第30話 裏切り

天候はじゃじゃ馬さながら気紛れで扱いにくい。遼は最近、そんな印象を持つようになっていた。十一月末から安定を欠き始めた気候であるが、十二月に入っても一向に治まる気配を見せず、冬型の気圧配置で急に寒くなったと思えば、翌日には防寒をあざ笑うかのように暖かい日が訪れるのだ。不安定であっても、一日単位で変わってくれるのであれば未(ま)だしも、やっかいなのは日中に目まぐるしく天候が変わる日だった。そんな日は、深い山中を駆ける遼を特に苦しめる。市街地走行中は暖かいと感じても、山中へ入ると驚くほど寒く、朝の冷え込みは想像をはるかに凌ぎ凍てつく感覚なのだ。おまけに寒い朝は林道が凍ってしまいドリームの走行のじゃまをする。滑り止めにチェーンを巻けばよいのだが、僅かの距離なので面倒だ。勢いそのまま走ることになるが、その結果、遼は何度も転倒してしまった。

 冬の山道を駆けていて、遼は雪の怖さを思い知らされた。凍った道も確かに危険ではあるが、凍結部分は僅かで大滑りは免れる。が、雪道はタイヤを取られると、ズシャー! と際限がない。なす術もなく、転倒したまま滑走が続くのだ。遼は危うくドリームごと、千仭(せんじん)の谷といっても大袈裟でない眼下の谷底へ吸い込まれるところだった。

 その日、家を出るときは晴れていたのに、竹林回廊へ差しかかると白い妖精が舞い降りてきた。愛宕山の山懐に抱かれる頃には、林道はうっすらと雪化粧をほどこされてしまっていた。ハンドルを取られながらの、神経を磨り減らす低速走行に終始していたが、遼は試しみに一度ブレーキを踏んでみた。ほんの軽い気持ちだった。まさかと思っていたのに、ドリームはズシャッ! と突然のスリップとともに、あっという間に転倒すると、後輪を前に激しく横滑りしたのだった。もし道際の切り株がなければ、確実にドリームごと谷底に転落してしまっていただろう。

 かろうじて命拾いした遼は、昨年山手中学からの帰り道、チャリで転倒したときのことが鮮やかに脳裏に甦ってきた。可奈子が亡くなった、あの日のことである。楓の切り株を掴んで立ち上がった遼は、可奈子が自分の命を救ってくれたような、不思議な、見えざる手の存在を感じたのだった。自分を助けるために、可奈子がこんなところで切り株になって守ってくれている。少し後ろめたくもあるが、遼はその日以来、特別の感慨を持って道際の切り株を見つめるようになった。

 雪道で九死に一生を得た翌日から、遼はキャリヤーにタイヤチェーンを準備した。わずかな労を惜しんで命を落とすほど馬鹿なことはない、そう思ったのだ。

 冬の林道はこんな有り様で苦労の絶えることがないが、遼を魅了し、憧憬を覚えることも事実であった。夏や秋と全く違う自然の顔がそこにあるのだ。しんしんとした白い山中は、青年の心に孤独と忍耐を語りかけてくれる。黙々と山中を駆けていると、厳しい自然に共感を覚える。安穏な生活を選んでいたなら、今日のこの日はなかっただろう。そう考えると、自然や日々の出来事を深く心と体に刻みたかった。毎日、過酷な勉学に勤しむ遼にとって、愛宕山の自然や北高での出来事はまさに心の安らぎであった。

 十二月に入ると期末テストが十三日から始まり、短縮授業の後、今年は祭日の関係で二十一日の終業式で二学期が終わる。今年最後のテストにトップの座を確保しようと、強い意気込みをかけて臨んだ遼であったが、今回も保津水の地位を脅かすことは出来なかった。相変わらず彼女がトップなのだ。

