先制攻撃をするつもりはないのでまだ攻撃はしない。


 取りあえず優先すべきは2人を回収することだ。



『お待たせしました。これにくるまって空を飛んで付いてきてください。』


 芸能人オーラがだだ洩れの2人に背後から近付き、隙間すきまからサッとインビジブルカーテンを手渡す。


 さあ早く教室まで戻ろう。


「これいらへんわ!」


 え?


「そ、それなら私も、、、」


 え?


「あ、ちょっと、、、、」


 なんで俺のカーテンの中に入ってくるんですか!?両サイドから密着してこないでください!モデルと女優の良い女フェロモンで鼻がいかれちゃうよ!これはもはやスメルハラスメントだよ!


 ていうか警察官があんな真面目な顔で整列しているのに、その上空でなんて破廉恥なことを!


「うわぁ~あんなにいるんですね~。」


 う、うむ、そうだな。確かにいっぱいいるな。


 ・・・・この密着した状況は極めて不本意だが、もう一度言おう、両サイドからギュッとサンドイッチされているこの状況は極めて不本意だが、少し敵さんについて情報を集める必要があるかもしれないな。10分ぐらい、、、いや3時間ぐらいはこのまま密着してもろてゆっくりと、、、



 ゲフンゲフン!



 あぶない、あぶない!濃密なフェロモンに脳みそをやられるところだった。敵の配置なんてどうでもいいから早く戻ろう。みんな俺達を待ってるんだ。

 

 悪魔のような誘惑を振り払い、命からがら教室のドアを開ける。



 ちょうど雪乃も美月さんを回収できたみたいだ。


 これで全員集合、役者は揃った。



「ふもももも!!ももぉぉ!!アナウンサーの安藤・・美月、国民的美少女の市川・・風花、トップモデルの宇田アイリではござらんか!?あ、握手、握手してほしいでござる!!」



 カシャカシャカシャ!


 オタク君がそう言いながら夢中でカメラのシャッターをきる。


「・・・え、えぇ。」


 3人がドン引きしながらコイツは誰だ?と目線を送ってくる。


 だが説明するのが面倒くさいのでスルーだ。

 

「そんな事より、全員ちゃんとアイテムバックは持ってきたか?少し休憩したら始めるぞ。」


「「うん!」」


「ここはパラダイスでござる。あぁぁん!いい匂いがし過ぎて死にそうだよぉん。誰でもいいから結婚して欲しいでござるぅぅぅ〜。」


 カシャカシャカシャカシャ!


 興奮したオタク君がフゴフゴ言いながら白目をいている、、、どうやら俺とは違って完全に脳ミソをやられてしまったようだ。恐るべき芸能人パワー。仕方がないと言えば仕方がないが、もう少し理性を保って欲しい。


「・・・。」


「黒宮氏、僕ちゃんは君に一生付いていくでござる。そうすれば、ムフ、ムフフ、ムフフフフ!」


 ニタニタするオタク君。


 ・・・コイツはもう放置プレイでいこう。それが1番だ。



「よし、それじゃあ今から15分後に始めるぞ!各自スーツに着替えておいてくれ!」



黒宮レイ(ブラック) 

白石雪乃(ホワイト) 

赤羽仁 (レッド)   

来栖ナナ(イエロー) 

御堂美月(ブルー)  

御堂風花(グリーン) 

宇田アイリ(ゴールド) 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る