君と秘密の交換メッセージ

響ぴあの

第1話

「放課後屋上にきてほしい 北条」

 机の中に手紙が入っていた。

 これは、告白? ラブレター? 私の心はキュンとドキドキが重なる。

 北条君と言えば、学年一のモテ男で私も密かに憧れている。

 まさか、今日の放課後から運命が動く? 期待して屋上に行く。

 すると、「水樹さんのことが好きなんだ。だから、友達の広沢さんに情報提供と協力をお願いしたいと思って」

 ああそうか。がっかりする。仲のいい水樹愛は私の友達で、頼みやすかったのか。

 期待した私が馬鹿だった。

「でも、二人で教室で話すとバレバレだから、メールで情報交換してほしい。もちろんただとは言わない、広沢さんの頼みも聞くよ。たとえば、好きな男子がいるなら情報提供するし」

「そーいうの興味ないし」

 わざとクールなフリをする。

「じゃあ、何かおごったりするから」

「別に何もしなくても情報提供してあげるよ」

 半分やけくそだ。憧れていた人に完全にフラれた。


『水樹愛の好きな食べ物はフルーツパフェ。好きなアーティストは今流行りのトオコ。ああ見えて意外とおっちょこちょいで天然。』

 私が最初に書く。どうせなら、自分のことも知ってほしいと思い、自分の好きな食べ物とアーティストも書いてみる。

『私が好きな食べ物は駅前にあるたいやきで、好きなアーティストはマイナーなんだけどワラワラだよ。』

 北条君に初めてのメール。

『さっそくメールありがと。実は俺も駅前のたいやき好きなんだ。ワラワラ好きがなかなかいなくて、マジで仲間がいてウレシー!』

 すぐに返信したいのをぐっと我慢する。クールな自分でいたいから。

 好きだという気持ちを悟られたくないから。

 ワラワラというのは、最近知る人ぞ知るアーティストで、コアなファンはいるけれど、そんなにメジャーじゃないからファンとリアルに知り合えるというのは滅多にない。いい曲を作っているけれど、刺さる人には刺さるという感じで、大衆受けはしない。こっちこそマジでウレシー!! これってキセキじゃない? こんなに近くにファンがいるなんて。


 すると、その後北条君からメッセージが入る。


『明日の社会の宿題ってどこまでだっけ?』

『62ページから65ページだよ』

 速攻返事するのってカッコ悪いかな。でも、早く返信しないと宿題範囲わからないから、困るよね。と自分に言い聞かせる。


 メールのやりとりは案外楽しい。北条君とは意外と趣味や話が合うことに気づく。


『いつも朝早く登校して緑化委員の仕事をやっているけれど、押し付けられてるんじゃないの?』

 意外にも見られていたのかぁ。頼まれた仕事は断れない性格が災いして、一人ぼっちで毎朝水やりをやっていた。かっこわるいよね。いいように利用されたり、いじめられてるみたいな感じだ。知られたくなかったなぁ。

『断れない性格なんだよね。一人ぼっちで水やりしてるなんてカッコ悪い姿みられちゃったなぁ』

 素直に思っていたことを打ち込む。


『すげーよ。広沢は、率先して面倒な仕事を引き受けている。もし、おまえが水をやらなかったら、花が枯れちゃうだろ』


 肯定的に受け止めてくれていたなんて素直に嬉しいな。思っていた反応と違った。

 いい意味で私のことを見ていてくれたのかぁ。

 にんまり笑顔が止まらない。 


『漫画とか読んだりするの?』


『漫画は大好きだよ』


『少年漫画派? 少女漫画派?』


『少年漫画のほうが実は好きなんだ』


『俺、週刊少年ジャンジャン読んでるんだ』


『私も。その中で頭脳戦の今一番人気の連載漫画にはまってるよ』


『死に追いやるデスゲーム系の漫画だよな。広沢がそういうの読むのって意外だな』


『意外? そういうイメージがあるんだ?』

 

『漫画読むイメージはなかったな』


「私、北条君のこと好きかも」

 ある日、急に水樹愛が私に相談してきた。

 モテるので、さんざん色んな男子の告白を断ってきた水樹愛。

 そんな彼女が好きになるなんて。北条君はやっぱりイケメンでかっこいってことだ。


「告白するの?」

「告白したいけど、恥ずかしい」

 これ、両思い確定じゃん。唯一の私と北条君のつながりは両想いになることによって消えるのか。さびしいな。心の中で泣く。でも、笑顔は忘れない。から元気だ。


『水樹さんって好きな人いるのかな?』

 北条君からメールが来た。

『さあね』

 いじわるな私。

『広沢さんは好きな人いないの?』

 一応私にも気を使って聞いてくれているのかな。

『いる』


 書いちゃった。本当はいないって書こうかと思ったけど、どうせ近々二人は両思いになるだろうし、そうしたら、好きだと伝えられない。伝えられなくても、私には好きな人はいるってことを遠回しに言ってみよう。