 保津水は最近ますます勉学に磨きがかかっていた。なぜか分からないが、遼が自分を抜こうと必死になっている。遼の三国丘高校への転入意図を知らない保津水は、彼が自分に負けるのを潔(いさぎよ)しとしないのであろうと考えた。そう考えると、保津水も遼に負けるわけには行かなかった。すでに心を奪われてしまっているのだ。せめて成績くらいは彼より優位に立ちたいし、持ち前の負けん気も手伝っていた。それに遼と競い合うのは、目の前の身近な、ごく親しいライバルとの競争で、レスポンスの確かさや高揚した気分に浸れ、保津水にとってもわくわくと充実の日々であった。

 北高の北西にある高台の家へ越してから、保津水の朝はゆったりと、心弾む優雅なデートタイムに変わっていた。遼が少し早く着いたときなどは、部屋でコーヒーを飲みながら昨夜解けなかった数学の問題を解いてもらう。コーヒー豆は遼が家から失敬してきた、産地特選のブラジルとブルマンだ。保津水はこれまで紅茶を愛飲していたが、遼が持ち込む豆と父親仕込みの製法はたちまち彼女を魅了してしまった。

「学問の寂しさに耐え孤独を味わうには、この、琥珀色の味と香りでなきゃあ。特にこの香りは最高!」

 と言い切るほどで、しかもブラックですする。シュガーとフレッシュを落とす遼に、

「もう、やめてったら。味が台無しになるじゃない」

 いっぱしのコーヒー党気取りで、聞いたようなセリフを吐くのだった。

 朝、保津水の部屋でのコーヒータイムは遼にとっても心なごむ楽しいひとときである。芯まで冷えた体が温まって、甘い香りに満たされる。清潔で花やか。若い女性の部屋というのは、男にとって居るだけで心地好いものだ。部屋の主を所有できた、そんな気分にも浸れるのだ。

 朝のコーヒータイムには、保津水の母も割り込んでこなかった。新居へ越してからは、京子はよく二人の邪魔をする。それが目的の転居だったのだから、彼女にとっては当然のことであるが、若い二人には憂うつで煩わしい。自ら進んで煙たい存在を演じている京子であるが、彼女の帰宅は午後三時。毎日判で押したようにほぼ三時に帰宅して、娘とボーイフレンドにさり気なく目を光らせる。コーヒーだ、茶菓子だと言って保津水の部屋へ入って来ては、いらぬ世話を焼くのだ。水尾の自宅と違う闖入者に、保津水はふくれっ面で抗議を繰り返したが効果がないと分かると、学校からの帰り道を楽しみながら歩む戦術をとった。校門を出て、写真館を右に折れる。並んでゆっくりと大覚寺へ着くと、心行くまで真言の大本山境内を散策する。松の並木を語らいながら歩き、境内を彩る嵯峨菊の可憐さを愛でるのだ。大覚寺を出ると次は大沢池で、嵯峨天皇の舟遊びの日々を偲びながら小さな池の回りを歩いて、椎の巨木に守られた石仏に手を合わせる。時折、千代の古道を渡って、竹林に包まれた素朴な草庵・直指庵まで足を伸ばす呆れるほど遠回りの帰宅もあった。

 終業式の今日も、大覚寺の境内を出ると、学校を見下ろすなだらかな丘を二人並んで、一歩一歩味わいながら歩いていた。

「ねぇ、明日も楠田君とこでの学習メニューが入ってるの?」

 保津水の問いに、遼は、

「‥‥‥え?」

 首を傾げてしまった。急に浮上した、三学期の転校をどう切り出そうか悩んでいて、保津水の声は耳に届いていなかったのだ。三学期の転入など遼には寝耳に水で思いも寄らなかったのに、照子の強引とも言える主張に引き摺られる結果となってしまった。しかも期末テスト終了直後の十七日に、最初の簡単な説明を受けただけだった。

