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煙を吹く勢いで学園に着いたら、シャワーの前にクールダウンのプロセスをこなす。
まずは陸上の400mトラックを3と3/4周、徐々にペースを「落としつつ」計10分ほどかけて走る。
さらにクールダウン・ストレッチもこなす。
「じゃ、またよろしく」
「アイアイサー」
ここでも吾輩補助に付いて、お互い血液(
ここまで済ませてようやくシャワー室へ。そこはさすがに女の子の端くれ、汗まみれの体をそのままにしてはおけない。
シャワーと着替えを済ませたら、ヘルメットと風で乱れた髪を整え、仕上げにお気に入りの“気分に合わせて色が変わるリボン”を後頭部にきゅっと結ぶ。――今日は“元気”の黄色。
この頃になってくると、他の生徒たちもあらかた登校してくる。その視線はおおかたが元気すぎる女の子ではなく、その隣の吾輩に向いている。
(ねえねえ、あの子ロボだよ!)
そんなささやき声が、<聴覚センサー拡大>した耳に届いてくる。
吾輩をロボだとすぐに見分けられる理由は、技術的な限界でまだ十分に人型に似せて造ることができないから、というわけではない。技術的にはもう、外見からは人間と区別の付かないロボを造ることが可能だ。そのために五年ほど前にロボ基本法が改正されて、「明らかに人間と見分けの付く形状をしていること」という条文が追加された。吾輩の場合その条件を満たすのが、頭から直接生えている猫の耳と、お尻から直接生えている猫の尻尾なのだ。
もっとも、これだって伊達に付いているわけではない。耳のほうは今さっきの通り<聴覚センサー拡大>として使えるし、尻尾だって感覚も通っていれば、ちょっとしたものなら巻き付いて持ち上げることだってできるのだ。
「さりゅーじる! じゃない、おっはよー!」
割り当てられた
「はじめまして! その子なんて名前なの? 何歳くらい?」
マスターが席に着くなり、周りには人が群がって質問攻めになった。集まってくる顔ぶれは大半が
「今日からよろしく! ボクは青空ひまわり。この子はミケランジェロって名前だけど、まあミケでいーよ。できたのは半年くらい前!」
「ミケランジェロであります。お気軽にミケとお呼びください。マスター共々よろしくお願いするのです」
「きゃーっ、口きいた!」
そんなやりとりが何度となく繰り返される。
さらにはこんな人たちも来る。
「あーん、
「ミケくーん、離れ離れになっても私たち友達だよー☆」
名残惜しそうに吾輩の手をにぎにぎ、頭をなでくりしてくる。彼女たちはロボを見慣れているので、吾輩の存在に遠慮してくるということがない。
「もちろんでありますよ。これからもお気軽にお付き合いください」
まんざら悪くもない
「ほー。ミケってば女の子相手に鼻の下伸ばしちゃってるんだー」
半オクターブほど低くなったマスターの声が、そろりと触手を伸ばしてきた。
「あ、いえ、けっして女子相手に相好を崩しているということでは」
「うるしゃーい。そんな浮気者にはこーだ!」
力ない反論をさえぎって席から立つと、マスターは電光石火の早業で吾輩を
きりきりきりきり……。
とはいえ、これはあくまで日常のコミュニケーションの範囲。マスターも本気で吾輩を締め落とすつもりはない。ポイントを多少ずらして、関節を外すよりも痛みを与える、スタミナを奪う技のかけ方だ。そもそも吊り天井固めって、観客にアピールするための見せ技の意味合いが強いし。
「ちょ、ちょっと青空さん、スカート! 見えちゃう!」
慌ててマスター(と吾輩)の周りに人間の壁を作るのは、
「へっへーん。下はスパッツだもんね♪」
余裕の笑みを浮かべつつ、それでもおもむろに技を解いた。ああ、肩と足の関節に
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