燃える街と円卓の騎士
夜月詠
燃える街と円卓の騎士
燃える。燃える。燃える。燃える。
世界が燃える。街が燃える。
神父が、姉達が、弟達が、妹達が……人が燃える。
全てが燃えて、燃えて、燃えて……灰すら残さず燃えて行く。
「あぁ……王よ。偉大なる騎士の王、ブリテンの赤き竜。誇り高きアーサー王よ! どうか、救いを──!」
選定の剣を引き抜き、精霊でありながら妖精となった
どうか、救いを、悪しき竜に鉄槌を、と。
だが、現実は非情で──少年の目の前に街を、人を、その全てを焼き払った
「ひ、ひぁぁ!」
そして、
「サー・ランスロット、サー・ガウェインは私と共に
少年はその剣の持ち主の方へと振り返る。
其処に立っていたのは──金砂の如く輝く金髪と、湖の様に蒼い瞳を持った自分とそう変わらない年頃の少年だった。
だが、何よりも目を引くのはその身に纏った白銀の騎士鎧とその腰に提げた神秘的な文様の入った鞘だ。
「アーサー、王……」
そう。かの少年こそ騎士たちの王。
11人の円卓の騎士を統べるブリテン王。
輝ける聖剣を持って魔猫キャスパリーグを打ち倒せしブリテンの赤き竜、アーサー王である。
「は!」
湖の騎士と讃えられる騎士ランスロットがその剣──毀れずの聖剣アロンダイトを引き抜きながら少年を庇うように前に進み出た。
「少年、サー・ベディヴィア──そう、あの隻腕の騎士だ。彼の背に隠れていなさい。此処にいては巻き込まれてしまう」
少年を立ち上がらせながら太陽に祝福された剣──ガラティーンを引き抜いた、午前中には3倍の力を発揮する騎士ガウェインが、もう一人の騎士、隻腕のベディヴィアを指しながら言った。
「さぁ──こちらへ。私は他の円卓の方々に力こそ劣りますが、それでも。戦闘の余波から民を護る位は出来ます」
「往こうか──
◇
「──────!」
幻獣の域に届くその行動は、それ自体が神秘を有しており、まともに受けてしまえば身体が麻痺し、動けなくなる。
だが──
「ハ──ァッ!」
アーサー王がその剣を一振りし、
「サー・ランスロット! 私は
「了解した。王よ──我等はこのまま吶喊します!」
そう言うが否や、2人の騎士は全力で踏み込み、
無論、純粋な身体能力だけでは無く、魔術と呼ばれる超常の力の一端──身体強化と呼ばれるそれを用いての事だ。
「うわぁ──!?」
無論、そんな高速移動をすれば、その背後にはそれなりの反動──具体的には凄まじい強風が訪れるが、それはアーサー王と騎士ベディヴィアによって防がれた。
「サー・ベディヴィア、私も吶喊する。少年は任せたよ」
「我が王よ、軽率な行動は──!? 待って下さい! 突っ込むのは辞めて下さい──!」
言うや否や、白銀の鎧を纏ったアーサー王は
それを見て、騎士ベディヴィアは眉を潜め、胃のあたりを手で抑えた。ストレスか何かで胃を痛めているらしい。
「──────!」
再度、咆哮が響き渡るが、それは騎士ベディヴィアによって防がれ、少年の元まで届く事は無かった。
今も尚戦っている騎士達は驚く事に、自力で耐えきった。
恐るべき、精神力と耐久力だ。
「ブリテンの民を脅かす者よ! 此処で果てるが良い!」
そして、咆哮した後の無防備な状態の
「逃しはしませんよ!」
「大人しく、王の裁きを受けよ!」
2人の騎士によって地面に繋ぎ止められた。
その四肢と尾を無理矢理引っ張り、逃げられないようにしている辺り、この2人の騎士の剛力が伺い知れる。
「Graaaaaaa……!」
太陽よりも眩い光を纏ったその剣が、
四肢と尾を以て地面に繋ぎ止められようと、
「マーリン!」
その炎は、アーサー王の腰に提げられた鞘が僅かに光輝き、完全に防がれた。
「Arrrrrrr──」
アーサー王は、傷1つ、煤汚れ1つ無い状態で火炎から飛び出し、困惑する
「す、凄い……これが、円卓の騎士とアーサー王……! 格好良い……!」
少年はその瞳を輝かせながら、円卓の騎士とその王を讃える。
これが、これこそが、永久に若き理想の王。
騎士たちの王、赤き竜と讃えられるアーサー王とその武勇の名高き円卓の騎士なのだと。
「少年──怪我は無いかい?」
「──はい!」
太陽の光を浴びて煌めく、王とその騎士の姿に少年は憧れを懐く。いつか、自分も。
あの人達の様に、誰かを救いたい、と。
そして、出来るのなら。
この王に仕え、この恩返しをしたい、と──
「それじゃあ、君の名は覚えているかい?」
「はい。僕の──いや、私の名は──"ガラハッド"。父にも母にも、名を与えられませんでしたが……優しい神父様に与えていただいた名です」
そんな少年の願いは後に叶う事になる。
何故ならば、この少年の名はガラハッド。
「そうか……それは、良い名だね」
燃える街と円卓の騎士 夜月詠 @yatsukiyomi
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