回答編(2) ママンと名付けられたドール

「にーに!! ママンが!!!」


 ユヅキちゃんの声に、慌てて、アカツキ少年と僕は家の中に入った。そこで僕たちが見たものは、生命維持装置のコードに足を絡ませて倒れているママンと呼ばれるドールだった。倒れた先にはティーカップが粉々になっている。


 お茶を運んでいる最中に、磁気嵐の影響で転倒でもしたのだろう。磁気嵐は電気系統に影響を及ぼしやすい。さっき、僕が乗ってきたエアカーのウィンカーが点滅したのもそれだ。アリスの大災禍の事故後、このあたりは磁気嵐の影響をさらに受けやすくなった。


 ただ、転倒した場所が悪かった。アカツキ少年たちのおじいちゃんが眠っているベッドの脇、生命維持装置の傍。いろんなチューブやらコードやらが装置から出て複雑に絡み合っていた。そのコード類を巻き込んでしまった。僕には、それらがどう繋がっていたのかわからないけれど、アカツキ少年にはすぐに問題があることがわかったみたいだ。



 アカツキ少年は、慌てて、チューブのあり様を確認し、生命維持装置をチェックし始めた。そして、だんだんと顔色を失っていく。


「どうしたんだい?」

「…………、おじいちゃんが………」


 アカツキ少年はそれだけを言うと、どこかに電話をかけ始めた。


「あ、第六セクター・セントラル病院、ですか? あ、はい、あの、イ、イナバです。あ、……、あの、ジョシュア先生は?……あ、は、はい、………先生!!! 今すぐ来てください。おじいちゃんが!! ……………………、あ、はい、青のボタンを……、はい、起動させてみます………、え?………、反応しません………え?……、、え、は、はい……………」


 電話の声の指示にそってだろう。アカツキ少年が生命維持装置をあれこれいじっている。ただならない様子にユヅキちゃんは僕にしがみついて泣きだした。生命維持装置のコードを巻き込んだ時に、ショートでも起こしたのか、ドールは倒れたままだ。


 すぐに病院の先生がやってきた。そして、アカツキ少年と一緒に生命維持装置をいじり、寝ているアカツキ少年のおじいちゃんに、大声で呼びかけ、脈をとり、眼球に光をあて、……僕たちに部屋から出ていくよう命じた。僕は泣いているユヅキちゃんを抱きかかえ、うなだれるアカツキ少年と一緒に部屋の外にでた。


「……………、おじいちゃん………」







それは、運の悪い事故だった。



 僕は、動かないドールを回収し、やるせない気持ちを抱えたままアカツキ少年の家を後にした。


 後日、スコティッシュ・フォールド社から、ドールの永久的無償リースの提案がなされ、多額の金額が振り込まれた。


◇◇



「ワタシ、知ッテイタンデス。アカツキガ悩ンデイルコト。ワタシノ為ニ オ金ガ必要ナコト。シカシ、博士ノ機械ニ、オ金ガ掛カルカラ、オ金ガ足リナイコト。ワタシ、知ッテイタンデス。博士ガ悩デイルコト。死ニタイ。死ニタクナイ。アカツキ達ガ大好キ。アカツキ達ノ迷惑ニナリタクナイ。ワタシモ同ジ。ユヅキとアカツキノ幸セヲ願ッテイル。ダカラ、ワタシ…………………」


 


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