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「うう、あんまり女の子女の子したの、苦手なんだよー」

 マスターもアイドル部のキラキラウェーブに侵食されていく。どうにも歯切れの悪い返事を返すのが精一杯。このままでは二人してアイドル部に引きずりこまれる未来が待つばかりだ。

「お二人がお困りのようですので、先ほどの取り引きの件、代わりにケイが受け持っても問題ありませんが」

 ロボ研の未来を担う一人と一体の危機を見かねてか、ケイ殿が進み出てきて申し入れた。その顔に浮かぶのはいつもの硬質で無機質な表情。状況を分かっているのかいないのか、ちょっと読み取りづらい。

「うーん、ケイさんはねー。さすがに古くなっちゃった。はらりんのコスだけ見ればキマッてるんだけどね」

 悪くない条件の申し出だと思うのだが、センター殿はここで初めて、乗り気でない様子を見せて小首をかしげた。

「さっきのパフォーマンスも、技術的には完璧だけど、ハートがないよね。鍛えてもどうにもならないところがあるって、アイドル部ウチじゃあ獲りづらい」

「ハート……解析不能」

 ケイ殿の状態表示ステータス・インジケータランプが目まぐるしく瞬いて、警告イエローを吐き出した。

「旧式化は十分自覚しているが、それでも私が精魂込めたロボを悪く言われるのは見過ごせないな」

 三対一でもまだ形勢を覆せないのを見かねたのか、それとも言葉通りの反応か、会長殿まで問答に加わってきた。

「とにかくそちらの条件、きっぱりと断らせてもらおう。われらロボ研はあくまで自力で会員を獲得する」

「そんな強がり言っちゃってー。もしあたしらの力でそっちに人が入ったら、どうするつもりかな? トオルくん」

 センター殿の挑発的な物言いに、会長殿はまず言葉ではなく、手にした機材を再び構えることで答えた。

「簡単な話だ。アイドル部よりも早く、会員を獲得すればいい」

 会長殿の行動にまず反応したのはマスターだった。アイドル部員を押しのけてステージに陣取る。

「よし来たカイチョー。ほらミケも、ケイちゃんもぼさっとしない!」

 会長殿とマスターの意図を察して、吾輩たちロボ二体も慌ててそれぞれのポジションに付く。アイドル部を脇に残したまま、ロボ研の本日の二曲目が軽快に流れ出した。

「さりゅーじる! ボクらの第二弾、行っちゃうよ!」

 三度観衆の拍手。ぱらぱらという感じだが、最初のこれからなにが起こるのか分かっていないという雰囲気ではない。ロボ研の一夜漬けとアイドル部の積み重ねた技量、その差を見切った空気を感じる。


 ♪突きとか 気合とか

  最初に言い出したのは


 しかし吾輩たちは、この歌を最後まで歌いきることはできなかった。


 ぴぃーっ!

「ロボ研究会は直ちに不適切な勧誘活動を中止し、総合自治会室に出頭してください!」


 けたたましいホイッスルの音とともに、そろいの、学校制服というよりは仕事ビジネススーツに近い服装に身を包んだ一団が群衆をかき分けてきて、ロボ研のメンバーを取り囲んだ。

「げ、自治会!」

 マスターが中途半端な振りのまま絶句する。その手の中にあるマイクをスーツ軍団がひったくり、続いて吾輩たちの持つマイク、会長殿の構えた機材も接収していく。

「機材を取り上げられてしまいましたよ。これではどうすれば」

 またもや想定外の事態に動作停止フリーズしたロボ二体に、会長殿のため息がふってきた。

「自治会に逆らうわけにも行かない。おとなしく付いていくしかないな」


 自治会室――総合自治会室は、主に授業ではなく学園運営に関するさまざまな事務作業を引き受ける、事務棟の一角にある。

 むやみに広い部屋。その奥には、分厚い木材の長机と革張りの椅子。脇の棚には、今時はすっかり珍しくなった紙の書類がびっしりと詰まっている。どの学校でもこの手の部屋のお堅い雰囲気は変わらないというが、穂妻学園は超大規模校なだけにお金までかかっていそうなしつらえである。

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