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「そうよ。アタシら見てたもん」

 他の女子が吾輩を弁護してくれる。

「そこの中国人……ロン・トイトイくんだったっけ? ミケくんの足を引っかけて、橘ちゃんのスカート下ろさせるようにしむけたでしょ?」

 女子一同の怒りのこもったまなざしが、吾輩の後ろにいた男子に向かう。<記録>に新しい、少し伸ばした髪をツンツンに尖らせ、つり目気味の瞳を持った少年が、不機嫌そうに唇を曲げた。

「生意気なんだよ、ロボのくせに」

 ロン・トイトイと呼ばれた男の子は、開口一番吾輩への敵意をぶつけてきた。

「ちょっと女にちやほやされたからって、浮かれやがって。クラスの中心にでもなったつもりかよ? お前なんて穂妻学園ここの生徒でもなきゃ、人間でもないくせに!」

「ちょっとぉトイトイくん? うちのミケにけち付ける気?」

 吾輩とロン殿との間に、マスターが割って入ってきた。あ、リボンがやばい色に……。

「お前もな、ロボ女!」

 ロン殿はひるんだ様子もなく、今度はマスターに噛みついてきた。

「これ見よがしにロボなんか連れてきやがって、自慢げに見せびらかして。どうせ親が金持ちなんだろ? はっ、『人生勝ったも同然』てかよ!」

「あのねえ、さっきの話聞いてなかった? これでもミケを造るには」

 マスターとロン殿の喧嘩が本格的になってきた時、

「う……ひっく……}

 険悪な雰囲気を、吾輩の背後から聞こえてきた泣き声がさえぎった。

 橘殿が顔を覆って涙を流している。恥ずかしさに耐えきれなくなったらしい。

「あ~っ! 女子泣かした! あんた最低!」

「ちょっと女子集まって橘ちゃん隠して! 手の空いてる子は体操着持ってきて!」

「スカートは……布地は破れてないけど、ファスナーはもうだめね。交換しないと」

 もはや教室は女生徒たちの大騒ぎ。半分は橘殿をフォローし、残る半分はロン殿に怒りをぶつけている。後の男子はというと、気まずそうにこの事態から目をそむけている。

 大勢の女子の攻勢にさらされてさすがに分が悪いと悟ったのか、ロン殿はやけ気味に席を蹴立てて教室から出ようとした。

「ロン・トイトイ。キミのしでかしたこと、女子全員きっちり覚えとくから」

 その背中に、マスターが低い声をかけた。

「へっ、お前もこれに懲りたら、ロボなんて学校に連れて来るのはやめるんだな」

 ロン殿はそれだけ言い捨てると、足早に昇降口へと向かっていった。

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