第3問目 驚いた!

「……は?」


 口を開けて固まる私に、目の前のインコが首をかしげてもう一度言った。


「算数ギルドへようこそ! 帆月ほづき!」

「算数――ギルド?」


 目の前に、昔見た建て直す前の郵便局みたいな建物がある。

 とびらの上に看板――確かに「算数ギルド」と書いてあった。


「何これ……ってかここどこ!?」


 辺りを見回すと、まったく見覚えのない街並みが広がっている。

 しかも、何だか変な感じだ。

 バササッとインコが突然飛んで、私の右肩に止まった。


「えっ、ちょっ!」

「いいから中に入るよ! ほら、ドアを開けて!」


 そう言って、私のほっぺたを突っついた。

 訳が分からないまま、私は目の前のとびらに両手を当てて押し開けた。


 ギイィィ……。


 中に入ると、そこは木で出来た大きめの小屋みたいだった。

 手前に広いスペースがあって、向こうにカウンターがある。


「何ここ……マジで郵便局?」

「算数ギルドだよ。さ、ほら、カウンターのところまで行って」

「カウンターって、あれ? 何これ」


 そこには一枚の紙があった。

 何か書いてある。えーと――


依頼いらいしょ

 あなたへの最初の依頼です。

 裏の薬草やくそうえん回復かいふくそうを十本、採取さいしゅしてください。

 取ってきたら、このカウンターの上に乗せてください』


「……何なの? これ」

「帆月へのクエストだよ? さあさっさと達成しちゃおう」

「ちょっと待って」

「え?」

「あんたも肩から下りて」

「どうして?」

「いいから、早く」


 インコはやれやれと言った感じで、カウンターの上に飛び乗った。

 私はひとつ、大きく深呼吸をする。


「ふう――――……分かった」

「何が?」

「夢ね、これ」


 思い出した。

 私はさっき、布団に入ってたんだ。

 夢なら別に不思議じゃないよね。

 インコがしゃべってることも、見知らぬ場所にいることも。

 あと――私以外に誰もいないことだって。

 それに、


「あんた、セシルでしょ?」

「え?」

「とぼけたってダメだからね。あんた、昔飼ってたけど逃げちゃったセシルじゃない。ずいぶん久しぶりね」

「……ボクがセシルってんならそれでもいいけど、夢じゃないからね、ここ」

「はいはい、それで? 私は何すればいいの?」


 セシルってば、インコのくせに肩をすくめた。


「ま、やってくれるんならいいか……そこに書いてあるように、薬草園で回復草を取ってくるのさ」

「薬草園? そんなものどこにあんのよ」

「ここの裏だよ。書いてあるじゃん」

「そうだっけ? まあいいや、案内してよ」


    ◇


 五分後、私は花壇かだんがたくさん並んでいるような場所で、お目当ての草を目をらして探していた。

 セシルはまた、私の肩に乗っている。


「えー……どれよ、回復草って」

「依頼書に絵もあったよね? 自分で探さないと意味ないから」

「うーん――あっ、これかな?」


 私は小松菜みたいな緑色の植物に手をかけた。


 ヴン!

《1+1=?》


「わっ!」


 抜こうとした植物の上に、突然変なものが出てきた。

 あわてて手を引っ込めたら――フッて消えた。


「……セシル、何これ」

「何って、計算問題でしょ?」

「……はあ?」

「出て来た問題、かないと抜けないよ?」

「何か変なシステムね……解くってどうすればいいの?」

「答えを思い浮かべるだけでもいいけど、慣れるまでは口に出すのがオススメ」

「ふーん、分かった」


 私はもう一度小松菜もどきに手を伸ばした。


 ヴン!

《1+1=?》


「3」


 バチッ!


「あいたっ!」

「……帆月って、いい性格してるよね」


 感電したみたいな衝撃しょうげきに思わず尻もちをついた私を、セシルが空中で羽ばたきながら見下ろして言う。


「だって」


 私は立ち上がって、お尻をはたきながら口をとがらせた。


「どうなるか知りたかったんだもん……」

「好奇心が旺盛おうせいなのはいいけどさ、わざと間違えるのはオススメ出来ないなあ」

「……何で?」


 セシルはパタタッと私の肩に止まって言った。


「こんな9級の、一番いっちばん簡単なやつだからその程度で済むけど、もっと難しい問題だったら……」

「だったら?」

「命を落とすことだってあるかも」

「……嘘でしょ?」

「嘘じゃないってば」

「ふーん、まあ夢だから別にいいけどさ」

「夢じゃないってば」

「はいはい、じゃあ真面目にやりますか」


 ヴン!

《1+1=?》


 よく見ると、何か時が止まってる感じがする。


「2」


 答えた途端とたん、シュコッと回復草が土から勝手に抜けた。


「何これ、面白ーい!」


 ヴン!

《1+2=?》

「3」

 シュコッ!


 ヴン!

《3+4=?》

「7」

 シュコッ!


 ヴン!

《8+3=?》

「えっ? えーと」

 バチッ!

「あいたっ!」


 またしても尻もちをついた私に、セシルがため息をつく。


「制限時間もあるから」

「何それ! 先に言ってよ!」

「うーん、こんなに簡単な繰り上がりの足し算でつまづくなんて」


 インコのくせに難しい顔をするセシル。


「君にかかったのろいは、相当強力なんだなあ」

「は? ……呪い?」

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