とにかく派手にいってみよー!

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 新年度二日目もまだ穂妻学園は短縮活動。

 カリキュラムのガイダンスなどが主な内容で、授業が本格化するのはもう少し先だ。

 いきおい活動の中心は、朝と放課後の各クラブの新入部員勧誘活動になる。

 運動系なら、グラウンド、各体育館、プールなどそれぞれの練習拠点が主な舞台。

 文化系なら、回廊モールか前庭、中庭あたりを根城にするのが定石だが。

 その中庭の一角を占める野外ステージが空いたわずかな隙を突いて、ロボ研の二人+二体はダッシュで活動場所を確保しそれぞれのポジションに付いた。

「れでぃーすあんどじぇんとるめん! あんどおとっつぁんおっかつぁん! すたーとゆあえんじんず!」

 とにかくノリと勢いだけはあり余っているマスターの意味不明気味なシャウトに、中庭の生徒たち、主に中等部高等部からの編入生からの注目が集まった。

 視線の先には、吾輩たち四人。しかしいずれもいつもの恰好ではない。

 微妙な違いはあるものの、統一したコンセプトでデザインされたと分かる、妙に丈が短い上に派手な配色、ふりふり、装飾の類がたっぷり乗っかった衣装に身を包んでいた。

 ……とまあここまでの説明でなんとなくお分かりかと推測するが、アイドルのまねごとをしてとりあえず目立っちゃおうという安直な作戦である。

 それも普通のアイドルではない。ソーシャルゲーム「ときめき☆AIドルスター・アイドル」に登場する、架空バーチャルのロボ・アイドルキャラクターたちの扮装コスプレだった。

(なんでよりによってアイドルゲームのコスプレなのでありますか?)

 吾輩はマイクをOFFにして、小声でマスターに文句を言う。

(しょーがないじゃん。ケイちゃんのアイデアの中で、センセーが持ってる衣装ってこれしかなかったんだもん)

 日ごろMTBマウンテンバイクをぶん回す関係でひらひらした服装を好まないマスターも、今日ばかりは仕方がないとステージ衣装に身を包んでいる。うん、派手は派手なんだけど……。

(せめて吾輩がマスターの衣装を着たかったのですよ。なんだって主役をまかされなければならんのですか?)

 三人の中でも、マスターはちゃっかりホットパンツのボトムスが第一に目立つ、全体的に「可愛い」は押さえつつも「元気」を前面に押し出したアレンジで固めていたのであった。

(だってミケはいちばん新型じゃない。だから今年はミケを前面に押し出さないとね☆ センターはまかした!)

 しゅたっと敬礼して横のケイ殿をちょっと振り返る。こちらはスカート姿。いつもの床をこすりそうな丈よりは相当短いが、全体のカッティングがトップスも含めて直線的で、なんとなく「クール」というイメージ。

 後ろの会長殿は同じコンセプトに従いながらも、スーツ風にアレンジした明らかに男物の衣装でお茶を濁している。しかも今回伴奏担当ということで、機材の影に身を隠している。

 そして前面中央に一人押し出された吾輩は、

(吾輩、しょせんこうなる運命でありますか……)

 三人+一人の中でも際立って「可愛い」を押し出したアレンジ。ふりふり、装飾もこの中で一番。トップスはおへそ丸出し、ひらひらのスカートもぎりぎりのミニ丈という衣装を着せられていたのであった。

(あの猫耳と尻尾、噂のロボだぜ)

(確か男性型って聞いてたが)

(しかし妙に似合うな、あのふりふりとミニスカ)

(やばい、なんか目覚めそう)

 観衆、主に男子生徒がささやく声が聴覚センサーに届いてくる。

 うう、この何度経験しても慣れないいたたまれなさは未だ<解析>不能。

「うぇるかむとぅー穂妻学園! 新年度の晴れがましいスタートを祝して、ボクらロボ研が一曲行っちゃうよ!」

 吾輩の葛藤を知ってか知らずか、マスターがノリノリの声で宣言する。中庭の生徒たちから、まだ状況がよく分かっていない感じの拍手がぱらぱらと送られる。前日の打ち合わせ通り、会長殿が機材を操作して前奏が流れ出した。

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