第7話 グワングワンするぅー!



   ◇◇◇◇◇



 ーートアル大森林



 エルの血はやはり最高だった。

 あの2人で味変する事で、改めてエルも最高の食材であると実感した。



 はぁ~……。エルは嫉妬状態が1番だなぁ~……。それに……、やはり《吸血》されるのも悪くない。


 ユーリの血でポワポワとする時とはまた違った感覚だし、脳内に快楽物質が流れ込んでくるのも、慣れが来ないものだな……。



 眠たい……。



 魔獣も来ているようだが相手にするのも面倒だ。


 いつもなら、エルと2人で昼寝する時間だし、木陰が続いていると言えど、日光が眩しすぎる。



 太陽の日差しは苦手だ。

 長時間さらされていると溶けそうになってしまうし、丸一日、日を浴びていれば俺はおそらく死んでしまうだろう。


 毎日、陽の光にさらされる事を考えれば、1日3時間程度を目安にしなければ……。一種の生存本能だろうが、尋常ではないほど喉が渇くのも厄介なんだよなぁ。



 まったく……旅は面倒ごとが多い。



 日傘でも用意しなくてはな。



 《吸血》された事による「もうなんでもいいや!」というクールタイムの中、そんな事をぼんやりと考えていると、そろそろ魔獣のお出ましのようだ。




『『『キュォオオオン!!』』』




 「梟頭の熊」が3体が咆哮を上げながら、こちらに向かって走ってくる。



「ア、アイリス!! "オウルベア"だ!」



 ユーリは腰の剣を抜き迎撃体制を整え、アイリスはユーリの後ろで杖を構えた。



「ジーク様! 助力を!!」



 アイリスは叫ぶが俺は首を傾げる。


「……ん? 俺が助力するのは他の魔王の時だけじゃないのか?」


「……!? あなたはユーリのパーティーに加入したのですよ!?」


「……え、あ、そうか……?」



 俺はふわぁあと大きなあくびをすると、アイリスは無表情で俺を見つめて固まった。



「アイリス!! さ、3体もいる! とりあえず僕が!」


「えっ、あっ、はい! 援護します! ユーリ! “即死だけ”は気をつけて下さい」



 梟頭の熊は3方向からユーリに襲いかるが、ユーリはスルリと躱しながら剣を振るう。



 ガッ!!



 致命傷には程遠い、擦り傷程度の傷を与えた。


 大きく振りかぶる熊の爪を、また躱しては切り傷を与え、躱しては傷を与えてを繰り返し続けているのだが……。



「エル。ユーリは何をしているんだ? あんな必死な形相で遊んでいるのか?」


「ふふっ……エルにはとても楽しそうに見えますよ?」


「本当におかしなヤツらだな……。アイリスもあんなに真剣な顔をして、ユーリが遊んでいるのを見守っているのか?」


「エルにはわかりかねますが、邪魔するのも悪いですよね?」


「まったく……。大怪我をして血を無駄にするような“遊び”は控えさせんとダメだな」



 ガキンッ!!!!



 ユーリは爪を受け流し損ねて、後方に吹き飛ばされ大木に背を打ちつけたが、



「《回復(ヒール)》!」



 アイリスがすぐに魔術をかけた。


 魔術陣が浮かび上がるが、なかなか複雑な術式が組み込まれている。


 おそらくは《修復》系のもの?

 なるほど。

 アイリスの回復力の高さはコレか……。



「ありがとう! アイリス!!」



 ユーリはすぐさま立ち上がり駆け出すとまた懲りずに“遊び”始めた。


 アイリスはなかなか優秀な女だと感心するが、なぜそれを『攻撃』に使用しないのか……? 


 初見ではちゃんと“読めなかった”が、使いようによっては効果を発揮しそうなものだが。


 ユーリにしてもそうだ。アイツの剣は“あのジジイ”が持っていた、持ち主を選ぶ“魔剣”のようだが、なぜ剣と『同調(リンク)』しないのか……。



 正直、意味がわからない。



 《吸血》にも抗って俺に惚れないし、こんな危険を犯しても縛りプレイで頑張る姿は、俺の理解の範疇から逸脱している。



「くっ、さすが[A+]の魔物だ。ジークさん! 少しは戦ってくれない? 僕はもう3度も血をあげたでしょ?」


「その通りです! 『11項』に、“ユーリと私の困窮時、力を行使しなければならない”と伝えたはずです!!」



 ユーリはまた迎撃に出向き、アイリスもそれに倣った。



 11項? はて……知らないんだが? 

 ……あっ。そうか。あの時はすぐに眷属にできると思って……



 モヤァア……



「……まったく。厄介な腕輪だな」


 俺は自分の手首に禍々しい気配を感じて顔をしかめる。憶測でしかないが、アイリスの「〜項」に反応するとみた。


「……ご主人様。ずっと気になっていたのですが……。どのような《契約》を? エルは内容をお聞きしておりませんでしたが……」


「ん? 他の七種魔王(セブンス)を屠る助力をする代わりに、《吸血》を受け入れるというモノだ」


「……なんと愚かな……。《吸血》される事がどれほどの幸福だと……。もう屠ってしまっていいですか?」


「ふっ。ダメだ……。こんなことなら詳しく聞いておくんだったな。24もあるらしいし……」


 エルは俺と同じ真紅の瞳をバッキバキに見開き、アイリスとユーリを睨みつけるが、俺はある事に気づきペロリと唇を舐めた。



 あんな魔獣に“困窮”しているとは考えにくいが、その時のアイツらはどんな味がするのだろう……?