『誰?』

 意外と食いついてきた。まぁクラスメイトの好きな人ってのは案外気になるかもしれない。

『秘密』

 これが無難な答えだな。これ以上は答えられない。ここまでが限界。

 本当はあなたが好きですって書きたいところだけれど、恋路の邪魔をするつもりもないし、気まずい関係になることも避けたい。


『なんで? 教えてよ。俺のこと信用してないの?』

 思ったよりも深く聞いてきた。もっと簡単に流してくれると思ったんだけどな。

 

『じゃあ、どんな人が好きなの?』


 それくらいならば、書いてもいいかな。

 これ以上は聞いてこないと思うし。


『意外と趣味が合う人』


『趣味が合うって音楽とか?』


 ワラワラのことだと気づかれたら、私の気持ちがばれちゃうかも。

『話が合う人がいいなって思う』


『そりゃそうだ』


『北条君はどんな人が好きなの?』


『思いやりがあって、優しい真面目な人』


 水樹愛は本当は正反対な性格だ。緑化委員会の仕事もサボってばかりでほとんど何もしない。でも、きっと北条君はそのことに気づいていないのかもしれない。恋は盲目だ。


「私、北条君のことが好きだから、告白しようと思うの」

 手に入らないものはないと思っている自意識過剰な美女は今度は私が仲良くしている北条君を彼氏にしようともくろんでいるらしい。

 もしかして、私の気持ちに気づいて嫌がらせをしているのかなと思う。

 多分そうだ。彼女は本気で誰かを好きになったことはない。

 いつも本気じゃない。彼女は何でも手に入れたいだけだと思う。

 少し前まで違う男子に告白されて付き合ってすぐ別れた。

 自分を好きになってくれたという実績を作りたいだけなことは明白だ。

 でも、彼女の美貌と嘘を平気で言える媚びた唇にみんな騙されるのだ。

 こんな人にとられてしまうなんて……。

 本当の水樹愛の姿を暴露してしまおうか。

 でも、私は性格ブスなのかもしれない。

 自己嫌悪に陥る。


 水樹愛が北条君に告白すると意気込んで呼び出した。

 その時間は手が震え、指先が冷たくなるのがわかった。

 きっと二人はハッピーエンド。

 わかり切った事実に涙が流れる。


 突如教室の扉が開き、水樹愛は顔面蒼白だった。

 息も切初めて見るれている。走ってきたのかもしれない。

 想像とは違う表情。初めて見る表情だ。

 帰ったきた水樹愛は涙目だった。

「だめだった……」

 彼女の声は力がない。

 だめだった? 耳を疑う。

 なんと、意外なことに、断られたらしい。

 100%両想いだと思っていたのに、どうして?


『なんで、断ったの?』

 さっそく北条君にメッセージを送ってみる。

『好きな人ができた』

 何それ? 何のために私が協力していたと思っていたの? 多少なりとも協力者としてはムカついた。


『屋上に来て』

 メッセージが来る。これは、断固抗議しないと。

 どんな気持ちで私が協力したと思ってるの?

 我がままにも程があるよ。

 廊下をダッシュする。

 前髪は風になびきおでこ全開!

 身なりに気を配る余裕はない。

 怒りを露にした私はまっすぐに想いをぶつける。

 屋上には風に髪をなびかせた北条君が立っていた。

 にこにこしていて、とても一人の女子を失恋に追いやった後とは思えない。薄情者! 冷徹!


