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 快調に注目を集めつつPVは滞りなく進行していく。画面は会長殿とマスターは二人がかりでケイ殿の腹部ハッチを開き、内部メカニズムをいじくり回している様子を映している。これは吾輩カメラの死角からサポートしていたから覚えがある。ひと月ほど前のホワイトデーにかこつけてケイ殿を改良アップデートした時の記録だ。

(いや~、ケイちゃんのアップデートもだんだんややこしくなってくるよねえ。なにせロボ技術は日進月歩で、部品パーツの規格とかどんどん変わってくから)

(吾輩はまだできて半年ですから余裕がありますが。いずれは通る道なんでしょうね)

 PVを眺めながら二人してのどかな感想を話していると、不意に背後に気配を感じた。こういうことにさといマスターがいち早く振り返る。

「二人して学内放送ホツマビジョンの前でなにコソコソしてんだと思ったら。またロボおたくどもが生意気な真似しやがって」

 ここ一週間ほどですっかり印象に焼き付いてしまった茶髪をツンツンに尖らせた男子が、画面を一瞥するなりひねた声で吐き捨てた。

「このビデオを作るのだって、いくらかかってるんだ? けっ、つくづく金持ちの道楽だな!」

「お言葉ですがロン殿。動画はあらかじめ記録していた映像をつなぎ合わせただけですから、学生のお小遣いの範囲で十分にまかなえる金額ですよ?」

 遅れて振り返った吾輩が遠慮がちに反論すると、ロン殿の顔がさらに不機嫌さを増した。

「だから、そのロボを作るためにどんだけのカネがかかってるんだっての! どうせロボなんて、クズの役にも立たねえオモチャのくせに!」

「いやそれはですな、家事手伝いとかですね……」

 理屈よりもロン殿の迫力に押されて返す言葉を失った吾輩を押しのけて、マスターが口げんかを買って出た。

「ちょっとーロンくん? 初日から聞いてりゃキミはおカネおカネって、学生の間くらい損得勘定抜きで思いっきり何かしてみようって気はないわけ?」

「ああ無いね! どうせのほほんと暮らしてる日本人オマエらには、留学生オレらの苦労は分からねえだろ! こっちゃ国を背負って必死なんだよ!」

「必死ってねー。ボクらだってこれで必死なんだよ! そりゃ国がどうとかってレベルじゃないけど、周りからのプレッシャーとか、邪魔してくる連中とかあるんだから!」

 いつの間にか放送そっちのけの方向に脱線していった口げんかを前に、ディスプレイ前に集まっていた学生たちの雰囲気が浮足立ってきた。

(なになに、ケンカ?)

(金がどうとかって言ってるけど)

(でもなんかこの二人、仲良さそう)

(じゃあ痴話喧嘩ってやつ?)

(なんか拍子抜けたなー)

(関わると面倒臭そう。行こうぜ)

 そんな小声の会話が<聴覚センサー拡大>した吾輩の猫耳に届いてきて、集まっていた人たちが一人また一人と離れていく。これではPV形無しである。吾輩は焦った。もちろん周囲を見渡したマスターも焦った。

「ああもうー、キミがイチャモン付けるからお客さん逃げてっちゃったじゃん! どーしてくれんの?」

「へん、どうせ今にも潰れそうな弱小同好会にゃお似合いだぜ! せいぜい身の程をわきま」

 ――ロン殿が意地悪く笑って胸を反らせた、その瞬間。

 ロボ研活動の内容を紹介していた学内放送の画面に、突然ノイズが入った。

 そのまま画面は判別不可能な乱れを垂れ流し、音声のほうも耳障りな騒音しか聞こえなくなる。

「ちょっとキミ、なんかしでかした?」

 顔色を変えて叫んだマスターに、ロン殿もとまどった様子でかぶりを振った。

「オ、オレにはそんなスキルも装備もねえよ」

 ノイズはしばし続いた後、まともに見られる映像に復帰した。……だが、そこに映っていたのはロボ研のPVではなかった。

 前後脈絡なくいきなり大写しになったのは、メガネに少々乱れ気味の髪、齢は三十がらみと見受けられる女性教師の姿。

「ってセンセー? こんなってないよ?」

 マスターが大きな目をさらに見開いて画面に見入る。

 そう、中等部1-Fの担任にしてロボ研顧問、藤波桜子先生殿の姿であるのだが……この先生殿、明らかに酔っぱらってらっしゃる。背景はどこかの居酒屋と思しき。テーブルの上にはジョッキやら徳利やらお猪口やらが大量に並んでいる。いや、一部は転がっている。

「くわ~っ、こんな遅くまで仕事してらんねぇ~」

 吾輩たちの困惑にお構いなく、桜子先生は酒を呑んではくだを巻く。

「あれ1-Fウチの藤波センセだよな? ダメっぽい人だと思ってたが、ここまでダメだとは……」

 並んで放送を見ているロン殿もすっかり毒気を抜かれて、間の抜けた問いを吾輩たちに向けてきた。

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