ヒカルミソラノ

西しまこ

第1話

 空がぴかりと光り、遅れて音がした。


 カミナリ――神鳴り。

 わたしは神様が怒っているように思った。

 また、空が光った。そして遅れて音がする。

 なんだろう? ごめんなさい、という気持ちが溢れてくる。

 何に対して? 分からない。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。


 空は薄暗く、カミナリの光だけが神の怒りのように光っていた。

 小学生のころ、落ちていた消しゴムがかわいくてもらってしまった。そうしたら、それは友だちの花ちゃんのものだった。花ちゃんが、消しゴムがなくなったと困っていても、わたし、言い出せなかった。わたしが持ってるよって。


 空が光る。わたしを責めるように。

 中学生のころ、うっかり綾ちゃんが佐々木くんを好きだっていう話を聞いてしまった。佐々木くん、わたしも好きだった。告白するって言っていたから、焦ってわたし、先に「好きです」って告白した。そうしたら、「おれも好きだよ」って言ってもらえて。すごく嬉しかった。だけど、綾ちゃんのことがほんとうはずっとこころに残っていた。わたしは悪くない。悪くないけれど、告白の後押しをしたのは、綾ちゃんが佐々木くんを好きだと聞いたからだ。佐々木くんと待ち合わせして、帰る。綾ちゃんと、綾ちゃんの友だちの視線が痛い。最初は誇らしいような気持ちだったけど、次第に後ろめたくなって。


 そして、佐々木くんとはすぐに別れてしまった。

「どうして?」って佐々木くんは言う。

 わたしは「もう好きじゃないから」と答えた。

 嘘。

 嘘。ほんとうはずっと好きだった。


 カミナリがどこかに落ちた音がした。

 光る、そして音がする。近い。近くにカミナリが落ちた。


 佐々木くんにごめんねって言えなかった。ほんとうは好きなんだって。

 高校生になっても大学生になっても、わたし、つきあった相手にうまくこころが開けなかった。「好き」がうまく伝えられない。

 みんな、最後は「気持ちが分からないよ」って言って、去ってゆく。


 カミナリが怖い。花ちゃんの消しゴムは捨てた。消しゴムを捨てた日、カミナリが鳴った。初めてカミナリが怖いと思った。佐々木くんに別れを告げた日も、それまで天気だったのに空が光ってカミナリが鳴って、突然雨が降って来た。わたしは雨に濡れながら、押しつぶされそうな気持ちで家に帰った。


 また、空が光った。

 こんなこころ細い夕暮れに、連絡が出来るひともいない。

 薄暗くなった室内。早く電気を点けよう。


 今度はスマホが光った。LINE? ――電話? 誰? 表示を見て涙が出そうになる。嬉しくて。

「もしもし?」

「雷、怖がっているかと思って」

「うん、怖かった――」


 今度は。

 今度はもっとたいせつにしたい。

 テレパシーみたいに気持ちが伝わるこのひとのことを。



   了



一話完結です。

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