 照子が聞いてきたところでは、三国丘も一家転住の場合、カリキュラムと取得単位数による調整が第一ハードル。それをクリアすれば、北高における期末試験の成績と面接によって転校の可否が決まるのが原則だった。ただ遼の場合はクレームがついた。一年に二度の転校に、高校側が制度の不正利用のにおいをかいだのだ。なぜ、清嵐高校へ戻らないのか? と問う代わりに、遼には以前の制度の適用が検討されるとのことだった。転入試験実施を考慮するというのだ。

「それはそうだろうね」

 母が入れてくれたコーヒーを飲みながら、遼は反論を口にできなかった。正直なところ、転入制度の不正利用といわれてもいたし方のないことをし、そして次の不正まで目論んでいるのだ。転入試験を課される程度のハンデイは、甘んじて受ける覚悟は疾うに出来ていた。

「遼、遼君。ね、ね。一月七日の転入試験受験の許可が下りたわよ!」

 説明を受けて四日後の二十日の木曜日、照子が再度三国丘高校へ出向くと、一月七日に転入試験を実施してよいとの結論が告げられた。棚ぼたといってよい学校側の判断で、照子は小躍りしたい気分であった。

「またその話か‥‥‥」

 四日前、四月の転入試験対策を話し合い、三学期の転校はパスしたはずなのに、再び三学期の転校を持ち出され、遼は不快を隠さなかったが、母に効き目はなかった。

「三国丘の転入試験は英・数・国だけじゃなくて、理科と社会もあるんだろ。だったら無理だよ。理科と社会は対策が全く出来ていないから」

 北高には未練がありすぎて、保津水と別れる心の準備も出来ていないのだ。遼は理科と社会の対策不足を楯に、母の提案から逃れることにした。

「いいじゃない。受けるだけ受けてみたら。それに何てったって英・数・国の三科目が大事なのよ。嵯峨野北高校の成績も中間テストは学年で七番だから可成りのものだわ。しかも期末は三番だって言ってたでしょう。転入判定で一番大事なのが、直近の試験である期末試験なんだから。学年で三番だったら大丈夫よ」

 照子はなかなか引き下がらなかった。

「だめだよ。一月七日の受験は無謀すぎて、結果が明らかだよ。受けても意味がないんだから。さあ、この話はもう御開きにしよう」

 うんざりした顔で読みかけの新聞をたたみ、遼がダイニングから逃れようとするが、母は執拗だった。

「一月七日の試験がダメだったら、そのまま嵯峨野北高校に残って四月七日の試験を受ければいいじゃない。ウォーミングアップのつもりでも、一月七日に受ける価値があるんじゃない」

 照子は自分でもムキになっているのがよく分かっていた。原因は、秋本保津水という女生徒だった。電話で声を聞いただけだが、どうも彼女とは生理的というか、本質的に合わない気がする。「遼クン」などと、妙に馴れ馴れしい口調も不愉快だし、気の強そうなところも好きになれなかった。

「ね。お願いだから、一月七日の転入試験を受けてちょうだい。また、この前みたいに山道で転倒したら大変よ。大怪我でもしたらどうするの。お母さんは心配でたまらないわ」

 転んで服を破いたときのことまで持ち出されると、

「‥‥‥うん。じゃ、受けるだけは、受けてみるよ」

 合否など意識にもなく、単に母を安心させるためだけの返答だったが、これで受験への手続きが動き始めたことは事実であった。

 今日、終業式が終わって、Qちゃんに会いに行ったのも一月七日の受験のためだった。

「うん。お母さんから連絡もろてたから。―――はい、これ必要書類や。そやけど残念やな。草野は北高を卒業してくれると思ってたのに、こんなに早う出ていくなんて」

 三国丘への転入のために北高を利用したことは分かっているだろうに、Qちゃんはそんな素振りをおくびにも出さなかった。

「でも、きっと落ちるだろうから、もうしばらくやっかいになると思います」

 嫌味の一つも言ってくれると遼も謝罪の言葉を出しやすかったが、自分でもシラけるほど意味のないセリフしか思い浮かばなかった。三国丘の校区内にある引っ越し先を伝え、遼が帰ろうとすると、

