近親ものだからと食わず嫌いしてはいけない一作

この読み切りは「弟が兄に恋をしてしまった話」では完結しない一作です。性的描写もキス以上のことは起こらず、二回に渡り描写されたそのキスシーンはいずれも合意の上ではなかったものの軽く唇をついばむ程度のもので決して下品なものではなく、キスという行動よりも唇を重ねた際の兄弟の心理描写の方に焦点が置かれているといった印象。

弟のヒバリが兄のカガリへそういった感情を抱いてしまった経緯は学校内でのいじめ…というより、たった一回小学生特有の「純粋な悪意」に狙われてしまったからだというのがタイトルの「一敗塗地」の意味を回収しているように見受けられます。

カガリという男の内面や葛藤は良くも悪くも生々しく、彼の断片的な情報が最終的に置き手紙の内容に行き着くのも読んでいる最中も読み終えた後も伏線の回収に感服しました。

最終的に静脈を刺して(太ももにナイフを刺すということは静脈出血を狙っていると仮定して)自殺をしてしまった兄は元々患っていたうつ病と弟に対する後ろめたさと恐怖に押し潰され限界が来ていたのでしょうか…。

個人的に一番グッときたシーンは「カガリがテーブルに突っ伏しながら自分の髪を掴んだ」ところです。後々ヒバリの外見について描写されるのですが、髪質のみ「兄と違って」という前置きがされていたのがこのシーンと相まって印象深いものでした。

1万文字弱と30分もあれば読み終えられるこの一作、是非読んでみてください。