「告白を断ったってどういうこと? 愛はすごく落ち込んでいたよ」

 勢いよく問い詰める。


「俺、メールやりとりしているうちにおまえのことが好きになった。趣味も合うし、相談もなんでも乗ってくれるし、話しやすいし。いつの間にか、いつも頭の中におまえがいた。好きな人がいるって聞いてからはずっと気になって眠れなかったし」

 案外繊細だ。

 というか予想外な大胆な告白をされてしまった。


「広沢に好きな人がいるなら俺なんて入る余地ないけどさ。俺の気持ちを伝えたくって。これからも仲良くしろよな」

「こちらこそよろしくね。あと、私が好きなのは北条君なんだけどね」

 北条君のまあるい目がさらに大きく丸くなる。

 予想外だったのだろうか。

 だとしたら、想像以上に鈍感な人なのかもしれない。

 あんなに毎日メールを送りあっていたのに、私の気持ちに気づきもしないなんて。

 そう言って私は屋上を後にしようと後ろを向いて歩きだす。

 恥ずかしい気持ちが最大になってその場を立ち去りたくなったのもひとつだ。


「待てよ」

 突如後ろから腕を掴まれる。

 私は案外幸せな人間なのだろうか。

 でも、今すぐ気持ちに応えられない。大好きだけどね。


「今の言葉は、両思いだってことでいいんだよな?」

 真面目な顔で確認される。

「……はい」

「じゃあ、俺と付き合ってよ」

「……でも、愛ちゃんに申し訳ないというか……」

「水樹愛は性格ブスで有名だ。同級生の悪口をいつも言っているし、おまえのことも陰で良く思っていない。そんな奴のために俺たちの恋愛を諦めるのかよ?」

「でも、愛ちゃんにいじめられるかもしれない」

「いじめられたら、俺がやり返すけど、もし、穏便に済ませたいなら、しばらくは今まで通り俺たち二人の秘密の交換メッセージをしないか?」

「秘密の交換メッセージ?」

「今までみたいに二人だけの秘密のやりとりをずっと続けようって思ってさ。ほとぼりが冷めた頃にちゃんと付き合おう。あいつ、尻軽だから、すぐに次の相手が見つかるだろうしな」

「うーん、どうしようかな?」


 わざとじらしてみる。すると、北条君の眉間にしわが寄る。

 この関係を私以上に壊したくないのかもしれない。


「おまえとのメッセージのやりとりの時間は超大切なんだって!!」

 何? そんな深刻な顔で告白されるとは思わなかった。

「お前のことが超絶大好きなんだって」

「……はい」

 としか言えなかった。驚いたのと嬉しかったのでその場にへたり込んでしまった。驚きと喜びが交差する。

 こんなに素敵な人に告白されるなんて……。

「何泣いてんだよ」

 私の瞳からは嬉し涙が自然とあふれた。

「嬉しい時も涙って流れるんだね」

 そんな私の涙を拭ってくれた。

 彼の細くて長い指がとてもとても好きだ。


「俺の手につかまれ」

 差し出された手に手を添えるとさながら王子様とお姫様のような構図になる。

「でも、なんで私なの?」

「俺、面白い人が好きでさ。話が合う人を求めていたんだ。一見お前は面白そうなタイプじゃないけれど、実はとっても面白いということが判明した。そして、趣味があう。これって最高のパートナーだよな。違うとは言わせねーからな」

「たしかに、私達気が合うよね。最高のパートナーになろうね」

「だって、ワラワラ好きな奴っておまえくらいだと思うし」

「この中学で聞いたことはないかも」

 自然と笑顔があふれる。


 自分で言ったくせに、赤面する北条君。私の方まで伝染して顔が赤面する。

 熱を放つ全身。どうすればいいのか悩む。

 ぎこちない距離を保ちつつその日は帰宅した。

 あくまで友達として二人で歩く。


『今度秘密のデートしないか?』

 夜になるとメッセージが届いた。

 クールに見えるのに、実は熱い人なのかもしれない。案外積極的だ。愛される幸せは大切なことだ。


『でも、誰かに見られたら面倒なことになるし、もう少し先におあずけね。』

『泣』

 泣いている絵文字まで添えてある。

 案外可愛らしい。

 クールでただかっこいいという印象が変化する。

 意外と甘える系男子?


『意外な反応に驚き!! あなたの意外性をたくさん知りたい。』

 勝手に指が動き文字を打っていた。彼に想いをたくさん伝えたい。

 伝えたい言葉や想いがたくさんある。


『俺は広沢の意外性をたくさん知ったから好きになったよ。毎日花壇に水やりしている姿や勉強熱心な印象だったのに、実は漫画好きだったとか。趣味が合うのも意外だった。』


『私のことをちゃんと案外ちゃんと見てくれているのは意外かも! というか、好きになってくれたのが意外!』


『俺もおまえを好きになるなんて、意外だと思う(笑)』


 そんな甘い砂糖を舐めるような時間がすぎてゆく。私達は一緒に恋愛をゼロから始める。右も左もわからない私の手をつなぎ引っ張ってくれる。

 砂糖を舐めるような甘い恋は私たちを包む。









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