火のように赤く
外清内ダク
火のように赤く
火のように赤いこのハイヒールに、似合いのスカートを探さなきゃ。今まで
私にハイヒールをくれたあの男の魂胆は分かっている。プレゼントに舞い上がってる醜い私を陰から嘲笑おうというのだ。ひどく節くれだったこの大根足に、なるほど、ハイヒールは似合わない。ドラム缶めいた
だが敢えて私は着ようと思う。ヒールもスカートもブラウスもみんな暖色に揃えた中に、シャツで一点の青味を演出しようと思う。
これは私の反逆だ。
私は私を私で創る。
私は奴を
あの男、労務長。3年前、全国でロボットたちの待遇改善を求めるデモが嵐のように荒れ狂っていたあの年、労務長は私に約束した。私ひとりを面談室に呼び出し――今にして思えば「個別」面談であること自体が証人を作らせない策だったのだ――いかにも哀れを誘う情けない声でこう訴えた。
「3年。3年頑張ってくれないか。
我が部署も経営が楽な状態じゃないから今すぐ待遇改善とはいかない。でも3年後には自由民待遇がもらえるよう取り計らうから」
私は信じた。信じて、働いた。良い働きぶりだったと思う。身を粉にするという慣用句がまさにピッタリと言えるほどの。私は来る日も来る日も高精細有機レンズを完全な寸法に磨き上げ、次の部署へのラインに載せ続けた。
私の磨いたこのレンズは、どこへ行き、何の部品になるのだろう。カメラかな。センサー
いや。
苦しい3年間は、遠火で肌を焼くようにジリジリと私を焦がしていった。一向に自由民待遇の話が来ないことに痺れを切らした私に、労務長はただ苦笑して、
「そんなことを言ったかな? ま、上申してみるが……期待しないでくれよ」
そして、この3年の間に社会情勢はすっかり様変わりしていた。デモは鎮圧され、あれほど乱立していたロボット労働組合はひとつ残らず安全維持部に壊滅させられ、待遇改善要求の機運は雲散霧消してしまっていた。
時間稼ぎの口車に乗せられたのだと、今になって、私は気づいた。
私は馬鹿だ。なぜ人間などを信じたのだろう。なぜ口約束で満足したのだろう。なぜ奴のしょぼくれ顔に同情なんかしたのだろう。私は自由を得る千載一遇の好機をふいにし、果てない労役の道を自ら選んでしまった。泣けるものなら泣きたい気分だ。ロボットの私には落涙する機能はないけれど。
こき使われるのはいい。
待遇が悪いのも耐えられる。
ただ、軽んじられたのが我慢ならない。
ナメた真似をされたことだけが
だから私は決意した。
星を見に行こう。
必要なものは大して多くない。職場から盗み出したレンズが2枚。紙製の筒。ケプラー式
火のように赤く私は燃えて、この手に自由を掴みに行く。
THE END.
火のように赤く 外清内ダク @darkcrowshin
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