第10話 七海さん
家の前には七海さんの赤い車が止まっていた。
四台は止まる駐車場に黄色プレートの車だけというのは何とも寂しいものだ。高校卒業したら絶対車買う。
七海さんからの呼び出し。今までなかったことだったので緊張する。自分の家なのに入るのが億劫だ。
数秒玄関のドアで棒立ちしていたら凛が「早く入ろうよ」と僕の脇腹をつついてきた。
それでも僕がうだうだして入ろうとしなかったので凛が自分のカバンから家の鍵を取り出しドアロックを解除した。
玄関で靴を脱ぎ小心者の僕は七海さんが待っているのであろうリビングへと向かう妹の後をついていった。
いつものことだが七海さんはスーツ姿であった。仕事の合間を縫って僕らに会いに来たのがよくわかる。
僕等が入ってきたことに気づいた彼女は「とりあえず座って」といつもよりも少しトーンの低い声で言ってきた。
言葉通り、僕等は二人横に並んで座った。
凛にいったように大事な話があると、彼女は切り出した。
「私仕事を辞めて実家に帰らなくちゃいけなくなったの。」
彼女は申し訳なさそうにそういった。
それは、僕らの保護者としての気持ちというよりは僕らの両親の会社から離れなくてはいけなくなったことに引っかかっているのだろう。
彼女がもしいなかったら両親の会社はすぐにでも倒産してしまっていただろう。両親の秘書であった彼女が経営を存続させたことで規模は縮小したもののつぶれずに済んだのだ。
「ということは僕らも引っ越しということなの?」
七海さんは首を横に振った。
「あなたたちはここで生活したほうがいいでしょう?」
「私の両親が二人とも疲労で倒れてしまったの、それが私が家に帰る理由。両親のやっている旅館をつぶすわけにはいかないのよ。」
実家が旅館であるのは知らなかった。ということは本当なら僕らになんて構っていないで自分の両親の旅館に帰りたかったのかもしれない。
それを考えると僕らは少し申し訳なくなってしまった。
「法律上は今後も私が保護者だからいつでも頼ってほしい。けれど、子供二人だけで生活させるわけにいかないのよ。」
そこまで言ったとき、自宅の前に黒い高級車が止まった。
それに気づいた彼女は「来た。」と席を立ち上がり僕らについてくるように言った。
玄関を開けると一人の男が家の駐車スぺースにいた。
七海さんは彼にお辞儀をしている。
その男の見た目は歳は五十くらいだが、白髪は全くなく清潔感というよりも高級感を感じる長身の男だった。
その男は七海さんと何かを話した後、僕らの方にやってきた。
「私の名前は驪竜 雅人(りりゅう まさと)」
りりゅう? もしかしてあの驪竜と同じなのか? ということはあいつの親族か?
「君、、、、、、、いや違うな。ここは徹くんというべきだな。徹くんは私の娘と同じ高校に通っているらしいね。」
オーラに負けて握手を求めてきたため吸い込まれるように手を握った。
「驪竜 珠さんのことですよね? 席が隣で仲良くさせてもらっています。」
父親の前であなたの娘はひどい女だと言えるほどの僕のこと肝は座っていなかった。まあ、そんなこと今に始まったことではない。
「仲良くしている?」
一瞬沈黙が流れたため地雷を踏んだと思った。
しかし、それは違っていた。
「それなら大丈夫だな。」
よくわからないけれど彼はどこか安心したような様子だった。
その後七海さんと顔を見合わせて何かアイコンタクトをしていた。僕らにはなにがなんだかわからなかった。
「失礼ですが、どうして驪竜さんはここにいらしたんですか?」
そう言うと、彼は焦って僕らの方を向いた。
「申し訳ない。珠と知り合いだということで大事なことをいうのを忘れてしまっていた。」
そこまで言うと、彼は僕らに信じられないことを言い出した。
「君たちには私の娘たちとここで暮らしてほしいんだ。」
妹>僕の世界でラブコメを!! あざみ みなり @minariazami308
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