「ハハッ……。エル。嫉妬する準備はいいか?」


「……えっ? ご、ご主人様!?」



 俺はまず後方でユーリを心配そうに見つめているアイリスの背後へと加速した。


 耳元に顔を寄せ、ペロリと首を舐めて囁く。


「んんっ!!」


「アイリス。今日の分はまだだろう?」


「……!! ジ、ジーク様! 今はそれどころじゃ」



 カプッ……



「んんんっ!! ジー、ク……さま……んっ……はぁあっ……ぁっ……」


 

 腰が砕けそうになるアイリスの細い腰を後ろから支え、牙を立てる。


 ほぉ……なるほど……。

 爽やかな苦味。コクは相変わらず、上品で深い……。いつもより粘り気が増したアイリスの血……。



「んんっ、いま、は……はぁあっ!!」



 う、うんまぁあ……!!


 アイリスの血は《吸血》するたびに全て飲み干してしまいそうになる。


 かなり奥まで牙を入れているから、誰よりも押し寄せる快楽物質が多いだろうに……。



「んっ……ぁっ、はぁ、んっ……」



 本当によく耐える。

 おそらくは《吸血》されている時、先程の魔術を何度も何度も展開してあらがっているのだろうが……、



 ガリッ!!



「はぁあっ!! ぁっあ、あっ……!!」



 最奥まで突き立て、とめどなく口に溢れるコクと苦味のセッションを堪能する。


 

 ビクッビクッビクッ!!



 堪らなく美味だが、“困窮時”よりはいつもの“羞恥”の方が勝るか……。



 ヌプッ……



 ガクガクと震えるアイリスから牙を抜き、ゆっくりと地面に座らせると、もう1人へと視線を向ける。



「はぁ、はぁ……なっ、何を考えているのです!!」


「次はユーリだ」


「それは! 今、戦闘時なので、」


 アイリスを放置し、一瞬で加速しユーリを拘束すると同時に、フワリと宙に浮く。



「えっ、ジークさ、」



 ガッ!!



「んんっ! なっ、んんんっ!!」



 牙を立てた瞬間に、喉が焼けるように熱くなり、反射的にすぐに抜いてしまった。



「ちょ、ちょっと、ジークさん!!」



 真っ赤な顔をしたユーリが、俺の視界の中でグワングワンと揺れている。


 あ、熱ッ……喉が焼けるぞ!!

 あぁ……なんだこれ。すごいな!!

 

 味わう事すらも出来なかった。

 味わうことを拒否した。


 それなのに口に残る甘み。

 鼻に抜けた香りは今も残っている。


 焼け付くような熱が喉に張り付いて……。あ、あぁ〜……うん。


 ……やっぱりコイツの血は癖になる。


 高濃度の酒はこんな感じなのだろうか?

 不思議だ。美味いのか不味いのかもわからなかったのに、もう一度牙を突き立てたくて仕方がない……。



「お、降ろしてよ!! アイリスと“エルさん”が危ない! オウルベアは強力な魔物なんだよ!」


「……ユーリ。お前はズルいな。いつも少しだけしか飲む事を許さない」


「な、なな、何言って!! そんな事より、早くオウルベアを討伐しなきゃいけ、ひゃ、ひゃあっ!!」



 俺は言葉を遮るように、ユーリの首をペロリと舐め取り、ポーっとする頭に頬を緩める。



(アイリスを避難させてくれ)


(承知いたしました……)


 頭上からエルに《念話》を送り、エルは口を尖らせながらもアイリスを抱えて宙に浮いた。




『『『キュォオオオンオオンッ!!』』』




 地面から咆哮を上げる「梟頭の熊」は木を登り始めたが、その姿はひどく滑稽だ。



 俺はユーリがつけた数箇所の切り傷を視認して手をかざす。



「ちょ、ジークさん!! 何して、」


「《爆ぜろ》……」



 ユーリの言葉を遮り《命令》すれば……、



 パンッ! パパパパパパパパーンッ!!



 無数の爆響が森にこだまする。



「……なっ…………えっ?」



 驚愕するユーリを手に抱えたまま、地面に降り立ち、フラッとタタラを踏む。



 おぉー……地面が揺れる!

 なんだこれ! ハ、ハハッ!!

 楽しぃーなぁー!!



「えっ? ジークさん?! 大丈、」

 

「ご主人様から早く離れなさい! このクソ虫が!」



 フワリと香ったのは、嗅ぎ慣れたとても甘い香り。



 モニュんッ……



 顔を包んでくれるのはこの世のモノとは思えない柔らかさをほこる不思議な癒し効果を持つおっぱいだ。



「……エル。眠たい……」


「んっ……! は、はい。おやすみなさいませ、ご主人様……」



 ふわふわでもにゅもにゅの至高の枕に顔を埋め、とても嗅ぎ慣れたエルの香りに俺は堪らず瞳を閉じた。








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