「秋本には言ってあるんか?」

 Qちゃんは心配顔で遼を見上げた。やはり苦労人であった。

「突然のことだったので。―――今から言おうと思ってます」

 遼は目を伏せ頭を下げた。苦しい言い訳で、弁解の余地がなかった。確かに母にしつこく迫られ受験を決めたのは昨日であるが、三国丘への転校は北高へ入る前から決まっていた既定の事実であった。保津水にはこれまで言おうと思えば言う機会はいくらでもあったのに、自分のズルさがそれを妨げてきたのだ。遼は自己嫌悪に陥りながら、暗い顔で職員室を出て、保津水の待つ図書室へ向かったのだった。

「ねぇ、楠田君て、どんな感じの人?」

 保津水は道路の手前で、遅れがちの遼を振り向いた。

「さあ‥‥‥」

 遼は答えられない。気が滅入ってしまい、親友を説明する気力も湧かなかった。黙って池のほとりを並んで歩いていると、水面(みなも)の薄い氷に目が向いてしまう。暖かい日差しが嵯峨野を覆っているというのに、未明に張った氷がまだ融けないで残っている。山あいの盆地は冷え込みが厳しく、天神島の小さな森にまで日の光が遮られるのであろう。

 遼は、いまにも割れそうな薄い氷に、強い感慨を覚えていた。自分の心と体も厚い氷に包まれればよい。嵯峨野と保津水の中へ、自分を閉じ込めてほしい。永久に融け出さなければいいのに‥‥‥。現実は思い通りにならず、すでに春を待たずに融け出そうとしているのだ。せめて心だけでも保津水の元に残せればいいのだが、マドンナを見切れない卑しさが邪魔をする。黙って広い道路を横断して、少し坂道を上がると保津水の家に着く。

「ねぇ、どうしたの? さあ、入って」

 庭にたたずむ遼に、保津水が玄関を開けて遠慮がちな笑顔で促す。

「‥‥‥うん」

 重い足どりで、採光の良い長い廊下を奥まで歩いていると、保津水の部屋の前でドアを開けた彼女と鉢合わせた。

「ねぇ、座って待ってて。コーヒーを用意してくるから」

 保津水は遼を残して、ダイニングへ向かおうとする。

「‥‥‥少し話があるんだ」

 保津水の背中に、遼は重い口を開けた。

「なあに、どうしたの?」

 笑顔で振り向いたものの、深刻な遼の仕草に、保津水も顔がこわばってしまう。彼女はぎこちなく遼の向かいに腰を下ろした。

「‥‥‥実は一月七日に、大阪の堺にある三国丘高校の転入試験を受けることになったんだ」

「えっ?!」

 保津水は驚いて、目の前の遼を見つめた。

「これまで話さなくて済まなかったが、初めから三国丘へ転入するつもりだったんだ。そのことを何度も言おうと思ったんだが、言えなくて‥‥‥」

 遼は保津水を正視できずに俯いてしまった。出来れば終業式の今日、こんな話をしたくなかった。先送りできるなら、先送りしたかった。クリスマス・イブを三日後に控えているのに、こんな話題でイブまで打ち壊しになってしまった‥‥‥。そう考えると、母の要求に負けて一月七日の受験に同意した自分が恨めしかった。

 保津水はじっと遼の顔を見つめていたが、彼が俯くと同じように膝もとに視線を落とした。

「やっぱり転校の挨拶のときに言ったことは本当だったのね。『半年間よろしくって』‥‥‥。大阪から北高へ通うのは何か理由があると思ってたわ。でも聞けなかった。遼クンを失うようで怖かったの」

