第40話 VS 警察!?


日本


警察庁・警視庁合同捜査チーム対策本部


警備局長視点



「えー黒宮レイはどうやら施設出身で両親や親族はいないようです。豊川学園高校には陸上の特待生として奨学金を利用して入学しています。」


「よし、次。」


「はい、現在新宿区のタワーマンションで1人暮らしをしているようです。」


 ザワザワザワ


「なに?どういうことだ?」


「それが、まだ活動はしていないようですが、大手芸能事務所『ジェットボーン』と専属契約を結んでいるようです。」


「・・・。」


 ・・・未成年なうえに、芸能人となると面倒くさいことになりそうだが、、、富樫長官はなんと言うだろうか?


 いや、そんな事考えるまでもあるまい。歯向かう者は徹底的に叩き潰す、それがあの人のやり方だ。



「局長、防犯カメラとテレビカメラの解析が終わりました!」


「どうだ?」


「ビンゴです!こちらを見てください。これは会場の入口に設置された防犯カメラです。ここに黒宮レイは写っていません。それなのに、パンダマンによってスモークがかれたあとの観客席、、、、ここ、ここです!ここに黒宮レイが写っています。」


 この騒動の中、観客になりすまして平然と帰宅したと言うわけか。


「うむ、ということは、つまり・・・パンダマンは黒宮レイで決まりだな。良くやった。」


 ・・・容疑者は確定した。だが私の気分は晴れない。長官の命令とはいえ犯罪の隠蔽に加担してきた以上、今更告発なんて出来ない。そんな事をすれば、苦労して手に入れた今の地位と、数千万の退職金が一瞬にして吹き飛ぶ。


 そればかりかトカゲの尻尾として全ての責任を押し付けられる可能性もある。ではどうすればいいのか?


 ・・・私に残された選択肢は1つしか無い。


 やるなら徹底的に。例え相手が真実を語っていようと、たとえ相手が未成年であろうとも。


 目の前の任務を完璧に遂行する。


 それが警察庁警備局長、即ち公安トップの自分の役割だ。


「明日、黒宮レイが学校に登校したのを確認してから逮捕に向かう。」


「「な!?」」



 ザワザワザワ



 部下達が私の言葉にざわめく。まぁそれも無理はない。本来なら逃げられる可能性の低い早朝に家に行き逮捕する。それがセオリーだ。


 だが、今回は話が違う。


「忘れたか?これは日本の平和に対する犯罪だ。国民の関心も異様に高い。そこで、警察の威信を示すには、偶然・・近くにいたテレビカメラの前で、大々的に逮捕する必要がある。それでこそ国民は安心して日々の生活が送れるのだ。いいか?失敗は許されないぞ!?」


「「はい!」」





 翌日午前8時過ぎ。


 とあるマンションの一室。そこで、カメラマン1人、音声兼アシスタント1人、リポーター1人が張り込みを行っていた。


 理由は、簡単、上からの命令があったからだ。


 詳しい事は聞かされていないが、この後、豊川学園高校で何か・・が起こるらしい。


 それを撮って中継しろと、そういう訳だ。



「はぁ〜高校生ってのは羨ましいもんだぜ。」


 ベテランカメラマンの山口聡やまぐちさとしが、タバコをふかしながら校門に入っていく生徒達をベランダから見下ろす。


「若いってのは良いっすよね〜俺もあの時代は、何て言うんすか?無敵感がありましたよ。」


 媚びるように相槌を打ったのはアシスタントの福山直樹ふくやまなおきだ。


「ふん、俺から言わせれば、お前もあの高校生達も大して変わらないけどな。」


「イヤイヤイヤ、俺26っすよ?頭の中は家賃と税金と結婚だけっす。」


「ハハハ、そりぁまた随分夢がねーな。」


「はい、余裕なんて無いっすから。まぁ里香ちゃんが俺と結婚してくれるんじゃないかって希望はありますけどね。」


 チラリ。


 からの


 チラリ。


 リポーターの川島里香かわしまりかに無言の合図を送る。


 だがその想いが彼女に伝わる事は1ミリも無かった。


「福山さん。」


「はい!」


「それセクハラですよ?」


「グハッ!な、なんでだよ!なんで同じことをしても、イケメンは許されて俺達みたなブサメンは許されないんだ!世の中不公平だ!断固反対する!!」


 目に火花を散らしながら、福山が地団駄を踏む。口からは念仏のように『イケメン滅びろ』という言葉が繰り返される。


 山口と里香も呆れ顔だ。


「おい、いつまでもバカやってんじゃねーよ。アレ見てみろ。」


「・・・はい?・・・おぉ!アレは来栖ナナじゃないですか!?しかも横にいるのは白石雪乃と・・・赤羽仁!んーもう1人の少年は誰っすかね?最近どっかで見た事あるよーな気もするっすけど。ってもしかして俺達がお使いに出されたのは、ナナみん達の交際スクープだったりして?」


 それが全く無いとは言い切れない。なにせ彼らはトップアイドルだ。その一挙手一投足に莫大な資金が動く。恋人でもいようもんなら日本中が騒ぎ立てるだろう。


「・・・。」


 だがベテランカメラマンである山口の直感は違った。理由はよく分からないが、あの黒髪の少年の顔を見ていると何かが引っかかるのだ。

 



    


 そうして、張り込みを続ける事30分、上空に他局の報道用ヘリと、警察のヘリが飛行し始めた。校門前には撮影クルーもチラホラ確認できる。


 ということは、ここで大捕物おおとりものが行われる可能性が高い。しかも警察がメディア各局に情報をリークしたという事だ。


「、、、こりゃやべーな。」


 カメラマンとしての血が騒ぐ。


「どうしたんすか?山口さん?」


「いや・・・嵐が来そうでな。武者震いってやつだ。」


「え?そうっすかね?今日は晴れの予報だったような・・・。」


「バカヤロー、そういう意味じゃねーよ。とっとと準備だけ終わらしとけ!」


「は、はい!」





 様々な思惑がり乱れるなか、時計とけいはり刻一刻こくいっこくと進む。現在の時刻は午前9時。


 とうとう警察の威信をかけた大規模な作戦が開始された。


 日本の、いや人類の常識を根底から覆す『黒の革命』の始まりである。






『え〜番組の途中ですがここで速報が入ってまいりました。謎の黒い集団、セブンヒーローズのリーダー、通称パンダマンの正体が判明致しました。えー豊川学園高校1年の黒宮レイ16歳だということです。番組といたしましては容疑者の人権について十分じゅうぶん熟慮じゅくりょしましたが、事件の重大性にかんがみ、未成年でありながら実名報道となりました。えーそれでは中継が繋がっているようです。現場の川島さん?』


 緊迫した様子でニュースを読み上げるキャスター。告知内容を変更して張り込みを行っているリポーターにつなぐ。


「はい、こちら現場の川島です。ご覧ください!学校のグラウンドに警察車両が続々と入っていきます。そしてその周辺には武装した警官が、何人も配置されています。」


『他に何か動きはありますでしょうか?』


「はい、先程警察関係者と学校関係者らしき人物が話し込む様子が見られました。容疑者の少年についてすみやかな引き渡しを求めた模様です。」


『校舎には他の生徒も大勢いるわけですよね?』


「はい、学校のホームページによると3学年でおよそ700名程が在籍しています。そのため現場は緊迫感に包まれています。」


『う〜ん、これは大変な事になりました。一体どうなるのでしょうか。川島さん、引き続き安全に気を付けて取材してください。』


「はい。」

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