PVを配信してみよー!

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 学園の大小様々な建物を環状に結ぶ回廊モールは、ただのだだっ広くてテラ長いだけの廊下ではない。

 各所の天井にはディスプレイが吊り下げられ、学園生活に必要な情報を逐時放送している。

 現在いまとなっては電子デジタルネットワークも発達し、学生端末タブレットにも同じ映像が配信されているので、いちいち専用のディスプレイを設置する重要度はだいぶ低下しているのだが、重要な、あるいは緊急の情報を見逃すことがないようにと、こんな設備もまだ残されている。

 そこが今度のロボ研新歓の舞台だった。

「準備に一週間かけた。素材ソースも自治会の審査通った。もう誰にも文句言わせないよー」

 中等部校舎に一番近い学内放送ディスプレイの前に陣取ったマスター。「RACIPRO」オンライン・レースのスタート前みたいに全身に闘気をみなぎらせている。

 というわけで、学内放送にPVプロモーション・ビデオを流そうというのが、新歓次の一手である。

 事前に人を集めるのは回廊モールの人の流れを妨げるので自治会からお目玉を受けるが、ロボということで目立つ吾輩を見つけて、何ごとが始まるのかと何人かの学生が端の邪魔にならないところで立ち見している。これくらいなら目くじら立てられることもないだろう。

「10、9、8、……」

 いよいよ予定の放送開始時刻が近づいてきた。マスターが時計とにらめっこしてカウントダウンを始める。

「……3、2、1、キュー!」

 合図とともに画面が切り替わり、ロボ研究会室を背景に背負ったマスターと吾輩の姿が大写しになった。

「時代の最先端! 君の青春をロボに賭けてみないか?」

 風紀的な配慮から、今回は派手なコスチュームでもなく、いつもの活動性第一の恰好でもなく、だいぶ大人しめなジャンパースカートに身を包んだマスターがびしっと画面の向こう側、すなわち視聴者を指さす。

「明日のロボ文化の担い手となるあなたに、この動画ビデオをお送りします」

 後を引き継ぐ吾輩の服装は、普段とあまり変わらない。上はセーラー服、下はスラックスだ。もっとも色味はやはり風紀に配慮して地味目をチョイスしている。

(先日のふりふりよりはましですけど、できれば吾輩こういう目立つ役は遠慮したかったですよ)

 PVの邪魔にならないよう、小声でマスターにささやきかける。この姿が衆人環視されていると思うと、どうにも水温が上がって落ち着かない。

(そこはそれ、今年の目玉はミケとボクなんだよ。それは外せない)

 マスターもささやき声で返して、ついでに八重歯を見せて小さくサムアップした。彼女としてはウエルカムな人選だったのだろう。

「我らロボ研究会は、部活昇格を目指して新規会員を募集中である!」

 映像では「無いものは創れ」の墨書を背景にした会長殿が、むやみに偉そうに胸を張っていた。いつもフォーマル寄りの服装を好む会長殿だが、今回はネクタイを締めて背広も着てと、これまた気合が入っている。

「『ロボなんて難しそう』と不安に思う方も心配無用。知識と経験豊富な先輩会員とロボ達が手厚くサポートします」

 いつものゴスロリ調から一転してまっとうな女性教師風のスーツに身を包んだケイ殿が、例によって淡々とした口調で視聴者に呼びかけた。

(経験はともかく、知識のほうはちょっと話盛ってませんか? だってマスター)

(しっ! そー言わないと人集まんないでしょ?)

 周りをはばかりつつつっこみを入れた吾輩の口をマスターがふさぐ。

 放送では画面が切り替わり、部位パーツごとに分割された上にハッチが開かれて内部が露わになったロボをいじくりまわすマスターと会長殿、そしてケイ殿の姿が映る。というかこの猫耳は……。

(これは吾輩を制作していた時の映像ですか。初めて見ますね)

 マスターは映像に目をやったまま、懐かしそうにうなずいた。

(なにかの思い出になればなって撮っといたんだけど。ここで役に立ったねー)

 画像ではまだ初等部のマスターが作業を中断し、やおらこちらに振り返った。

「専門知識はご無用! プラモデルを作る程度の技術があれば全然オッケー!」

(というか、実際の制作期間はほとんど資金調達に費やされたと聞いていますが?)

 またもやつっこんだ吾輩に、マスターは悪気のない顔で舌を出してみせた。

(だって資金集めなんて面白くないじゃーん。そこはちょこっと脚色してね♪)

 そんな内緒話を交わしつつちらちらと周りの様子をうかがっていると、興味を引かれたのかぽつぽつと足を止めて画面に見入る生徒たちが増えてきていた。遠目に見える別のディスプレイの周りにも人が集まり始めている。ロボ研PV、滑り出しは上々の手ごたえだ。

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