ただものではない学園
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こうしていつものように寝坊気味に起きた後、あわただしく着替え、顔洗い、朝食、歯磨き、トイレ、ストレッチ、準備運動を済ませたら、どっかんと飛び出すように登校となる。
……ように見えるが、マスターなりに考えて走ってはいるらしい。ヘルメットをかぶる関係でリボンを付けていないので、気分までは分からない。
「水温70℃までは一速だけー」
そんなことをのたまいつつ、走り出し10分くらいまでは一段軽い
「油温70℃までは一速と三速ー」
その後さらに10分くらいまでは、ペダリングを毎分90回転に制限して走る。合計20分“慣らし”を行って、ようやく掛け値なしの全開走行に入るのである。
その言葉通り、マスターは今時すっかり珍しくなった
とはいえ、最低限道路交通法は守らなければならない。
今もそうして信号待ちをしているマスターの姿を、周りの歩行者、自転車の皆さん方が二度見三度見している。
まあ無理もない。
校訓は「自由創生」。何事においても児童・生徒・学生の自主性を最大限尊重し、画一的な横並びの教育よりも、一人ひとりの個性を引き出すことが優先される教育方針で知られる。
その傾向は、とくに高等部で顕著に現れる。進学した生徒たちはここで人文・語学・社会・理数・体育・芸術・商業・工業・農業の9つの学系に分かれ、さらに生徒一人一人の能力と適性、なにより希望に合わせたカリキュラムを組み立てて、それぞれ自分自身が決めた時間割の中で授業に励むことになる。高等部も三年になると、クラスメイトと顔を合わせるのは朝と帰りの
課外活動もしかり。初等部四年から所属可能になる部活動では、多種多様な部・同好会が存在し、それぞれ己の専門分野で力を発揮すべく、日々研鑽を積んでいる。
ただしその責任も、ほぼ全て自分に返ってくる。目的意識のない人間、没個性でありたい人間に対して、この学園は冷たい。節目節目の試験、課題は易しいものではない。日々の努力を怠り、それをクリアできなかった児童・生徒・学生の前に突き付けられる道は、ひっそりと穂妻から去るか、誰にも顧みられない寂しい青春を送るかの二択だ。
いや全くもって、うちのマスターみたいな元気のあり余っている子にはふさわしい舞台だと言えるだろう。
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