(回答)謎だらけのドール
「師匠の言ったとおりだった」「ダネ」と言いながら、はいってきたのは、セキさんとあのキツネ目の上司によく似たドールだった。
えええええ?
びっくりしすぎて声が出ない。
僕と目があったセキさんがぎょっとした顔をしたと思うと、慌ててドールを引っ張って出て行った。
ドールだよな? でも、どうみても、キツネ目の上司……
どうして???
何がなんだかわからない。
(もうだまされない。白黒はっきりさせてやる!)
僕は大きく息をすって、そして、ゆっくりとナパージュ氏を見た。
「どういうことでしょうか? 今のは、僕の見間違いでなければ、我が社のセキとドールだと思うのですが??」と、自分でも驚くくらい冷たい口調で、ナパージュ氏に詰め寄った。でも、ナパージュ氏は、悪びれる風もなく、口角を少しあげただけだった。再度、つめよろうと、僕が口をひらくと、ナパージュ氏は右手を軽く上げて僕を制した。
「お前、今の仕事、どう思っている?」
(なんじゃ、その空気を読まない唐突な質問!)
キレて怒鳴らかったことを褒めて欲しい。それなのに、ナパージュ氏は、自分の嘘がバレても涼しい顔をして、首の辺りを触っている。僕が身構えて答えるようなそぶりを見せると、にやりと口角をあげた。
「それにしても、3年前のアリスの大災禍さまさまだと思わないか? あの事故で大勢死んでさ」
「?」
「あれで、顧客の希望通りの外見、声、性格にカスタマイズすることが出来る機械人形のニーズが上がっただろう?」
僕は、思わず、アカツキ少年のことを思い出してしまい、視線を床に落とした。ゴミが散らかっている床が目にとびこんでくる。
「何を言いたいんですか?」
「さあな。ただ、アリスの大災禍があって、お前の会社の業績は大幅に上がった。それまではあんなに業績不振だったのによ。お前の会社はうはうはだっただろうって話。だから、次、業績が落ち始めたらまた事故が起こるかもっておもっただけさ」
「いいがかりはやめてください!! アリスの大災禍は痛ましい事故でしたが、それを喜ぶ会社がいるはずがないじゃないですか!」
ナパージュ氏が小さく息を吐くと、「……甘いな……」とつぶやいた。そして、首を数回振って息を吸い込むと話題をかえた。
「……、お前、胃が痛くならないか? 俺なら、お前のような仕事をしていたら胃薬は必需品になりそうだ」
今の僕の状態を見透かされたようで、僕は黙った。
「そういえば、確か、機械人形の無償貸出サービスもアリスの大災禍のころから始めたんじゃなかったか。しかしな、タダだからと言って、客が求めている機械人形を押しつけて、……、一年たったら、金をよこせって、そりゃ、詐欺だよなあ……」
「……し、しかし、最初に契約について、説明をしています。試すことができるのだから、逆に良心的だとおもいますが?」
「まあな。しかし、1年というのは、長すぎる」
「試せる期間は、長いほうがいいのでは?」
「いや、そうともかぎらない。そんなに長く一緒にいれば、情が湧くっていうものだ。手放しなくないって普通思うだろう? そこへきて金を払え、払えなければ返せというのはなぁ………」
「しかし……」と言いかけて、僕はぎゅっと唇を噛んだ。このままでは、ナパージュ氏のいいくるまれてしまいそうだ。僕は、慌てて、大きく息を吸って、深呼吸をした。
「今は、ドールのリース期間についてではなく、セキのことをお聞きしています」
「……」
ナパージュ氏が一瞬黙って、僕の心の中を探るように見た。僕ははぐらかされないよう、ぐっとナパージュ氏を睨み返した。
「はぁ……。どうしてもと言われて、俺は仕方なく契約したんだ」
「ならば、あのドールは?」
「セキの好みだ。俺は、ドールの仕様に興味が無かったからな」
「本当に??」
僕は鼻に皺をよせて、疑わしげに、ナパージュ氏を見た。嘘を見透かされた子どものように、ナパージュ氏は僕と視線を合わせない。
「はあ……。アイツらも間が悪い」
ナパージュ氏が、ガシガシっと頭を掻いた。そして、近くにあったボトルに口をつけて、何か(おそらく水)を飲んだ。
「ドールの回収もしくは更新料の払込がなければ、社のものが来るのは必然でしょう?」
「俺たちは、アイツが来ると思っていたんだ。しかし、お前がきた。そこが読みが甘かったところだな。仕方ない。更新料を払い込むから、帰ってくれ」
話は終わったとばかりに、手で僕を追い払う仕草をした。
更新料の払込は確約できたけれど、「はいそうですか」と簡単に、引き下がれない。
「アイツとは、誰のことですか?」
「お前には関係ないことだ」
「しかし、あのドールは、僕の上司にそっくりでした。それに、僕は上司に言われてここに来ました。理由くらい知る権利があると思いますが?」
「ないな」
「しかし!」
「しつこいぞ。俺は更新料を払うと言ってんだ。文句ないだろう!」
ナパージュ氏が立ち上がって怒鳴った。僕は、それ以上言えず、ナパージュ氏の家を出るしかなかった。
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