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「それじゃぁゼロからオリジナルデザインを考えていくってことだけどぉ」

 ファッション関係の進路を希望という派手めの子が白版ボードの前に出てタッチペンを取り、慣れた手つきで制服の図案を起こしていく。

「セーラーか、ブレザーか、それともジャンパーか。基本はこの三種だと思うんだけど」

「男女共通デザインってのは譲れない」

「色使いも普通にはないのにしたいよね。それでいて学生らしいってなると」

「さりゅーじる! この布地どっかで使いたい!」

 様々な意見に応じて制服図に大小の修正が重ねられ、アイデアが形になっていく。

「それではこの案が決定稿ということで、皆さん異論はありませんか?」

「「異議なーし!」」

 最終的にほぼ全員の賛成を得たのは、トップスは白地に赤のスクエアセーラーカラー。左胸、心臓の位置にポケットを付けてそこに穂妻学園の校章をあしらう。タイはマスター提案の気分によって色が変わる布地を合わせる。ボトムスは赤で、スラックスとプリーツスカートを選択可能、というものだった。

 ……念を押しておく。男子でも選択可能である。男子でもスカートを履いていい・・・・・・・・・・・・・・のだ。

「続いて、体育着と水泳着を決めたいと思います」

「この二つはあんまりデザインの自由度ないよな」

「それでも穂妻って感じは出したい」

「さりゅーじる! ボクはこんなのがいーな☆」

「青空さん、自転車だけではなく運動全般を考慮してください」

「いや、下はそれで行けるんじゃない?」

「色で個性を主張するのがいいかもしれない。せっかく赤ってアイデアが出たし」

 またも侃々諤々の議論の末、体育着のトップスはオーソドックスな白地の綿生地を採用しながら、襟、袖、腰に赤のライン。なにより左胸に穂妻学園の校章。背中には名字のローマ表記と出席番号をゼッケンとしてプリントする。ボトムスは赤地に白ラインの短パンとスパッツを選択可能。ハチマキに気分によって色が変わる布地を採用した。

 その上に必要に応じて着るジャージは、赤地に白のライン。左胸にポケットを付けて、ここにも穂妻学園の校章を意匠する。

 水着は体の線が出にくいジェンダーレス・デザインを採用した。半袖、ハーフパンツであることを除けばジャージと見間違うかも知れない。色は例によって赤地に白のラインを引き、トップスの左胸に穂妻学園の校章、背中に名字のローマ字と出席番号がゼッケンで入る。水泳帽はもはやお家芸となった気分(略)布地で決定となった。

「では、以上の案で地元の業者さんに発注を」

「ちょっと待った!」

 委員長殿が議事を締めかけたのをさえぎって、一人の女子が手を挙げた。

「ミケくんはどうする?」

 その一言で、クラスメイト一同の視線が吾輩に集中した。

「あ、そっか。ミケ君稲妻ここの生徒ってわけじゃないよね。かといって仲間外れはかわいそう」

「それでもなんか、一目で区別が付くようにはしたいな」

「えぇー? みんなと同じでいーんじゃない?」

「ひまわりちゃん、二人分のお金がかかるけど大丈夫?」

「んー、そこはまあなんとか」

 かくして、吾輩の服装について短い追加の議論が進められた結果。

 吾輩に関しては、デザインは踏襲しつつ、配色を赤白反転ということで最終的な決定を得た。ちなみに水着に関しては初日にちょっと答えたロボでも水に浮く布地を使う。

「ミケ君は体育着のゼッケンはどうしますか? 37以上で、できれば二ケタの数字でお願いしたいのですが」

「アイサー」

 吾輩は少々<検索>して、

「では“68”でお願いします」

 と答えた。

「ぐっじょぶミケ! 実にロボ研らしい番号!」

 隣のマスターが歯を見せてサムアップした。深い意味はないのだが、なにか感性に刺さったらしい。

 一連の議事が終わった後、吾輩は内心、ほっと胸をなでおろしたのであった。

(……よかった、スカート着用とか言われなくて)

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