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 ――と、また画面がノイズに覆われ、復帰した。

 今度はロボ研の活動内容PVの続きである。一人の少年、たぶん初等部が、先輩会員の手も借りて自分より背の高い女性型ロボのフレームを相手に作業している。いちおう並の人間よりはロボに詳しい吾輩たちの目で見ると、フレームといい転がってるパーツといい、今となっては数段ローテクの匂いが漂っている。となるとこれは……

「ケイちゃんの時の制作記録ビデオだー。カイチョーこの頃からメガネかけちゃって、面影あるなー」

 マスターが状況も忘れてのどかな感想を漏らした。たしかにこれは何かほっこりしますな……って、それどころじゃない。

 みたび画像が乱れ、復帰した時にはまたロボ研とは関係ない映像を流していた。

 今度大写しになったのはわがマスター、青空ひまわり。ちょっと幼い印象を受けるから初等部の頃撮られたものだろう。授業中と思われるが、マスターは机の上に学生端末タブレットと保護ケースで壁を作ってお弁当をかき込んでいる。

「やりそうなヤツだとは思ってたが、やっぱ早弁してたか」

 ロン殿が生ぬるい笑みを浮かべてマスターを向く。

「う。けんこーゆーりょーじはお腹が減るんだよー」

 さすがに赤面して言い訳するマスターにかぶせるように、学内放送から男性とも女性とも判別付かない、機械的な音声が降ってきた。

「これがロボ研究会の日常である。こんなふざけたクラブがわれらが穂妻学園に存在していいのか。学生諸君はよく考えていただきたい」

 ことここに至って、ようやく吾輩とマスターはこの状況に結論を得た。二人して顔を見合わせる。

「これって……」

「放送ジャックだ!」

 叫ぶが早いか、マスターはロン殿を置き去りにしてダッシュした。吾輩もそれに続くが、人並みの運動能力しか持たない脚ではとても追い付けない。しかし後ろ姿を見失っても行き先はもう分かっている。

 放送室だ。


 どたばたと放送室に駆けつけると、中ではすでに会長殿が狂ったように――狂ってるんだけど――明滅する大小多数のモニタの光を受けながら、常人離れした打鍵速度で必死に制御盤コンソールと格闘している最中だった。ついでに青い顔で右往左往する放送部の面々が何人か。

「カイチョー! PVがジャックされて」

「分かっている!」

 マスターの問いかけを食い気味に、怒気をはらんだ声が返ってくる。この人のこんな余裕のない姿は吾輩これまで見たことがない。

「ボクになにかできることってない?」

 会長殿の様子を見て、のんびり問答をしていられる事態ではないと悟ったのだろう。マスターは最低限の言葉のみで、副系統サブのキーボードの前に座った。

「青空はとにかく配信を正常化することに専念してくれ。それでこちらは侵入者ハッカーに専念できる」

「りょーかい!」

 指示を受けて、マスターも制御盤コンソールをいじくり始める。こちらの速さも素人ではないのだけれど、やはり会長殿には見劣りしてしまう。

「吾輩にもなにかお手伝いできれば」

「だめだよ、ミケ!」

 一歩踏み出しかけた吾輩を、これまためったにないマスターの切羽詰まった声と表情が制した。

「ロボだってネットにつながってるんだよ。この状況でヘタに手出しして、ミケまで侵入クラックされることになったら……。ケイちゃんだってそこの隔離区画シェルターにいるでしょ? ミケも早く入って!」

「ア、アイアイサー」

 吾輩はあたふたとケイ殿が待つ放送室の一角パーテーションにおさまった。<ネットワーク切断>の警告ワーニングが入るが承知の上。これで吾輩たちロボは電子ネットワークから完全に隔離される。外部からの侵入を受ける恐れは100%なくなったわけだが、逆にこちらからも何も手出しできないということになる。

「一体誰がこんなことをしたのでありましょうか?」

 なんとなく答えは推測できるが、ぼーっと突っ立っているだけというのも間がもたない。吾輩が口にした疑問に、これまたすることのないケイ殿が答えた。

「確証は持てません。しかし堅牢な学園内放送ネットワークに侵入する技術力。ことさらにロボ研をおとしめる映像を選び抜き編集する情報収集・処理能力から<推理>しますと」

「サイバー部、だな」

 相変わらず目と指は忙しく制御盤コンソールの上を躍らせながら、会長殿が短くあとを引き継いだ。

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