 そう言うと、保津水は顔を上げて、

「でも、どうして? どうしてなの? どうして急に三学期の転入試験を受けることにしたの?」

 非難を含む眼差しで遼を見つめた。

「いや、それは‥‥‥」

 まさか母に急かされたとは言えなかった。

「お母さまね。お母さまが受けろっておっしゃったのね」

「いや、そうじゃなく‥‥‥」

 遼は全身から力が抜けてしまって、消え入るような声だった。

「あなたのお母さんが私を嫌ってることは分かってたわ。電話の応対で分かるの‥‥‥」

 保津水は寂しそうな顔をして俯いた。しばらく黙って考えていると悲しみが込み上げてくる。この人を、と心に決めていたのに、彼は自分の許から去って行く。しかも母に言われて‥‥‥。そう思うと、保津水は遼の不実をなじりたくなる。

「三国丘高校へ転入するために、私の母校を利用したのね。北高なんて、あなたにとっては紙クズ同然で、何の価値もなかったのね。ただ三国丘高校への転入を有利にするための、手段に過ぎなかったのね」

「いや‥‥‥」

 断じてそんなことはない! 遼は声を振り絞って叫びたかったが、三国丘への転入のために北高を利用したのは紛れもない事実であった。しかしこの高校はあまりにも素晴らしすぎた。単なる手段たる地位に甘んじる高校ではなかったのだ。遼は何度思ったであろう。北高を卒業しよう。北高OBとして、名簿の末席に名を連ねたい、と。

「私もそうだったのね。あなたにとっては北高と同じで、虫けらのように踏み潰していく対象でしかなかったのね。ただ北高にいる間だけ楽しく遊べばいい、それだけの価値しかなかったのね」

 遼を見つめる保津水の目から大粒の涙が溢れ出した。

「いや、そうじゃない。俺は―――」

 君が好きだ。君のために三国丘への転入を何度諦めようとしたか知れない、と言おうとしたが、すべて虚しい弁解だった。

「‥‥‥お和がね、石上和代さんが言うの。『草野君は大阪に好きな人がいるんじゃないか』って。ねぇ、教えて。大阪に好きな人がいるの?」

 これ以上ない、悲しみに沈んだ瞳だった。保津水にこんな深い悲しみを与えてまで、一体する価値があるのだろうか、三国丘への転入は。そして、マドンナも。

 遼は何と答えるべきか説明が思いつかず、一瞬、迷ってしまうが、保津水の目を見ると嘘はつけなかった。彼は目をつぶると、肩を落とし、黙ってうなずいた。

「うー!」

 魂が震える呻き声を上げると、保津水はテーブルに突っ伏して何度も何度も絞り出すような声を上げ、嗚咽を漏らした。驚いた遼が保津水の肩に手をかけ、

「彼女とは―――」

 言おうとするが、激しく振りはたかれてしまった。

「触らないで! あなたなんか嫌いよ。帰って―――。もう二度と顔も見たくない。帰ってよ!」

 涙の瞳で遼を睨みつけた。恋人に裏切られた激しい怒りがその目に溢れていた。遼は保津水の怒りに触れて、もはやなす術がなかった。怒りに身を委ね一点を睨んだままの保津水を残し、彼女の家を出るしかなかったのだ。こんな悲しい結果がもたらされようとは夢にも思わなかったが、すべて自分の責任だ。試験に落ちて三学期に再び顔を合わせるだろう。そのとき、保津水に謝ろう。マドンナのことを正直に打ち明けよう。そうすれば少しは怒りを鎮めてくれるかも知れない。暗く沈みながらも一縷(いちる)の望みを抱いて、遼は通い慣れた林道を駆ける。

 ここ数日、激しい寒波をもたらしてきたシベリア気団は、神明峠へ差しかかる頃にはとうとう雪まで舞わせ始めた。山の尾根に切り取られた小さな天空を仰ぐと、すでにどんよりと重い鉛色だった。この分だと、林道は瞬く間に雪に覆われてしまうが、今の遼にはドリームを止めてチェーンを巻く気力もなかった。彼は気紛れな空の天使から逃れるように、また、保津水の涙の顔を振り払いながら、疾風のごとく林道を駆け抜けたのだった。

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