昔、仲良かった女の子と久しぶりに会った
しなとす
第1話
朝、暗く寂しい部屋に目覚ましの音が響く。
「朝か。おはよーございますっと。」
僕以外の誰もいない1人暮らしの部屋で独り言を呟く。
俺の名前は柊優斗。社会人2年目のただのサラリーマンだ。
カーテンを開け、朝の陽ざしを部屋の中に入れる。日当たりは良くないが少しでも太陽の光を浴びるだけで少し、心が軽くなった気がする。
別に仕事が辛いとか、人間関係が上手くいっていないという訳でもない。ただ、1人暮らしの部屋が少し寂しく感じるだけだ。
1人暮らしを始めるときに広めの部屋を借りたのだが、それがまずかったのだろうか。元々、部屋に物をたくさん置くタイプではなかったので、部屋の中に空いているスペースが多い。日当たりの悪い部屋も相まって結果、暗く寂しい部屋になった。
食パンとコーヒーという何の特徴もない朝ごはんを食べ、会社に行く準備をする。
「僕に彼女とかいればこの部屋も寂しくなくなるのかな。」
叶わぬ願いだとわかっていながらも呟いた。
出社の準備を整えて家を出る。
「いってきまーす。」
誰もいない部屋に向けて呼びかけ、家を出る。
いつもと同じ道を通り、いつもと同じ時間の電車に乗って、30分をかけて通勤した僕は、自分に与えられたデスクへと向かい座った。
変わり映えのしない通勤風景に思わずため息が漏れる。憂鬱な気分になりながら仕事を始める準備をしていると、後ろから誰かが肩を叩いてきた。
「よう、柊。今日もパッとしない顔してるな。」
「おはよう、荒木。顔は放っておけ。」
親しげに話しかけてきたこの男は、荒木聡明。190センチ近くある身長に、筋肉質な体、短く切りそろえた髪をしたスポーツタイプのイケメン。こいつは同じ年に入社した同期であり、同じ部署だったことで入社してすぐに会話するようになった。
「毎日よくそんな辛気臭い顔できるな。」
「うるせーよ。」
「なんか面白いこととかねーの?」
「あったらこんな顔してねーよ。」
この男は毎朝、飽きもせずこんな軽口を叩いてくる。毎日、顔について言ってくるのは少しだけ鬱陶しくもあるが、こいつの表裏のない明け透けな性格は接しやすく、あまり交友関係の多くない俺の友達である。
「お前にも彼女とかできれば、もっとマシな顔をするようになるのかね。」
「そんな簡単に彼女ができれば良いんだがな。」
「そうか?お前はその辛気臭い顔さえどうにかすればすぐにでも出来そうなものだがな。」
「そもそも彼女とかいないからこんな顔をしているんだよ。」
「それもそうか。」
荒木と他愛のない話をし、今日の業務を始める。業務内容もいつもと変わらない。今日もいつもと同じ時間に休憩を取り、同じ時間に帰る。
そう思っていた。
時刻は夜の10時、突如見舞われたトラブルの解決に追われ、事態が収拾したときにはこの時間になっていた。
「腹減ったな、さっさと帰ろ。」
最後にご飯を食べたのは昼休憩の時で、さすがにこれだけ時間が空くとお腹も減る。想定外の時間までかかってしまった仕事を終え、すぐに会社を出る。ちなみに荒木は自分の仕事が終わると、すぐに帰っていった。
「何を食べようかな。」
今日の晩御飯のことを考えながら、暗くなったいつもの道を歩いていると、どこからか食欲をそそる匂いがしてきた。その匂いで空腹が限界を迎えたのか、誘われるようにその匂いがする方へ向かった。
「たまには外食も良いだろ。」
そう言って向かった先にあったのは、年期の入ったラーメン屋だった。
「こんなとこにラーメン屋なんてあったんだな。」
2年も通っていて初めて知ったことに少し嬉しさを感じながら、ラーメン屋の中に入った。
「いらっしゃい!」
ラーメン屋の主人に大きな声をかけられながら入店すると、店内を軽く見渡した。年期の入った外観から想像つく通り、店内も同じく年期が入った造りになっていた。店内に客はもう1人、女性の客がいた。ラーメン屋でこの時間に女性1人なんて珍しいなと思いながら、メニューを開いた。
「お客さん注文は。」
「醤油ラーメンひとつ。」
「あいよ。」
注文をしてしばらく待つ。
「醤油ラーメンいっちょあがり。」
客がほとんどいないからか、すぐに出てきたラーメンをすする。チャーシューにメンマ、煮卵とオーソドックスなラーメンは空腹と相まっておいしく、夢中になって食べた。
すると、俺意外のたった一人の客の女性が、食べ終えたのか席を立った。座っていた時は見えなかった顔が見えて、その顔を見た俺は、ついその女性客を目で追ってしまった。
その女性はかなりの美人だった。つい目で追ってしまうくらいに。眺めの髪をポニーテールにまとめ、目はぱっちりとしている。小顔でスタイルは出ているとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる。
正直、今まで見た中で一番の美人だと思う。年齢は同じくらいだろうか、その女性に見とれていると、会計を終えた彼女と目が合ってしまった。
見とれていたため、目が合ったことで気まずくなった俺は、とっさに顔を背けてしまう。
変に思われてしまっただろうか。急に目線を背けてしまったことを申し訳なく思い、もう一度顔を向けると、その女性は驚いた顔をして
「もしかして、柊君?」
と僕の名前を呼んだ。
――――――――――――――――
1話です。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
更新は多分不定期になります。
昔、仲良かった女の子と久しぶりに会った しなとす @sinatos
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